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11.露見-1

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「ほら取ってきてー!」
「くっ……」

 晴れた日の庭で、溌溂とした笑顔のシュルークが、棒切れを投げる。よくある飼い犬との遊びだ。
 父親である将軍が、遠征で王都の外へ出ておりしばらく帰らないらしく、シュルークは大っぴらにファルハードを連れ出すようになった。地下牢のある裏庭ではなく、より広くて日当たりもよい、屋敷の表に近い庭で遊ばせる。
 遊ぶといってもファルハードは何一つとして楽しくない。彼女の投げた棒切れを四つん這いでのろのろと追い、口でくわえて持って帰るだけだ。
 家人たちも、通りがかって目にすると気味悪そうに顔を歪め、急いで立ち去る。どうやら家族は父親と娘だけのようだ。他は使用人と私兵だけで、恐ろしいことにシュルークはその全員の弱みを握り終えたそうで、誰も主人に娘の悪行を報告しない。彼女は頭はおかしいが、利口でもあった。

 より大勢の前に出されることとなり、ファルハードの屈辱は一層増した。なにせ、犬は服を着ない、という一見当たり前のシュルークの主張により、ファルハードは全裸に首輪で飼われている。
 加えて、帝国だけでなくこの王国でも、首から下の体毛は一切処理するのが慣習だ。陰毛を他人に見られることは特に恥ずべきことである。それなのにファルハードは、虜囚のため剃刀などを借りられず、未処理の下半身を晒す羽目になっている。
 シュルークによる『犬の散歩』を見慣れてきた使用人や兵士の幾人かは、ファルハードの醜態を密かに嘲笑した。ファルハードは耐えたが、見咎めたシュルークが「どうして私の犬をそんなふうに嗤うの?」とぞっとするような冷たい目で問い詰めた結果、笑う者はいなくなった。

 不幸中の幸いとでも言うべきか、ファルハードにとって都合のいいこともあった。散歩中、人間として運動ができるようになったのだ。
 長らく狭い牢に入れられていたため、体はなまり、筋肉は痩せ、少し動くだけで息が切れる。それを改善するために、牢の前室に出されるようになった頃から少しずつ鍛え始めてはいたが、満足にはできない。それが、散歩に連れ出されるようになったおかげで、庭で走るなどの体力づくりが可能となった。
 なお、その間シュルークは、ファルハードが犬らしくない動きをしているため、無表情で反応しなくなる、例の『何も見ないぼんやりした状態』になるが、無視して放置している。ファルハードとしては、彼女の望む犬としての遊びにはいくらか付き合い満足させてやっているのだから、こちらの運動の間ぐらい黙って待っておけと思っている。
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