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1.金栄
しおりを挟む金栄は悩んでいた。
あと数日で年が替わる。今年の初めから来年に向けて意気込んでいたというのに、生まれ持った気性のせいか、安穏と過ごしているうちに十二月も末になってしまった。
いくらなんでものんびり過ぎた。どうしよう。夜はもう、それほどないというのに。
ぐるぐると考え込む金栄の目の前には、別の褥に横たわって眠る妻の背中がある。上背も厚みもある金栄に比べると幾分か薄いが、それでもしっかりと鍛え抜かれた筋肉が這う若く雄々しい背中。
―――どうしよう、まだ初夜も終えてないなんて。
来年は丑年。金栄は干支神として一年を守護する任につくことが決まっていた。
干支神、という神々がいる。古来よりいる固有の神ではなく、役職名だ。十二支の動物になぞらえてあるため、十二人いる。彼らは一年ずつ持ち回りで、その年の守護の筆頭を務めあげていた。
守護は多岐に渡り、子宝成就に商売繁盛、恋愛成就や健康祈願、疫病退散に交通安全とさまざまだ。一年を守護するので、偏りなくおおよそに加護が行き渡るよう、その年の守護神を筆頭にほかの十二支たちも補佐にまわるが、やはり守護神の影響が強く反映される。
たとえば今年は子年で、もともと子授けに関しては縁のある動物だったが、守護に当たった子の干支神が子宝に恵まれた。その影響か、下界でも子どもが多く生まれていた。
それを見て、自分も頑張らねばならないと金栄は焦った。なにせ、去年の暮れには子の干支神、白重はまだ独り身だったのだ。
「一応下界の家を周っているが、伴侶になってくれるものなど、そうそう見つからないものだな……」
あの時白重は疲れた、とうなだれていた。その隣で、金栄はよかったと胸を撫でおろしていたのだ。
必ずしも伴侶がいなければ干支神が勤まらないわけではないし、独り身の神だっているが、金栄は丑だ。丑は代々、絆や縁に所以する加護を持つと言われている。その丑である金栄が独り身では、加護も半減だろうと言われていたが、その時すでに、金栄は結婚相手が決まっていた。
相手は牛の眷属である泰然。彼のことは、お前はのんびり屋で心配だからといくつも持ってこられた釣り書きのなかから見つけた。彼がいいと見合わせてもらって、とんとん拍子にことが運んだ。
(もう自分は結婚相手がいるし、あと一年あるから、お役目が来ても、きっと大丈夫。白重は大変だな)
頑張って、と白重を励ましながら、金栄は内心胸を撫でおろしていた。
それなのに、それから一か月も経たないうちに白重は下界で出会ったという少年を嫁にした。体が弱いのか、体調がまだ優れないからとなかなか会わせてもらえず、初めて会ったのが春先にようやく行われた祝言の席だった。恥ずかしげにしながらも白重に寄り添う姿に、よかったねえと涙ぐんだのを覚えている。そして、秋の終わりごろに会った時には既に白重の両腕と少年の腕には小さな小さな子どもが三人いた。
競うわけではないし、競うようなものでもないが、あれよあれよという間に追い抜かされ、金栄は自分も急がなければとは思った。
白重はすでに嫁をとり、子を成している。ということは、子ができるようなことをしたということだ。金栄の一歩二歩どころか、百歩ほども先を進んでいる。
実のところ、金栄は百歩どころか、見合いをした、婚約をした、結婚をしたと三歩ほど進んだところから動けずにいる。
今年の正月に結婚して以来、金栄は妻である泰然と一度もまぐあわないまま、一年を終えそうになっているのだ。
それというのも、金栄が敏感すぎるという、泰然にも言えていない体質が原因だった。
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