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人間編

48:侵入経路について(2)

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 シヒスムンドは悩ましげに眉を顰めた。

「皇帝のみが使えるものと考えていた隠し通路に足を掬われるとは……」

 まず、侍女を殺した者が皇帝を狙う刺客であるのは間違いないだろう。何らかの理由で侍女が殺されてから発見されるまで数日あった。後宮にいる女たちが標的ならば、その間に殺されている。したがって後宮の女以外の、後宮への定期的な来訪者である皇帝が標的の可能性が高い。また、侍女の遺体の傷から、刺客は相当の手練れと目されている。刺客を侵入の困難な後宮へ送り込む手間を惜しまないほどの標的として考えられるのも皇帝だ。

 そして次に、刺客は後宮の女に紛れてはおらず、非正規の手段で後宮へ侵入した第三者であると推測した。皇帝の訪れという絶好の機会は、侍女殺害までに何度もあった。それまで何もなかったということは、裏を返せば侍女殺害以前に刺客は後宮にいなかったと考えられる。ならばしばらく人材の出入りのない、後宮の女は候補から外れる。この推測に変わりはない。

 また、刺客がまだ後宮にいるという前提も置いている。侍女を殺した刺客が第三者であれば、逃げるか隠れるかしなくてはならない。後宮の塀を越えて逃げても、城の城壁が立ちはだかる。門は厳しく警備がされ、さらに例の火事の下手人を逃がさないために一層厳しく身分を検められていたことだろう。無理に城壁を越えても結界に検知される。後宮の外から城壁までの間で隠れられる場所は、恐ろしい将軍閣下の陣頭指揮のもと、執念深くしらみつぶしに捜索済みである。

「ん? 待て……」

 シヒスムンドは何かに気がついたようだ。

「隠し通路で出入りができたと仮定すると、刺客がまだ後宮へ潜伏しているという推測が否定されるのか」
「そうなりますね。それから、刺客がなぜ交流会へいらした陛下を襲わなかったのかという疑問も解消します」

 侍女を殺してすぐに脱出したのなら、それ以降催された交流会の時には後宮にいなかったのだから、当然皇帝は安全だった。

「けれど、まだ後宮の出入りを許すのは尚早です」

 自由に出入りできたのなら、刺客は侍女を殺した後、誰にも見つかることなく城壁の外へ逃げおおせ、さらに今現在また入ることもできるだろう。

 事件後、皇帝の恩師の喪中と称し、後宮での外部との交流会や侍女たちの帰郷等を、完全に制限して厳戒態勢をとってきた。これは、後宮の女たちに刺客が紛れていた場合の逃亡を防ぐためと、侍女を殺した自覚のある者へ、皇帝はお前を警戒していると牽制するのが目的だ。できることなら、何も知らない後宮の女たちの不満が溜まり、この状況への不信感を抱く前に、早急に解除すべきものである。

 前回と今回の結論は、この厳戒態勢の解除には繋がらない。
 逃亡防止は、何も刺客だけが対象ではない。後宮の女の中に、刺客に侍女殺害を指示した者や、後宮への侵入を手引きした者が、存在すれば潜んでいるかもしれない。そういった犯人や協力者の逃亡も防ぐ効果もある。牽制も同様だ。直接殺した刺客ではなくても、十分危険な存在で、また新たに刺客を招き入れる可能性もある。

 加えて、メルセデスの推論が誤っており、やはり後宮の女に刺客が紛れていたり、まだ刺客が後宮の中にいる場合を想定して厳戒態勢は継続すべきであった。
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