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人間編
58:武運の祈願(1) *
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メルセデスは涙がようやく止まったので、ひどい様相を呈しているだろうと思いつつも、顔をあげた。
「申し訳ありません。取り乱しました……」
「構わん。お前が俺を案じてくれていることは、よくわかった。もう心配するな」
シヒスムンドの軽い口づけが眦や額に降ってくる。穏やかな声音でささやかれ、染み渡るような心地よさを感じた。
「一つ頼まれてくれるか」
「はい」
「俺に情を与えてくれ。憐れみでも構わない」
「情? ですか」
シヒスムンドは、帝国がもっと小さな国だった時の風習を語り聞かせた。
「男が命を懸ける戦いの前に、深い情を与えてくれる女と交接を行うと、精力を分け与えられ、武運の祈願になるそうだ。……交接に特に定義はないから挿入までしなくとも問題ないだろう」
心配が顔に出てしまったのか、シヒスムンドは気になる点の補足もしてくれた。
「閣下ほどの方が、私などの祈願が必要なのですか?」
「俺は自分の限界を知っている。絶対に死なないことなど不可能だ。それでも、お前に祈っていてほしい」
祈りに効果があるかはわからない。それでもメルセデスは、その相手に他でもなく自身を選んでくれたことが、嬉しかった。メルセデスを選ぶということは、シヒスムンドへの思いが深い情であると、彼が認識してくれているということだ。
「私は、閣下を……、シグを、とても大切な方だと思っています。だから、どうかご無事でお戻りください」
ベッドの上へ膝立ちになって、シヒスムンドの頬に両手を添え、自ら唇を重ねた。熱くぬめる舌が歯列の間から侵入してくるのを迎える。
後頭部へ手をまわされ、いつの間にかシヒスムンドの方が上になって、角度を変えながら何度も唇を貪られている。
「はぁ……、閣下……」
「また呼び方が戻っているぞ」
夜着を脱がされ、首や胸元に口づけが落とされていく。その僅かな刺激にも、体が熱を持ち、まだ触れられていない場所が疼いてくる。
「お名前を呼ぶと、幸せな気持ちになるのですが、まだ呼び慣れていなくて……」
敬称で呼んでいた期間の方が長いのだから、意識しなくては名前で呼べない。
「では敬称で呼んだだけ罰を与えるか。そうだな……」
これまでの経験上、シヒスムンドが罰というときは、鞭ではなく卑猥なことをする。痛くない罰が存在することは、彼から学んだ。
「あっ……」
足の間へ差し込まれた手が、既に濡れ始めている秘所をついと撫でた。
「一度間違えるごとに、いかせる」
「それは罰にならないのではありませんか?」
単にメルセデスが気持ちいいだけのような。
「本当にそう思うか?」
にやりと笑ったシヒスムンドを見て、メルセデスはこれは悪いことを考えている時の顔だと気がついた。
「申し訳ありません。取り乱しました……」
「構わん。お前が俺を案じてくれていることは、よくわかった。もう心配するな」
シヒスムンドの軽い口づけが眦や額に降ってくる。穏やかな声音でささやかれ、染み渡るような心地よさを感じた。
「一つ頼まれてくれるか」
「はい」
「俺に情を与えてくれ。憐れみでも構わない」
「情? ですか」
シヒスムンドは、帝国がもっと小さな国だった時の風習を語り聞かせた。
「男が命を懸ける戦いの前に、深い情を与えてくれる女と交接を行うと、精力を分け与えられ、武運の祈願になるそうだ。……交接に特に定義はないから挿入までしなくとも問題ないだろう」
心配が顔に出てしまったのか、シヒスムンドは気になる点の補足もしてくれた。
「閣下ほどの方が、私などの祈願が必要なのですか?」
「俺は自分の限界を知っている。絶対に死なないことなど不可能だ。それでも、お前に祈っていてほしい」
祈りに効果があるかはわからない。それでもメルセデスは、その相手に他でもなく自身を選んでくれたことが、嬉しかった。メルセデスを選ぶということは、シヒスムンドへの思いが深い情であると、彼が認識してくれているということだ。
「私は、閣下を……、シグを、とても大切な方だと思っています。だから、どうかご無事でお戻りください」
ベッドの上へ膝立ちになって、シヒスムンドの頬に両手を添え、自ら唇を重ねた。熱くぬめる舌が歯列の間から侵入してくるのを迎える。
後頭部へ手をまわされ、いつの間にかシヒスムンドの方が上になって、角度を変えながら何度も唇を貪られている。
「はぁ……、閣下……」
「また呼び方が戻っているぞ」
夜着を脱がされ、首や胸元に口づけが落とされていく。その僅かな刺激にも、体が熱を持ち、まだ触れられていない場所が疼いてくる。
「お名前を呼ぶと、幸せな気持ちになるのですが、まだ呼び慣れていなくて……」
敬称で呼んでいた期間の方が長いのだから、意識しなくては名前で呼べない。
「では敬称で呼んだだけ罰を与えるか。そうだな……」
これまでの経験上、シヒスムンドが罰というときは、鞭ではなく卑猥なことをする。痛くない罰が存在することは、彼から学んだ。
「あっ……」
足の間へ差し込まれた手が、既に濡れ始めている秘所をついと撫でた。
「一度間違えるごとに、いかせる」
「それは罰にならないのではありませんか?」
単にメルセデスが気持ちいいだけのような。
「本当にそう思うか?」
にやりと笑ったシヒスムンドを見て、メルセデスはこれは悪いことを考えている時の顔だと気がついた。
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