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夢編
2.裏切り者(2)
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夕刻の空で翼をはためかせ、黒い血を流しつつ魔王城から遠ざかっていくドラゴン。その足にしがみついたまま、ルディは自分の考えを整理していた。
ジークがドラゴンに食い殺されたと分かったあの時、他の誰でもなく、半分魔族のルディだけが気付いたことがあった。
人間の場合、素養があれば他の生き物の魔力の有無と強弱を感じ取ることができるが、魔族の場合、それに加えて魔力の質の個体差も判別できる。
ゲオルグとフローラにも、あの場に残った魔力を持つ生き物はドラゴン一体だけだとわかっただろう。しかしルディには、そのドラゴンから放たれる魔力に、ドラゴンの元の魔力だけでなく、ジークの持っていた清らかな魔力が混じっていると感じ取った。
魔力は魂に宿る。魂が消滅すれば、魔力も感じ取れなくなる。
死んだはずのジークの魔力がドラゴンに混じっていたということは、肉体は失ったが、ドラゴンの中に彼の魂が宿っているということではないか。
その可能性に気付いたルディは、ゲオルグがドラゴンを殺そうとするのを止めた。
魂は宿るべき肉体がなければ消滅する。本当にジークの魂が残っているのなら、ドラゴンを殺せば魂も失われ、彼は完全に消えてしまう。
肉体を蘇らせる魔術などない。魂だけの存在になったジークをどうするのか、考えがあったわけではない。それでも魂だけでも残っているなら、ルディにとってジークはまだ死んでいない。
だからドラゴンを守った。
ジークの魔力を感じることなど知らない仲間たちは、ルディが裏切ったのだと思っている。
フローラは優しいが判断はいつでも冷静かつ迅速で、今回もルディが説明する暇すらなく魔術で雷撃を放った。
ゲオルグにも剣を向けられ、二人が事情を聞きもせず裏切り者と断定したことに、ルディは気落ちせずにはいられなかった。旅の中で長い時間を共にしてきたというのに、薄っぺらな信頼であった。
あともう少し時間があれば説明して理解してもらえたかもしれないが、ドラゴンが飛び立とうとしていた。ジークの魂が本当に残っているのか確信はなかったが、逃げられてはその謎を究明することもできない。
ルディは仲間たちへの説明よりもジークを見失わないことを優先し、ドラゴンの足にくっついてきたのだった。
◆
日が落ちるまで飛び続けたドラゴンは、どこかの森の上空でようやく高度を落とした。
開けた場所を見つけてゆっくり下りていく。翼に起こされた風が、夜の森の木々を波音のように騒めかせる。
ルディは落ちないようにドラゴンの足へ結び付けていた自分の剣帯を手早く解き、足場にしていた甲から地面へ降り立ち距離を取った。
ドラゴンは着地した瞬間、轟音と共に地面へ倒れ伏した。
ごう、ごう、という荒い呼吸を繰り返しながら、ドラゴンの瞼が下がっていく。
後ろ足を一本失っているだけではない。首に深い傷を負った瀕死の体で飛び続け、血も大量に流したのだから弱っていて当然だ。
人間で同じ状態なら移動するどころかとっくに死んでいるが、それでも持ちこたえているのは、ドラゴンが強靭な生命力を持つ魔族の中でも高位の種族であったからだろう。
ルディはドラゴンの出血が止まっているのを離れたまま確認すると、近くの木の根元に座り込んだ。
「ジーク……」
ルディはドラゴンへ神経を集中させた。
やはりドラゴンの禍々しい魔力の中に、ジークの魔力を感じる。
魔力を感じるからといって、本当にジークの魂は無事なのか。一つの肉体に二つの魂が宿ることはあり得るのか。あり得るとすれば、それはどんな事態を引き起こすのか。
今は弱っているが、体力が回復すればこのドラゴンはまた暴れ狂う可能性がある。ゲオルグからドラゴンを守ったことが正しいことだったのか、ルディには判断できない。
しかし、ルディはジークを死なせたくなかった。現状生きているとは言い難いが、それでも何か奇跡的な可能性があるなら、どんなことでも見逃したくない。
ルディにとって、ジークは自らの命より大切な存在だ。
疲労困憊したルディの思考に靄がかかっていく。
膝を抱えて丸くなり、ルディは気を失うように眠りに落ちていった。
ジークがドラゴンに食い殺されたと分かったあの時、他の誰でもなく、半分魔族のルディだけが気付いたことがあった。
人間の場合、素養があれば他の生き物の魔力の有無と強弱を感じ取ることができるが、魔族の場合、それに加えて魔力の質の個体差も判別できる。
ゲオルグとフローラにも、あの場に残った魔力を持つ生き物はドラゴン一体だけだとわかっただろう。しかしルディには、そのドラゴンから放たれる魔力に、ドラゴンの元の魔力だけでなく、ジークの持っていた清らかな魔力が混じっていると感じ取った。
魔力は魂に宿る。魂が消滅すれば、魔力も感じ取れなくなる。
死んだはずのジークの魔力がドラゴンに混じっていたということは、肉体は失ったが、ドラゴンの中に彼の魂が宿っているということではないか。
その可能性に気付いたルディは、ゲオルグがドラゴンを殺そうとするのを止めた。
魂は宿るべき肉体がなければ消滅する。本当にジークの魂が残っているのなら、ドラゴンを殺せば魂も失われ、彼は完全に消えてしまう。
肉体を蘇らせる魔術などない。魂だけの存在になったジークをどうするのか、考えがあったわけではない。それでも魂だけでも残っているなら、ルディにとってジークはまだ死んでいない。
だからドラゴンを守った。
ジークの魔力を感じることなど知らない仲間たちは、ルディが裏切ったのだと思っている。
フローラは優しいが判断はいつでも冷静かつ迅速で、今回もルディが説明する暇すらなく魔術で雷撃を放った。
ゲオルグにも剣を向けられ、二人が事情を聞きもせず裏切り者と断定したことに、ルディは気落ちせずにはいられなかった。旅の中で長い時間を共にしてきたというのに、薄っぺらな信頼であった。
あともう少し時間があれば説明して理解してもらえたかもしれないが、ドラゴンが飛び立とうとしていた。ジークの魂が本当に残っているのか確信はなかったが、逃げられてはその謎を究明することもできない。
ルディは仲間たちへの説明よりもジークを見失わないことを優先し、ドラゴンの足にくっついてきたのだった。
◆
日が落ちるまで飛び続けたドラゴンは、どこかの森の上空でようやく高度を落とした。
開けた場所を見つけてゆっくり下りていく。翼に起こされた風が、夜の森の木々を波音のように騒めかせる。
ルディは落ちないようにドラゴンの足へ結び付けていた自分の剣帯を手早く解き、足場にしていた甲から地面へ降り立ち距離を取った。
ドラゴンは着地した瞬間、轟音と共に地面へ倒れ伏した。
ごう、ごう、という荒い呼吸を繰り返しながら、ドラゴンの瞼が下がっていく。
後ろ足を一本失っているだけではない。首に深い傷を負った瀕死の体で飛び続け、血も大量に流したのだから弱っていて当然だ。
人間で同じ状態なら移動するどころかとっくに死んでいるが、それでも持ちこたえているのは、ドラゴンが強靭な生命力を持つ魔族の中でも高位の種族であったからだろう。
ルディはドラゴンの出血が止まっているのを離れたまま確認すると、近くの木の根元に座り込んだ。
「ジーク……」
ルディはドラゴンへ神経を集中させた。
やはりドラゴンの禍々しい魔力の中に、ジークの魔力を感じる。
魔力を感じるからといって、本当にジークの魂は無事なのか。一つの肉体に二つの魂が宿ることはあり得るのか。あり得るとすれば、それはどんな事態を引き起こすのか。
今は弱っているが、体力が回復すればこのドラゴンはまた暴れ狂う可能性がある。ゲオルグからドラゴンを守ったことが正しいことだったのか、ルディには判断できない。
しかし、ルディはジークを死なせたくなかった。現状生きているとは言い難いが、それでも何か奇跡的な可能性があるなら、どんなことでも見逃したくない。
ルディにとって、ジークは自らの命より大切な存在だ。
疲労困憊したルディの思考に靄がかかっていく。
膝を抱えて丸くなり、ルディは気を失うように眠りに落ちていった。
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