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前編
4.復讐-2
しおりを挟む数か月後。年度末近くに開催される学園祭。その中の定例の催しとして、ベゼルスという盤上遊戯の大会が開催される。
ルーヘシオン魔術学校の創始者たちが集った当初の理由は、ベゼルスの遊び仲間だったという。そこから学校の起源にあたる重要な競技として、全校挙げての大会を毎年行っているのだ。
優勝者には、学校に伝わる強力な魔法道具のいずれかを、一度だけ使う権利が与えられる。他人の害にならない範囲と制限はあるが、幸運を授けられる魔法道具など有益な物も数多く存在する。生徒たちは幸運を求め、真剣に優勝を狙いしのぎを削った。
とはいえ普段から盛んに行われているベゼルスの対戦により、誰が勝つかはおおむね目算が付いていた。
最有力候補はベゼルス部の部長すら下す実力を持つ、アルヴィドであった。生徒たちの予想通り、彼は順当に勝ち上がり、決勝の場に立つ。
一方でその決勝の対戦相手は、想定外の人物が勝ち上がってきていた。
それは、数か月前に停学処分を受けた、イリスだった。
元はベゼルス部員だったが、処分期間が明けてすぐ退部していた。それまでは、強者ぞろいの部内でも飛びぬけた存在ではなかった。ところがこの大会では、別人のような強さで決勝までのし上がってきたのだ。
学内の全員が見守る中行われる決勝は、まるで薄氷を踏むような心理戦を繰り広げる。
そして全校生徒の下馬評を覆し、アルヴィドの王の駒を、イリスの兵士の駒が打ち倒した。
公衆の面前でアルヴィドに土をつける。だがこれはイリスの復讐の、ごく一部でしかなかった。
◆
大会の後イリスが望んだのは、記憶の鏡と呼ばれる魔法道具の使用だった。
記憶の鏡は、使った者の中にある記憶を、鏡面に映し出して見せることができる。その場限りの効果しかない、これまで優勝者に選ばれたことのない道具だ。
イリスは飲酒の冤罪で自らを処分した、学年主任のグンナルを立会人に指名した。更に、アルヴィドを含めた三名で鏡を使うことを希望した。記憶を見ることに害はないだろうと、それは許可された。
なぜ呼ばれたのか知らないアルヴィドは、鏡にかけられた埃除けの布が取り払われて、僅かに顔色を変えた。彼はイリスの意図に気が付いたのだ。
イリスがグンナルとアルヴィドへ見せたのは、あの日の記憶だった。
同級生に頼まれて同行した古い寮の一室に、アルヴィドが現れ、飲み物を差し出す。薬の盛られたそれを飲んでしまい、抵抗できなくなったところを襲われた。記憶の鏡は聴覚の記憶も再現する。彼がイリスを犯す間投げつけた聞くに堪えない暴言も、全て鏡面から響き渡った。
凄惨な行為にグンナルは青ざめ、アルヴィドは普段の笑みを潜めつまらなさそうに、セムラクで平常を保つイリスは無表情に自分の記憶を眺めた。
「なるほど、このために僕を負かしたのか。意外と執念深いな、お前」
犯行を暴かれても、アルヴィドに悪びれる様子は無かった。エーベルゴートの家門の力をもってすれば、もみ消せると思ったのかもしれない。
だが、イリスの本当の復讐は、彼の犯行の証明ではない。
「セーデルルンド、これは……」
薬を盛られて凌辱された女子生徒に、自分が一体何をしたのか。理解してしまったグンナルは、分かりやすく動揺を見せた。
「先生、取引をしましょう」
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