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夢じゃなかった編
20.騙し騙され(3)
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翼をはためかせて動きを確かめていると、草を踏む音が近づいてきた。
目線を下へ向ければ、翼の風圧に少し押されながら、半魔がファフニールの方へ向かってきていた。
「上手くいったみたいだね」
『ああ。……だが、人の肉体には戻らなかったようだ。七日間ドラゴンの肉体で過ごしていたからかもしれない』
一瞬忘れていたが、ファフニールは勇者のふりをして半魔の協力を得ている。
本当に勇者なら夢の中の魂は人型のはずなので、ドラゴンの姿をしていることについて言い訳をしておかなければならなかった。
「……まぁ、あっちも危険を察知したらドラゴンの姿へ戻るだろうから、それなら互角の戦いができるんじゃないかな」
半魔は特段不審に思うそぶりもなく、ファフニールの説明を受け入れた。
『それで、どちらへ行けばいい』
ここから勇者の夢へ向かわなくてはならない。
すると半魔は周囲をきょろきょろと見渡し、一方を指さした。
「あそこで夢が繋がってる」
いつの間にか、平原の青空が綺麗に一直線に途切れ、そこから夜になっている場所があった。それが夢の繋ぎ目らしい。
そう遠くないことと、半魔は飛べないことから、歩いてそちらへ向かうことになった。
無言で先導する半魔と歩いていると、ファフニールは不意にあることが気になった。
現実では焦りや体力の消耗から頭が回らなかったが、おかしなことがある。健常な夢の中であるからこそ気が付けた。
半魔は、ファフニールに対し、夢へ自身を招き入れるよう指示した。
そうしなくては夢へ入れないというなら、最初からこれまで警戒を続ける勇者の夢へは、なぜ侵入できたのか。
普通の人間相手にそのような支障はないはずだ。そうでなくては、夢魔たちは自由に食事ができなくなる。だから、普通の人間相手であれば承諾なしに夢へ侵入できると考えられる。
そうなると半魔は、ファフニールがあれはドラゴンのものだ、と嘘を吹き込んでいる勇者の夢を、承諾なしに侵入できたことから、人間、すなわち勇者の夢だと判断できているのではないか。
逆に承諾が必要なファフニールの夢を、人間以外、すなわちドラゴンの夢だと認識しているのではないか。
『ルディ……。この先で待っているのは、誰だ?』
勇者の声音を使った幻聴の魔法。
半魔はびくりと肩を震わせ、立ち止まった。
ぎこちなく振り返ったその表情は、疑問ではなく、緊張の色があった。
(やはり、こいつ……!)
騙されたふりをしていたのだ。
目線を下へ向ければ、翼の風圧に少し押されながら、半魔がファフニールの方へ向かってきていた。
「上手くいったみたいだね」
『ああ。……だが、人の肉体には戻らなかったようだ。七日間ドラゴンの肉体で過ごしていたからかもしれない』
一瞬忘れていたが、ファフニールは勇者のふりをして半魔の協力を得ている。
本当に勇者なら夢の中の魂は人型のはずなので、ドラゴンの姿をしていることについて言い訳をしておかなければならなかった。
「……まぁ、あっちも危険を察知したらドラゴンの姿へ戻るだろうから、それなら互角の戦いができるんじゃないかな」
半魔は特段不審に思うそぶりもなく、ファフニールの説明を受け入れた。
『それで、どちらへ行けばいい』
ここから勇者の夢へ向かわなくてはならない。
すると半魔は周囲をきょろきょろと見渡し、一方を指さした。
「あそこで夢が繋がってる」
いつの間にか、平原の青空が綺麗に一直線に途切れ、そこから夜になっている場所があった。それが夢の繋ぎ目らしい。
そう遠くないことと、半魔は飛べないことから、歩いてそちらへ向かうことになった。
無言で先導する半魔と歩いていると、ファフニールは不意にあることが気になった。
現実では焦りや体力の消耗から頭が回らなかったが、おかしなことがある。健常な夢の中であるからこそ気が付けた。
半魔は、ファフニールに対し、夢へ自身を招き入れるよう指示した。
そうしなくては夢へ入れないというなら、最初からこれまで警戒を続ける勇者の夢へは、なぜ侵入できたのか。
普通の人間相手にそのような支障はないはずだ。そうでなくては、夢魔たちは自由に食事ができなくなる。だから、普通の人間相手であれば承諾なしに夢へ侵入できると考えられる。
そうなると半魔は、ファフニールがあれはドラゴンのものだ、と嘘を吹き込んでいる勇者の夢を、承諾なしに侵入できたことから、人間、すなわち勇者の夢だと判断できているのではないか。
逆に承諾が必要なファフニールの夢を、人間以外、すなわちドラゴンの夢だと認識しているのではないか。
『ルディ……。この先で待っているのは、誰だ?』
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半魔はびくりと肩を震わせ、立ち止まった。
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(やはり、こいつ……!)
騙されたふりをしていたのだ。
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