72 / 114
中編
23.赦罪-2
しおりを挟む「あなたはどうして私を知っていたの。話したこともなかったはずでしょう」
「わからない。いつの間にか、そうなっていた。おそらく些細なことだから覚えていないのだろう。その時の記憶を探っても、弟の顔が一瞬過るだけだ」
「あなたの弟さんとも、話したことは無いけど」
「多分君が弟の同級生だから、関連情報として引き出されたんだと思う」
結局アルヴィドは、偶然イリスへ目をつけて、偶然その機会があったから犯したのだろうか。イリスは釈然としなかった。
そんなイリスを見て、アルヴィドは一層苦々しい表情を浮かべ、視線を地面へ落とす。
「理由を求めているのかもしれないが、正直なところ、そう呼べるものは出てこない可能性が高い。覚えていないが想像はつく。昔の私は、周りの人を見下して、他人は自分のための使い捨ての存在だと、心の底から考えていた。父親だけはどこか恐れていたから違うのだろうが、誰かを傷つけ陥れても、遊びとしか感じていなかっただろう。君のことも、おそらくそうだ。報復を受けてなお、罪の自覚も反省もまるで記憶にない。むしろ逆恨みしていた……」
アルヴィドは過去の自分への嫌悪感を表情で露わにする一方、激しく非難する言葉は使わず、ただどのように考えていたかを説明する。隠せないほど嫌忌しているが、自ら非難しては過去の自分を他人のように扱うことになるからだ。責任逃れにならないよう、あくまで自分のことだと戒めている。
「他の人にも、していたの」
「それは違う!」
アルヴィドは弾かれたように顔を上げた。
「信じられないだろうが、あのような惨いこと……、違法行為を働いたのは、あれが初めてだ。確かにいくらか忘れていることもあるが、そういった思考の記憶がある。あの頃の私は、自分の将来の瑕疵にならないよう振舞いに相当気を払っていた」
「でも何というか、手慣れてた」
「それは……、その、合意の相手が、何人かいたからだ」
恋人とは表現しないことから、体だけの関係の女性が複数いたと考えられた。
ただ、嘘や言い訳ではなさそうで、彼の目は話しづらい内容に揺らぎつつも、真っ直ぐイリスを見ている。
「なら、なぜ私には、罪を犯せたの」
目を付けたきっかけは忘れたというが、決断させた理由が別に存在するはずだ。
「……酷い理由だ」
「私は知っておきたい」
「教師含め、大勢が君への低俗な噂を信じていた。私もだ……。それで、君が相手なら、万が一告発されても私が勝てると思ったからだ」
「……その予想は、正しかったわ」
証拠になるものは消してから立ち去った。
また、その後の停学処分に対する周囲の反応からしても、彼の、そして当時のイリスの予想通り、誰も信じてはくれなかっただろう。
だからイリスは、自分の手で証明するしかなくなった。
セムラクで心を守りながら、記憶の鏡の使用権を得て、アルヴィドの前でグンナルへ潔白を示し、告発を行ったのだ。
10
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
【完結・R18】結婚の約束なんてどうかなかったことにして
堀川ぼり
恋愛
「なに、今更。もう何回も俺に抱かれてるのに」
「今は俺と婚約してるんだから、そんな約束は無効でしょ」
幼い頃からクラウディア商会の長である父に連れられ大陸中の国を渡りあるくリーシャ。いつものように父の手伝いで訪れた大国ルビリアで、第一王子であるダニスに突然結婚を申し込まれる。
幼い頃に交わしたという結婚の約束にも、互いの手元にあるはずの契約書にも覚えがないことを言い出せず、流されるまま暫く城に滞在することに。
王族との約束を一方的に破棄することもできず悩むリーシャだったが、ダニスのことを知るたびに少しずつ惹かれていく。
しかし同時に、「約束」について違和感を覚えることも増え、ある日ついに、「昔からずっと好きだった」というダニスの言葉が嘘だと気づいてしまい──…?
恋を知らない商人の娘が初恋を拗らせた執着王子に捕まるまでのお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
【R18】姫さま、閨の練習をいたしましょう
雪月華
恋愛
妖精(エルフ)の森の国の王女ユーリアは、父王から「そろそろ夫を迎える準備をしなさい」と命じられた。
それを幼いころから共に育った犬耳の従者クー・シ―(犬妖精)族のフランシスに告げると、彼は突然「閨の練習をしましょう」と言い出して!?天真爛漫な姫と忠犬従者の純愛ラブコメ。R18表現多。
第一部(姫と犬君が全話でいちゃらぶ)。第二部(姫の政略婚のゆくえ)。
お互いが大好きな可愛いい主従のいちゃらぶ。リクエストを頂き第二部も追加。
ムーンライトノベルズにも掲載。
【R-18】貴族嫌いのメイドはお仕えしている坊ちゃんに溺愛される
みどり
恋愛
貴族嫌いのメイド、ルーチェには秘密がある。それはルーチェが貴族の私生児だということ。ルーチェは父に復讐するため、貴族の屋敷でメイドとして働いていた。
憎しみを忘れない彼女を、なぜかお仕えしている家の坊ちゃんは気に入ったみたいで……
(R-18 1話完結です)
【R18】さよなら、婚約者様
mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。
ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!?
それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…!
もう自分から会いに行くのはやめよう…!
そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった!
なんだ!私は隠れ蓑なのね!
このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。
ハッピーエンド♡
【R-18】【完結】皇帝と犬
雲走もそそ
恋愛
ハレムに複数の妻子を抱える皇帝ファルハードと、片足の悪い女官長シュルーク。
皇帝はかつて敵国の捕虜にされ、惨い扱いを受けた。女官長は彼を捕らえていた敵国の将軍の娘。
彼女の足が悪いのは、敵国を攻め滅ぼした際に報復として皇帝に片足の腱を切られたからだ。
皇帝が女官長を日々虐げながら傍に置く理由は愛か復讐か――。
・執着マシマシなヒーローがヒロインに屈辱的な行為を強要(さして反応なし)したり煮詰まったりする愛憎劇です。
・ヒーロー以外との性交描写や凌辱描写があります。
・オスマン・トルコをモチーフにした世界観ですが、現実の国、宗教等とは関係のないフィクションです。
・他サイトにも掲載しています。
【完結】生まれ変わった男装美少女は命を奪った者達に復讐をする
ユユ
恋愛
フロワ王国は北に位置する大陸だ。
半分は凍り付いて使い物にならない土地だった。
王国民は土地の加護により氷の魔法が使えた。殆どは冷やす程度の弱い魔力で強くても一部を凍らせるくらいのものだった。
国王は裏切りにより分断された中央、東、西、南の王国を手に入れ再度国を統一するためにある少年と契約をした。
五国統一に尽力し成し得た時にはひとつ何でも望みを叶えると。
ノアは反故にしないよう国王に誓約紋を刻んだ。
ノアの望みは仇を討つことだった。
* 作り話です
* 恋愛要素は最初は薄めです
* 魔法もこの話だけのもので勝手に作りました
* 完結しています
* 合わない方はご退室願います
【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす
堀 和三盆
恋愛
「ヴィクトリア、紹介するよ。彼女を私の妃として娶ることにした」
(……この人はいったい誰かしら?)
皇后ヴィクトリアは愛する夫からの突然の宣言に混乱しながらも――――心の片隅でどこか冷静にそう思った。
数多の獣人国を束ねている竜人の住まう国『ドラゴディス帝国』。ドラゴディス皇帝ロイエは外遊先で番を見つけ連れ帰るが、それまで仲睦まじかった皇后ヴィクトリアを虐げるようになってしまう。番の策略で瀕死の重傷を負うヴィクトリア。番に溺れるロイエの暴走で傾く帝国。
そんな中いつの間にか性悪な番は姿を消し、正気を取り戻したロイエは生き残ったヴィクトリアと共に傾いた帝国を建て直すために奔走する。
かつてのように妻を溺愛するようになるロイエと笑顔でそれを受け入れるヴィクトリア。
復興する帝国。愛する妻。可愛い子供達。
ロイエが取り戻した幸せな生活の果てにあるものは……。
※第17回恋愛小説大賞で奨励賞を受賞しました。ありがとうございます!!
【完結】モブ令嬢ですが、好きな人が悪役令嬢に惚れているので、襲います!【R18】
世界のボボ誤字王
恋愛
ごきげんよう、モブの皆さん。安心してください。わたくしもモブですわ。だって平民同様、魔力が無いのですもの。
わたくしが平民落ちしないためには、魔力の強い高位貴族と結婚するしかありませんの。
でも大好きな公爵令息は悪役令嬢に夢中なのです。
わたくし、どうすれば彼と結婚できるかしら……ねえ?
【悪役令嬢と呼ばれている私のこと、あなた本当は大好きなのでしょう?】のスピンオフになります。魔法有り世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる