44 / 79
13.蹂躙-4 *
しおりを挟む
(この女……!)
ファルハードは衝撃を受け、凌辱の最初から覚えていた怒りが体じゅうで暴れまわるのを感じた。血管が破裂し、指がちぎれても構わない。そのつもりで後ろ手の拘束を外そうと無茶苦茶に力を込めた。
「ああ? 落ち着いてきちまったか……」
男がなぜか不満そうな呟きを漏らす。その意図は、男がシュルークの首を両手でつかんだことで判明した。
「あ……、がッ……!」
後ろから首を絞められ、息を求めてシュルークは仰け反った。
その間も男は律動を止めず、口を歪めて笑っている。
「知ってるか、皇子様よぉ! 女は首を絞めてやればアソコも締まるんだぜ!」
男の指が、シュルークの首に食い込み続ける。呼吸が著しく制限されている。
シュルークは命の危機を感じているのか、男の腕を振り払おうと身を捩って無駄な抵抗をした。
その時、ぶち、という音と共に、ようやくファルハードの腕を縛っていた紐が切れた。
「やめろ! 処刑前に殺すつもりか!!」
すかさず轡も取り払って男を怒鳴りつける。
だが男は拘束が取れたことに少しの間驚いただけで、すぐに不敵な笑みを戻した。
「そんなヘマはしねぇよ。俺がどれだけの女をこうしてきたと思う?」
「ぁ……!」
男は見せつけるようにさらに力を込める。シュルークは体を硬直させ、息を吸えない口からは潰れたような音と、唾液が零れていく。
反射的なものか、舌が少しずつ口から伸びる。だが、眼差しはまだ正気を手離していない。
「くっ……!」
ファルハードは鉄格子の隙間から必死に手を伸ばした。だが元からこちらの牢は体を伸ばすことはおろか立ち上がることもできない。伏せたままでは、シュルークの繋がれた両手には届かなかった。
「何も見るな! 早く忘れろ!」
早くいつもの、何も見ず、何も記憶しない虚ろな状態になればいい。そうすれば苦痛を感じないはずだ。
その一心でファルハードはシュルークに声をかけたが、彼女は聞き入れない。少し緩められた喉から、必死に息を吸っている。
「ああ……、出るぞ、そろそろ……。受け止めろ……!」
やがて男は、シュルークを窒息死させることなく愉しみ、精を吐き出した。
そしてシュルークの手を鉄格子に縛りつけていた紐を解いたが、終わりの合図ではなかった。戦場帰りの猛りを、何度もその体へぶつけたのだ。
牢の中のファルハードに、男を止めることは出来なかった。むしろ興に乗らせたかもしれない。
シュルークには、何度も忘れろと言い続けた。だが、ファルハードが犬らしくない振る舞いをするだけで例のぼんやりした状態へ陥っていた彼女は、この醜悪で残酷な『嫌なこと』の間、一度たりとも意識を手離さなかった。
その矛盾の理由を、ファルハードは理解してしまっていた。
――私はあの時、いつものように何も見なかった。……もうあんな思いをするのは嫌なの。だから今度こそは逃げないで、あなたのことを守るからね。
以前シュルークはファルハードにそう告げたのだ。彼女は自分の犬の危機から目を背けないと誓った。だから、父親に勝手な行動が露見したこの危機的状況で、一切虚ろにならなかった。自身にどれほどのおぞましい苦痛が降りかかっても、愛犬の危機を脱していないから、逃避をして自分の精神を守ることを選ばなかった。
「ふざけるな……!」
男に体を使い終わられ、地面に打ち捨てられたシュルークに、ファルハードは腕を伸ばした。投げ出された手に今度こそ指先が届き、繋ぐというには僅かな部分を重ねる。
ファルハードがシュルークに復讐として与えるつもりだった苦痛は、この程度ではない。もっと残酷な責め苦の末に処刑する。だからこんな女が凌辱されようと、まだ生きているのであれば知ったことではない。
それなのに、彼女に必死に守られ憐れまれた自分自身を、耐えがたい怒りが焼く。少し嫌な目に遭うだけで殻へ閉じこもる、弱い幼子のような女に。
せめてシュルークが、いつもどおりすぐに虚ろになっていれば、このような無力感を味わうことはなかった。
(そうしていればこの女も、このようなおぞましい記憶を抱えることはなかった)
静かになった地下牢で、ファルハードは項垂れた。
ファルハードは衝撃を受け、凌辱の最初から覚えていた怒りが体じゅうで暴れまわるのを感じた。血管が破裂し、指がちぎれても構わない。そのつもりで後ろ手の拘束を外そうと無茶苦茶に力を込めた。
「ああ? 落ち着いてきちまったか……」
男がなぜか不満そうな呟きを漏らす。その意図は、男がシュルークの首を両手でつかんだことで判明した。
「あ……、がッ……!」
後ろから首を絞められ、息を求めてシュルークは仰け反った。
その間も男は律動を止めず、口を歪めて笑っている。
「知ってるか、皇子様よぉ! 女は首を絞めてやればアソコも締まるんだぜ!」
男の指が、シュルークの首に食い込み続ける。呼吸が著しく制限されている。
シュルークは命の危機を感じているのか、男の腕を振り払おうと身を捩って無駄な抵抗をした。
その時、ぶち、という音と共に、ようやくファルハードの腕を縛っていた紐が切れた。
「やめろ! 処刑前に殺すつもりか!!」
すかさず轡も取り払って男を怒鳴りつける。
だが男は拘束が取れたことに少しの間驚いただけで、すぐに不敵な笑みを戻した。
「そんなヘマはしねぇよ。俺がどれだけの女をこうしてきたと思う?」
「ぁ……!」
男は見せつけるようにさらに力を込める。シュルークは体を硬直させ、息を吸えない口からは潰れたような音と、唾液が零れていく。
反射的なものか、舌が少しずつ口から伸びる。だが、眼差しはまだ正気を手離していない。
「くっ……!」
ファルハードは鉄格子の隙間から必死に手を伸ばした。だが元からこちらの牢は体を伸ばすことはおろか立ち上がることもできない。伏せたままでは、シュルークの繋がれた両手には届かなかった。
「何も見るな! 早く忘れろ!」
早くいつもの、何も見ず、何も記憶しない虚ろな状態になればいい。そうすれば苦痛を感じないはずだ。
その一心でファルハードはシュルークに声をかけたが、彼女は聞き入れない。少し緩められた喉から、必死に息を吸っている。
「ああ……、出るぞ、そろそろ……。受け止めろ……!」
やがて男は、シュルークを窒息死させることなく愉しみ、精を吐き出した。
そしてシュルークの手を鉄格子に縛りつけていた紐を解いたが、終わりの合図ではなかった。戦場帰りの猛りを、何度もその体へぶつけたのだ。
牢の中のファルハードに、男を止めることは出来なかった。むしろ興に乗らせたかもしれない。
シュルークには、何度も忘れろと言い続けた。だが、ファルハードが犬らしくない振る舞いをするだけで例のぼんやりした状態へ陥っていた彼女は、この醜悪で残酷な『嫌なこと』の間、一度たりとも意識を手離さなかった。
その矛盾の理由を、ファルハードは理解してしまっていた。
――私はあの時、いつものように何も見なかった。……もうあんな思いをするのは嫌なの。だから今度こそは逃げないで、あなたのことを守るからね。
以前シュルークはファルハードにそう告げたのだ。彼女は自分の犬の危機から目を背けないと誓った。だから、父親に勝手な行動が露見したこの危機的状況で、一切虚ろにならなかった。自身にどれほどのおぞましい苦痛が降りかかっても、愛犬の危機を脱していないから、逃避をして自分の精神を守ることを選ばなかった。
「ふざけるな……!」
男に体を使い終わられ、地面に打ち捨てられたシュルークに、ファルハードは腕を伸ばした。投げ出された手に今度こそ指先が届き、繋ぐというには僅かな部分を重ねる。
ファルハードがシュルークに復讐として与えるつもりだった苦痛は、この程度ではない。もっと残酷な責め苦の末に処刑する。だからこんな女が凌辱されようと、まだ生きているのであれば知ったことではない。
それなのに、彼女に必死に守られ憐れまれた自分自身を、耐えがたい怒りが焼く。少し嫌な目に遭うだけで殻へ閉じこもる、弱い幼子のような女に。
せめてシュルークが、いつもどおりすぐに虚ろになっていれば、このような無力感を味わうことはなかった。
(そうしていればこの女も、このようなおぞましい記憶を抱えることはなかった)
静かになった地下牢で、ファルハードは項垂れた。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~
一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、
十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。
ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は
その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。
幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、
目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。
彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。
訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、
やがて彼に対して……?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない
扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!?
セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。
姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。
だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。
――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。
そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。
その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。
ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。
そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。
しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!?
おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ!
◇hotランキング 3位ありがとうございます!
――
◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる