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03.女官長-2

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 女奴隷たちには給金が支払われている。妃になり、子供を産めば、その額は更に上がっていく。マハスティが用意したこの首飾りは、その給金で購入したものだ。ファルハードから贈られた宝飾品も持っているだろうが、彼女は絶対にそれは手放さない。野心的なようで、彼女はただ皇帝を愛してしまっているのだ。愛する人からの贈り物を他人に渡しはしない。
 しかし、シュルークはそんなことはどうでもよかった。

「お引き受けできません」

 先ほどから変わらない、微かすぎる笑みを口元に貼り付けたままのシュルークの、端的ではっきりとした拒否に、マハスティは柳眉を逆立て睨みつけた。
 その様子に怯むことなく、シュルークは朗々と告げる。

「まず、陛下がいずれの女性をお選びになるか、私が誘導をすることはございません。私が陛下にご提供するのは、月経周期と占術より導き出された懐妊の可能性が高い方の情報のみです。体調不良を除いて、各人からの意見や要望を伝えることは公平さに欠けるため差し控えております」

 シュルークは公正な仕事ぶりでも有名だった。ただ、もう一年も会えていないと涙ながらに訴える妃すら冷たく切り捨てるので、公正というより情がないと言われている。

「次に、私ども女官にこういった高額な宝飾や金品を贈ることは、贈賄に当たります。私が受け取れば成立して双方の犯罪行為となります」
「こんなこと、皆しているわよ」

 四角四面な受け答えに、マハスティは呆れて吐き捨てるように抗議する。これは彼女の言うとおりで、皇宮のみならず市井でも、金額規模は異なれど賄賂は日常的にやり取りされていた。ほとんどの市民が、金持ちほど有利になると多少の不満を持ちつつも、一般的な潤滑剤だと考えている。

「ええ。この定めが形骸化し、贈収賄が横行していることは認識しております。ですが、法は法です。また、マハスティ様はご存じないようですが、『私には』意味がありません」

 どうしてシュルークには意味がないのか、それを教えてくれる友や、情報を集めて来られる配下が、マハスティにはいなかったということでもある。
 シュルークは未だ宝石箱を差し出している奴隷を手で制し、下がらせた。

「私は私財を持てないようになっております」
「……どういうこと?」

 思わぬ答えに、マハスティは眉を顰めた。だがシュルークは首を横に振るばかりである。

「陛下のご命令です。仮に私がそれをお受け取りしても、その日のうちに没収されるでしょう。毎日私室を点検されるのです。そのため、私に物を下さっても意味がありません。蓄えるすべがないのですから」

 当然使えると思っていた手段が効かないことではなく、シュルークの異常な状況にマハスティは困惑していた。奴隷にさえ認められている蓄財が許されないなど、一体どういうことなのか。
 それを、気まぐれなところはあれど、人を残虐に貶めることなどないファルハードが命じたとは、彼を愛するマハスティは信じられなかった。しかし、女官長が虚偽を口にするとも思えない。

「ご用向きは他にございませんね。私はこれで失礼いたします」

 マハスティの疑問を察して解消してやることもなく、シュルークは礼を執ってから居室を後にした。
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