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人間編
50:恥ずかしいこと(1)
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「それはなぜですか?」
強い男が好きだというイルダの言葉に、何か気をひかれたのかメルセデスがそう質問した。
メルセデスとイルダの会話を見守るその愛妾は、人を殺して後宮に入ってきたこのメルセデスという女性を、興味深く思っている。
初対面はシュザンヌ主催の歓迎会だった。気弱そうな容貌で、一度も笑わない。彼女は人を殺すことに抵抗は感じておらず、それはそもそも自分を魔女という別の生き物だと思い込んでいるためのようであった。にわかには信じがたかったが、人の嘘を見破れるアルビナが受け入れたのだから真実と思われた。
その後イルダのお茶会で話すようになるまでは、どれほど残酷で傲慢な怪物だろうかと身構えていたのだが、話してみればまるで違うのだ。例えるなら、彼女は農民を襲う凶暴な狼ではない。どちらかと言えば、人が気まぐれに虐げた犬で、自分を弱い生き物と考える無気力な存在に見えた。
そうして特に最初はまるで違う生き物かのような壁を感じた。
それが回を重ねて慣れてくると、よく質問をしてくるようになった。意外と好奇心が旺盛で、知らないことに対する知識欲もある。これまでは自分に関係のなかった人間の世界に、自らも属しているのだと気づいたのかもしれない。
「私の祖国は、武を重んじ、強さを尊ぶ国風だったの。私もそこで育ったから、やはり強い男に惹かれるのよ」
「ということは、強いから結婚したいというのは、強いことが婚姻関係に利をもたらすのではなく、強いことで愛するようになるから恋愛結婚をするということですか?」
メルセデスは恋愛感情に疎いようで、恋愛として好きになる、という感覚が理解できないらしい。恋愛というもの自体は知っているが、どういう経過でそれに至るかが難しくてわからないのだろう。
結婚が家の縁を結ぶなどの利害による政略結婚と、当人たちの愛情に基づく恋愛結婚の種類があることは知っているらしい。
今回は、イルダの男の良し悪しの基準が、そのどちらに結びつくのかを知りたいようだ。
「まずお互いのことを深く知らなければ、恋愛にはならないわ。一方的に思っているのでもダメ。私にとっての強いことは、そうね、相手を好いて、よく知ろうと思うきっかけかしら」
「なるほど。強いからといって、必ずしも愛情に結び付くわけではないのですね」
感覚的なもののため、メルセデスが愛に至る過程を理解する日は遠そうだ。
「イルダ様が力の弱い人を愛する可能性はあるのですか?」
「もちろんよ。強い方がいい、という加点はあるけれど、それ以外愛さないわけじゃないもの」
メルセデスは考え込んでいる。愛とそれに至る過程を理解したいが、人によって種類が違いすぎて、定義づけられないのだろう。
「メルセデス。好意はわかる?」
「はい」
「どなたが好き?」
「母と、シュザンヌ様と、私の侍女の皆さん――」
好意も恋愛の前段階的な位置づけの好意と、親類や友人などただの人間としての好意がある。メルセデスが挙げている面々からすると、後者しか理解をしていないようだ。
と、その愛妾は結論付けかけた。
「と――将軍閣下です」
脳裏に将軍の金色の目がよみがえり、背筋が寒くなる。愛妾は過去にあの目を見てしまった。メルセデスは将軍が怖くないのだろうか。しかし口先だけとも思えない。
他の面々も似たようなものらしく、顔が引きつっていたが、その状況を打破したのはやはりイルダだった。
「ふ、あはははは!」
朗らかに笑い声をあげている。
「きっと心からそう言えるのはあなたぐらいのものだわ!」
強い男が好きだというイルダの言葉に、何か気をひかれたのかメルセデスがそう質問した。
メルセデスとイルダの会話を見守るその愛妾は、人を殺して後宮に入ってきたこのメルセデスという女性を、興味深く思っている。
初対面はシュザンヌ主催の歓迎会だった。気弱そうな容貌で、一度も笑わない。彼女は人を殺すことに抵抗は感じておらず、それはそもそも自分を魔女という別の生き物だと思い込んでいるためのようであった。にわかには信じがたかったが、人の嘘を見破れるアルビナが受け入れたのだから真実と思われた。
その後イルダのお茶会で話すようになるまでは、どれほど残酷で傲慢な怪物だろうかと身構えていたのだが、話してみればまるで違うのだ。例えるなら、彼女は農民を襲う凶暴な狼ではない。どちらかと言えば、人が気まぐれに虐げた犬で、自分を弱い生き物と考える無気力な存在に見えた。
そうして特に最初はまるで違う生き物かのような壁を感じた。
それが回を重ねて慣れてくると、よく質問をしてくるようになった。意外と好奇心が旺盛で、知らないことに対する知識欲もある。これまでは自分に関係のなかった人間の世界に、自らも属しているのだと気づいたのかもしれない。
「私の祖国は、武を重んじ、強さを尊ぶ国風だったの。私もそこで育ったから、やはり強い男に惹かれるのよ」
「ということは、強いから結婚したいというのは、強いことが婚姻関係に利をもたらすのではなく、強いことで愛するようになるから恋愛結婚をするということですか?」
メルセデスは恋愛感情に疎いようで、恋愛として好きになる、という感覚が理解できないらしい。恋愛というもの自体は知っているが、どういう経過でそれに至るかが難しくてわからないのだろう。
結婚が家の縁を結ぶなどの利害による政略結婚と、当人たちの愛情に基づく恋愛結婚の種類があることは知っているらしい。
今回は、イルダの男の良し悪しの基準が、そのどちらに結びつくのかを知りたいようだ。
「まずお互いのことを深く知らなければ、恋愛にはならないわ。一方的に思っているのでもダメ。私にとっての強いことは、そうね、相手を好いて、よく知ろうと思うきっかけかしら」
「なるほど。強いからといって、必ずしも愛情に結び付くわけではないのですね」
感覚的なもののため、メルセデスが愛に至る過程を理解する日は遠そうだ。
「イルダ様が力の弱い人を愛する可能性はあるのですか?」
「もちろんよ。強い方がいい、という加点はあるけれど、それ以外愛さないわけじゃないもの」
メルセデスは考え込んでいる。愛とそれに至る過程を理解したいが、人によって種類が違いすぎて、定義づけられないのだろう。
「メルセデス。好意はわかる?」
「はい」
「どなたが好き?」
「母と、シュザンヌ様と、私の侍女の皆さん――」
好意も恋愛の前段階的な位置づけの好意と、親類や友人などただの人間としての好意がある。メルセデスが挙げている面々からすると、後者しか理解をしていないようだ。
と、その愛妾は結論付けかけた。
「と――将軍閣下です」
脳裏に将軍の金色の目がよみがえり、背筋が寒くなる。愛妾は過去にあの目を見てしまった。メルセデスは将軍が怖くないのだろうか。しかし口先だけとも思えない。
他の面々も似たようなものらしく、顔が引きつっていたが、その状況を打破したのはやはりイルダだった。
「ふ、あはははは!」
朗らかに笑い声をあげている。
「きっと心からそう言えるのはあなたぐらいのものだわ!」
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