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人間編

45:申告制(1)

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 性的欲求を満たす行為をシヒスムンドが望んでいると告げられ、メルセデスはそのやり方や適性がわからなかったので少し困った。教えてもらえばそれができるのだろうかと。

 いくつかの問答の後、シヒスムンドはどこか慌てているかのような性急な手つきで、メルセデスをベッドへ運び、自らの上着を脱いで上半身はシャツを羽織っただけになった。
 帰ろうと外套を着るのではなく、わざわざ服を脱いだということは、それがこれから始めることの準備であるはずだ。彼がメルセデスの貢献を受け取る気になってくれたようで安心した。

「何をすればよろしいですか?」

 体を起こそうとすると、シヒスムンドがメルセデスの肩を掴んでベッドに縫い付けた。
 見下ろすその目は、これまでメルセデスへ怒りをあらわにした時のように、ぎらぎらと苛烈に光っていたが、どこか違って見え、怒気は感じない。その強い目で体を眺められると、視線に貫かれた箇所が熱くなる。

 入浴の世話をしてくれる侍女たちに対してはもう慣れたが、他人にあまり肌を見せるべきではないという感覚があるので、こうもじっくり裸体を観察されるのは恥ずかしい。
 シヒスムンドの目を見ないようにと視線をさまよわせ、今度は逆に彼の体を見返す。

 大柄で、太っているわけでもないのに体に厚みがあることは、服の上からでも常々わかっていた。それでも直接見るのとは大違いだ。胸筋や腹筋はくっきりと割れて隆起し、脇腹も筋肉が幾層にも重なってまるで鎧のようだ。太い腕は、いくつもの独立した筋肉がシャツの上からでもよく見て取れて、メルセデスを軽々と持ち運べたのも納得がいく。そして皮膚には、数えきれないほどの傷跡が残っていた。

 マリエルヴィは、険しい山脈に囲まれた、天然の要塞を持つ国であったから、長らく外国と戦争をせずにいられた。そのため兵士たちは、国内の野盗程度としか実戦がなく、屈強というにはほど遠い、名誉の負傷もない者がほとんどであった。

 比べて帝国は侵略国家であり、さらにシヒスムンドは将軍でありながら自ら先陣を切る戦士だ。魔力で身体能力を強化できるといっても、限界はあるし、大勢を相手にすれば魔力などあってもなくても変わらない。前線で戦うなら当然このように多くの傷を受ける。

 貧弱で女のメルセデスとも、本当の戦いを経験していない祖国の男たちとも違う。受ける傷を致命傷にしないための、実戦用に鍛え上げ、研鑽した肉体。

 彫像とは違う、野生の獣のような体の迫力に、メルセデスは圧倒されて顔を反らした。

「特別、なにかをしなくていい。俺のすることを、受け入れていれば、それでいい」

 置かれていた肩の手がすべり、メルセデスの顔をやんわり押し戻すので、またシヒスムンドと目が合う。

「だが、そうだな……。余裕があれば、俺の目を見ろ」
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