上 下
153 / 180
解決編

61:呼び出し(3)

しおりを挟む
 シュザンヌの手紙が纏う、彼女の部屋の香り。それが彼女の居室の光景を思い出させる。彼女の持つ山のような封筒と便せんの中に、あの金の縁取りの封筒があった。
 ロレンサの侍女が暗号の記された封筒を届けに行った相手は、シュザンヌだったのだ。

 シュザンヌは外部からの情報を刺客たちに伝え、彼らからの伝言を封筒へ刻み、ロレンサの侍女へ託す。侍女はロレンサから詩人への返信をその封筒に入れて、商人へ渡した。商人は封筒だけを、外部の刺客たちの背後の黒幕に届ける。

 彼女が刺客たちと繋がっていることは間違いない。なぜなら、シュザンヌの呼び出したこの場所に、刺客が現れたのだから。
 そもそも、秘密の話ならここではなく、彼女の居室でする方が人に聞かれづらい。シュザンヌは刺客が動きやすい屋外の、人目につかない小庭園へ呼び出し、メルセデスを殺させようとした。

 あの刺客たちは、これから皇帝を襲いに行く。しかしシヒスムンドは、もとより今日刺客が現れると警戒して、皇帝を守るつもりでいる。
 メルセデスには刺客を止めることも、シヒスムンドを支援することもできない。殺されるところであったという恐怖で、手は震えが止まらず、足は萎えている。

 今できることは、シヒスムンドたちが皇帝を守り切れるように祈るだけではないか。

(……違う。まだ、考えることがある)

 シュザンヌは、なぜメルセデスを殺させようとしたのか。

(口封じ? 陛下が暗殺された後、私がシュザンヌ様を犯人だと告発すると思われている?)

 しかし、メルセデスはシュザンヌに殺されそうになって初めて、彼女が刺客の協力者だと気づいた。この件以外に、彼女の何を知ってしまったというのか。

「……戦勝祝い」

『わたくしたちだけでも戦勝祝いを準備しましょうか。……そうだわ。次の陛下と愛妾の顔合わせには、将軍閣下もいらしてくださらないかしら』

 メルセデスはシュザンヌの提言を、名案だと思った。そうすべきと思い、シヒスムンドに皇帝の護衛として後宮へ同行することを頼んだ。シヒスムンドは元からその予定だったが、提案したメルセデスの行動はシュザンヌの言葉がきっかけだ。

 シュザンヌはその以前に、メルセデスとシヒスムンドが何らかの方法でやり取りしていると見抜いていたのだ。シュザンヌはメルセデスを巧みに誘導し、メルセデスの意思で、シヒスムンドを後宮へ呼ぶよう仕向けた。

 シヒスムンドは後宮の全ての女に受け入れられているわけではない。彼の目の魔力を受けたことのある者たちからは恐れられている。それはシュザンヌも知っている。
 戦勝の功労者だからといって、後宮の平穏を重んじるシュザンヌが、均衡を保つためでもないのにシヒスムンドを率先して後宮へ招き、一部の不安を煽ることなど、普段であればしないはずだ。

 シュザンヌは、自分の役目に反してでもシヒスムンドを皇帝に同行させたかった。
 刺客と繋がるシュザンヌが、シヒスムンドを後宮へ呼び寄せたいと望んだ。

 刺客が待っていたもう一つの条件とは、シヒスムンドではないか。
 彼が狙われているのだ。

「閣下……!」

 侍女殺害後の交流会で、皇帝が刺客の待ち受ける後宮へ足を踏み入れたにもかかわらず、何も起きなかった。それは、狙いのシヒスムンドがいなかったからだ。

 もう、皇帝は新たな愛妾の部屋へ入っているはずだ。
 メルセデスは小庭園を飛び出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

絶倫騎士さまが離してくれません!

浅岸 久
恋愛
旧題:拝啓お父さま わたし、奴隷騎士を婿にします! 幼いときからずっと憧れていた騎士さまが、奴隷堕ちしていた。 〈結び〉の魔法使いであるシェリルの実家は商家で、初恋の相手を配偶者にすることを推奨した恋愛結婚至上主義の家だ。当然、シェリルも初恋の彼を探し続け、何年もかけてようやく見つけたのだ。 奴隷堕ちした彼のもとへ辿り着いたシェリルは、9年ぶりに彼と再会する。 下心満載で彼を解放した――はいいけれど、次の瞬間、今度はシェリルの方が抱き込まれ、文字通り、彼にひっついたまま離してもらえなくなってしまった! 憧れの元騎士さまを掴まえるつもりで、自分の方が(物理的に)がっつり掴まえられてしまうおはなし。 ※軽いRシーンには[*]を、濃いRシーンには[**]をつけています。 *第14回恋愛小説大賞にて優秀賞をいただきました* *2021年12月10日 ノーチェブックスより改題のうえ書籍化しました* *2024年4月22日 ノーチェ文庫より文庫化いたしました*

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

【R-18】記憶喪失な新妻は国王陛下の寵愛を乞う【挿絵付】

臣桜
恋愛
ウィドリントン王国の姫モニカは、隣国ヴィンセントの王子であり幼馴染みのクライヴに輿入れする途中、謎の刺客により襲われてしまった。一命は取り留めたものの、モニカはクライヴを愛した記憶のみ忘れてしまった。モニカと侍女はヴィンセントに無事受け入れられたが、クライヴの父の余命が心配なため急いで結婚式を挙げる事となる。記憶がないままモニカの新婚生活が始まり、彼女の不安を取り除こうとクライヴも優しく接する。だがある事がきっかけでモニカは頭痛を訴えるようになり、封じられていた記憶は襲撃者の正体を握っていた。 ※全体的にふんわりしたお話です。 ※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています。 ※表紙はニジジャーニーで生成しました ※挿絵は自作ですが、後日削除します

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...