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解決編
61:呼び出し(3)
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シュザンヌの手紙が纏う、彼女の部屋の香り。それが彼女の居室の光景を思い出させる。彼女の持つ山のような封筒と便せんの中に、あの金の縁取りの封筒があった。
ロレンサの侍女が暗号の記された封筒を届けに行った相手は、シュザンヌだったのだ。
シュザンヌは外部からの情報を刺客たちに伝え、彼らからの伝言を封筒へ刻み、ロレンサの侍女へ託す。侍女はロレンサから詩人への返信をその封筒に入れて、商人へ渡した。商人は封筒だけを、外部の刺客たちの背後の黒幕に届ける。
彼女が刺客たちと繋がっていることは間違いない。なぜなら、シュザンヌの呼び出したこの場所に、刺客が現れたのだから。
そもそも、秘密の話ならここではなく、彼女の居室でする方が人に聞かれづらい。シュザンヌは刺客が動きやすい屋外の、人目につかない小庭園へ呼び出し、メルセデスを殺させようとした。
あの刺客たちは、これから皇帝を襲いに行く。しかしシヒスムンドは、もとより今日刺客が現れると警戒して、皇帝を守るつもりでいる。
メルセデスには刺客を止めることも、シヒスムンドを支援することもできない。殺されるところであったという恐怖で、手は震えが止まらず、足は萎えている。
今できることは、シヒスムンドたちが皇帝を守り切れるように祈るだけではないか。
(……違う。まだ、考えることがある)
シュザンヌは、なぜメルセデスを殺させようとしたのか。
(口封じ? 陛下が暗殺された後、私がシュザンヌ様を犯人だと告発すると思われている?)
しかし、メルセデスはシュザンヌに殺されそうになって初めて、彼女が刺客の協力者だと気づいた。この件以外に、彼女の何を知ってしまったというのか。
「……戦勝祝い」
『わたくしたちだけでも戦勝祝いを準備しましょうか。……そうだわ。次の陛下と愛妾の顔合わせには、将軍閣下もいらしてくださらないかしら』
メルセデスはシュザンヌの提言を、名案だと思った。そうすべきと思い、シヒスムンドに皇帝の護衛として後宮へ同行することを頼んだ。シヒスムンドは元からその予定だったが、提案したメルセデスの行動はシュザンヌの言葉がきっかけだ。
シュザンヌはその以前に、メルセデスとシヒスムンドが何らかの方法でやり取りしていると見抜いていたのだ。シュザンヌはメルセデスを巧みに誘導し、メルセデスの意思で、シヒスムンドを後宮へ呼ぶよう仕向けた。
シヒスムンドは後宮の全ての女に受け入れられているわけではない。彼の目の魔力を受けたことのある者たちからは恐れられている。それはシュザンヌも知っている。
戦勝の功労者だからといって、後宮の平穏を重んじるシュザンヌが、均衡を保つためでもないのにシヒスムンドを率先して後宮へ招き、一部の不安を煽ることなど、普段であればしないはずだ。
シュザンヌは、自分の役目に反してでもシヒスムンドを皇帝に同行させたかった。
刺客と繋がるシュザンヌが、シヒスムンドを後宮へ呼び寄せたいと望んだ。
刺客が待っていたもう一つの条件とは、シヒスムンドではないか。
彼が狙われているのだ。
「閣下……!」
侍女殺害後の交流会で、皇帝が刺客の待ち受ける後宮へ足を踏み入れたにもかかわらず、何も起きなかった。それは、狙いのシヒスムンドがいなかったからだ。
もう、皇帝は新たな愛妾の部屋へ入っているはずだ。
メルセデスは小庭園を飛び出した。
ロレンサの侍女が暗号の記された封筒を届けに行った相手は、シュザンヌだったのだ。
シュザンヌは外部からの情報を刺客たちに伝え、彼らからの伝言を封筒へ刻み、ロレンサの侍女へ託す。侍女はロレンサから詩人への返信をその封筒に入れて、商人へ渡した。商人は封筒だけを、外部の刺客たちの背後の黒幕に届ける。
彼女が刺客たちと繋がっていることは間違いない。なぜなら、シュザンヌの呼び出したこの場所に、刺客が現れたのだから。
そもそも、秘密の話ならここではなく、彼女の居室でする方が人に聞かれづらい。シュザンヌは刺客が動きやすい屋外の、人目につかない小庭園へ呼び出し、メルセデスを殺させようとした。
あの刺客たちは、これから皇帝を襲いに行く。しかしシヒスムンドは、もとより今日刺客が現れると警戒して、皇帝を守るつもりでいる。
メルセデスには刺客を止めることも、シヒスムンドを支援することもできない。殺されるところであったという恐怖で、手は震えが止まらず、足は萎えている。
今できることは、シヒスムンドたちが皇帝を守り切れるように祈るだけではないか。
(……違う。まだ、考えることがある)
シュザンヌは、なぜメルセデスを殺させようとしたのか。
(口封じ? 陛下が暗殺された後、私がシュザンヌ様を犯人だと告発すると思われている?)
しかし、メルセデスはシュザンヌに殺されそうになって初めて、彼女が刺客の協力者だと気づいた。この件以外に、彼女の何を知ってしまったというのか。
「……戦勝祝い」
『わたくしたちだけでも戦勝祝いを準備しましょうか。……そうだわ。次の陛下と愛妾の顔合わせには、将軍閣下もいらしてくださらないかしら』
メルセデスはシュザンヌの提言を、名案だと思った。そうすべきと思い、シヒスムンドに皇帝の護衛として後宮へ同行することを頼んだ。シヒスムンドは元からその予定だったが、提案したメルセデスの行動はシュザンヌの言葉がきっかけだ。
シュザンヌはその以前に、メルセデスとシヒスムンドが何らかの方法でやり取りしていると見抜いていたのだ。シュザンヌはメルセデスを巧みに誘導し、メルセデスの意思で、シヒスムンドを後宮へ呼ぶよう仕向けた。
シヒスムンドは後宮の全ての女に受け入れられているわけではない。彼の目の魔力を受けたことのある者たちからは恐れられている。それはシュザンヌも知っている。
戦勝の功労者だからといって、後宮の平穏を重んじるシュザンヌが、均衡を保つためでもないのにシヒスムンドを率先して後宮へ招き、一部の不安を煽ることなど、普段であればしないはずだ。
シュザンヌは、自分の役目に反してでもシヒスムンドを皇帝に同行させたかった。
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刺客が待っていたもう一つの条件とは、シヒスムンドではないか。
彼が狙われているのだ。
「閣下……!」
侍女殺害後の交流会で、皇帝が刺客の待ち受ける後宮へ足を踏み入れたにもかかわらず、何も起きなかった。それは、狙いのシヒスムンドがいなかったからだ。
もう、皇帝は新たな愛妾の部屋へ入っているはずだ。
メルセデスは小庭園を飛び出した。
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