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人間編
32:金色の瞳(1)
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シヒスムンドは跪いて必死に訴えかけてくるメルセデスを拒絶できず、手を取って立ち上がらせた。
もう気づかないふりはできない。
メルセデスは、大陸統一の野望を語った時に始まり、シヒスムンドと目を合わせられている。
謁見の間、火事の後、面通し。メルセデスがシヒスムンドと会うたび怯えていたのは、魔女として、もしくは帝国の敵として処刑されると思っていたり、シヒスムンドが怒りをあらわにしていたからだ。
帝国に魔女は存在しないと分かり、シヒスムンドが腹を立てた事情も理解したことで、怯える理由はなくなった。
もはや、メルセデスの青灰色の瞳に恐怖はない。
「俺のこの目は、今や帝国中の誰もが、正面から見つめることができない」
それはシヒスムンドが横暴な権力者だからでも、鋭い目つきをしているからでもない。この金色に輝く瞳をなぜ誰も見られないのか、帝国の誰もが知っていても、メルセデスはまだ知らない。
「以前、魔力の有無に、男女の別はないと話しただろう」
「はい」
メルセデスはうなずく。必ず魔力を持つ親から生まれるわけではないし、男女の偏りもないのだと話した。
「俺も、魔力を持っている」
メルセデスが息を呑んだ。やはり知らなかったようだ。
シヒスムンドの雷名は、武力や軍略だけでなく、その強大な魔力によるものでもあった。マリエルヴィ王国は閉ざされた僻地の国であり、かつ魔力は魔女しか持たない前提がある。そのため、噂は正しく伝わらなかったが、大陸の殆どには彼が稀代の魔術師であることも知れ渡っていた。
メルセデスに対する、将軍と渡り合えるほどの魔術師という声は、彼女が魔力で身体能力を底上げしたことを指したのではなく、そもそもの魔力が将軍に匹敵するという意味を持っていたのだ。
周知の事実であったことと、先日はそれどころでなく話が途中になってしまったことで、シヒスムンドはメルセデスにそれを伝える機会を失っていた。
「そうですか……」
「隠していたのではない。皆知っていることであったが、お前には話す機会がなかった」
「いえ。これほど早く魔力を持つ男性に出会うとは思わなかったので」
メルセデスはかぶりを振る。
「お前の魔力が破壊の力を持つように、魔力は強弱と共に、個人ごとで特定の性質を持つ」
メルセデスは破壊の力。アルビナは言葉の真偽をはかる力。ダビドは人の感情を見る力。
「俺の力は、威圧だ。魔力が弱い相手ほど、俺に本能的に恐怖し、理性的な思考を止める。そしてこれは――」
一般的に不気味と評される、世にも珍しい金色の瞳。
「これは、俺には一時的に強める以外の制御ができない」
もう気づかないふりはできない。
メルセデスは、大陸統一の野望を語った時に始まり、シヒスムンドと目を合わせられている。
謁見の間、火事の後、面通し。メルセデスがシヒスムンドと会うたび怯えていたのは、魔女として、もしくは帝国の敵として処刑されると思っていたり、シヒスムンドが怒りをあらわにしていたからだ。
帝国に魔女は存在しないと分かり、シヒスムンドが腹を立てた事情も理解したことで、怯える理由はなくなった。
もはや、メルセデスの青灰色の瞳に恐怖はない。
「俺のこの目は、今や帝国中の誰もが、正面から見つめることができない」
それはシヒスムンドが横暴な権力者だからでも、鋭い目つきをしているからでもない。この金色に輝く瞳をなぜ誰も見られないのか、帝国の誰もが知っていても、メルセデスはまだ知らない。
「以前、魔力の有無に、男女の別はないと話しただろう」
「はい」
メルセデスはうなずく。必ず魔力を持つ親から生まれるわけではないし、男女の偏りもないのだと話した。
「俺も、魔力を持っている」
メルセデスが息を呑んだ。やはり知らなかったようだ。
シヒスムンドの雷名は、武力や軍略だけでなく、その強大な魔力によるものでもあった。マリエルヴィ王国は閉ざされた僻地の国であり、かつ魔力は魔女しか持たない前提がある。そのため、噂は正しく伝わらなかったが、大陸の殆どには彼が稀代の魔術師であることも知れ渡っていた。
メルセデスに対する、将軍と渡り合えるほどの魔術師という声は、彼女が魔力で身体能力を底上げしたことを指したのではなく、そもそもの魔力が将軍に匹敵するという意味を持っていたのだ。
周知の事実であったことと、先日はそれどころでなく話が途中になってしまったことで、シヒスムンドはメルセデスにそれを伝える機会を失っていた。
「そうですか……」
「隠していたのではない。皆知っていることであったが、お前には話す機会がなかった」
「いえ。これほど早く魔力を持つ男性に出会うとは思わなかったので」
メルセデスはかぶりを振る。
「お前の魔力が破壊の力を持つように、魔力は強弱と共に、個人ごとで特定の性質を持つ」
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