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第四章 波乱の内政・外交編

第12話 戦場の風

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タールランド城、会議室。U字型のテーブルの凸部分に僕が、その周りにジーク兄さんとマクドル兄さんが、残りの大臣たちは僕の隣に立つホスロを除き、一直線上に座っている。会議室は、いつもに増してピリピリしていた。
議事進行は、議長であるマクドル兄さんが務める。

「……とりあえず、各部署における現状の報告をお願いします。まずは、王国軍のジーク兄さんから。」
「迫る開戦に備え、王国軍南駐在部隊の第一小隊から第五小隊、計五千名を、国境であるスムジア登山道南東に配備。また、チャールート金山奪取対策要員として、その中の三千名を鉱山内の警備に当たらせている。内訳は、本兵が二千、農民兵が千。その中でも、南東部の地理に詳しいものは農民兵の四分の一くらいだ。ちなみに、実践訓練は実施済みだ。」
「ありがとう。だけれども、やっぱり不安が残るね。地理に詳しいのが本兵に一人もいなくて、農民のしかも二百くらいになると。」
「だがタイト、たかがそのくらいで負ける俺たちじゃないぜ。」

僕に力こぶを見せつけてくる。

「頼もしいよ。」
「じゃあ、次。現在のタールランドとスムジア王国の兵力と関係について、外務省のウルップから報告をお願いします。」
「はい。最新の調査によりますと、兵力を数で表し、大陸最強と謳われるズール帝国軍を100とすると、我がタールランド軍は50。スムジア王国軍は40。多少は勝っていますが、今回の戦争場所はスムジア山脈。平地暮らしの我々に比べて、彼らスムジア軍の半数が鉱夫。足腰の強さは、ズール帝国にも勝てると言われているくらいなので、もしかしたら圧されるかもしれません。また、現在我々はスムジア王国と領土不可侵条約を結んでいます。互いに領土へと攻めこんだら、条約破棄と見なし、破棄した国へと大義名分で攻めこむことが可能になります。」
「この条約があるからこそ、スムジア王国は簡単に僕らの国に攻めこむことができないんだ。ジーク兄さん、兵士たちに、いかなる挑発をされようと、絶対に攻撃をしたり、相手方の領土に踏み込んではならないと伝えといて。」
「ああ、心得た。」
「さてと、じゃあ次は大蔵大臣のマージに、我々が保有している兵糧、武器、そして軍資金について、報告してもらいます。」
「はっ。我がタールランドでは、昨今の干ばつや《大災厄》による利用可能土地の激減から、城に税金として納められる穀物、野菜などが非常に少なく、兵糧に関しては、上手く使わなければ、戦争中に底をつきることになるも思われます。また、今年度の国家予算額が干ばつの影響により大幅に下がっているため、軍資金もスムジア王国の三分の二程度しかありません。」
「懸念すべきは、お金の問題だね。これに関しては、節約したりだとか、極限まで切り詰めないと、大変なことになりそうだね。」
「タイト、こんなにたくさんの抱えて、果たしてうまくいくのかな?」

兄さんたち以下、ホスロ以外はみな首を傾けて唸る。そう、ホスロだけは余裕な雰囲気を醸し出していた。

「ん? どしたのホスロ。どうでもよくなっちゃった?」
「違いますぞ、タイト様。このピンチを切り抜けることは我々にも可能だと分かって、思わず笑ってしまったのです。」

ピンチを切り抜けることが可能? 何を言っているんだ。今僕らが置かれている状況は、全くの正反対だ。
そんな僕の顔とは対照的に、ホスロはニコニコしながら言う。

「タイト様、それにジーク様やマクドル様、それ以外の大臣たちも。よく考えて見てくだされ。スムジアには無く、我々しか持っていない三つの切り札コネクションを。」

三本指を立て、そう告げる。会議室の面子は皆気づき、僕に羨望の眼差しを向ける。僕は、変な汗をかいていた。

「ああ、確かにあったね。切り札禁忌呪文が。」



一方、スムジア王国軍は、スムジア山脈中腹部に本拠地を設営していた。今回の戦争の将軍、ハーレインは、たくさんの兵士がいるなかで、一番豪華な席にふんぞり返っていた。彼は、彼が築き上げてきたブランドに自信を持ち、来る戦を軽い気持ちで待っていた。
小飼の諜報兵が、本拠地のテントに入って告げる。

「ハーレイン様、布陣終了しました。」

ハーレインは、鼻を大きくならして言う。

「はん、もっとゆっくりでもよかったのですよ。腰抜けどもタールランド兵は攻めてくる様子もありません。大方、条約を破棄してしまえば、簡単に負けてしまうとビビっているのでしょう。」

わっはっはっは! と兵士たちは高笑いする。ハーレインも笑っていた。地理に詳しい作戦錬成班の兵士が、ハーレインに問う。

「ハーレイン将軍、いかに我々が地の利でも兵力でも勝っていようと、攻められてしまうこともあります。一度作戦を立ててみては?」
「ふっ、ほざいてろ。たかが小国にビビりすぎだ。もっとドンと構えろ。」
「はっ。失礼しました。」

ハーレインが兵士たちを省みて告げる。

「かつては征服に手こずる位、有能な王と叡知のある宰相が共に国を治めていたが、ヤツが死んだ今、『弱輩者』と称されるガキが治めるのみだ。我々には充分な勝機がある。手こずるなよ。」

と彼なりの鼓舞をしていたその時、

「た、大変です、ハーレイン将軍!」

伝達役の兵士が駆け込んでくる。

「慌ただしいな、落ち着けよ。それで、どうした?」
「そ、それが、の兵士2万が、チャールート金山に布陣しています!!」
「……なんだと!?」



「はぁ……。まさか、こんなことに帝国軍を援軍として呼ぶなんて…。」

ホスロも、大胆なことを考えるものだ。

議会にて。

『足りない兵力は、ズール帝国軍に協力してもらえば良いのです。』
『彼らが僕らの要請に応じてきてくれるかは分からないけどね。』
『何を言っておられるのですかな? 我々は彼らに“貸し”があるのですからな。彼らの皇帝に。』
『あっははは………。』
『それに、私にはアテもあるのですからな。』
『…………?』

「ほぅ………貴様、良い顔つきになったじゃないか。」
「あ……ジョンネル大臣。お久しぶりです。」

顎に手を当てこちらをみる彼は、帝国留学時代にお世話になった、ジョンネル・クレオス大臣だ。彼は警備局の局長も務めており、今回は彼の口利きで、兵士の1割である数を派遣してくれた。

「それにしても、どうして我々の要請に応じていただけたのでしょうか。」
「一つは、ホスロ殿からたくさんのことを学べたから。もう一つは……………」

僕の目の前に跪く。そして、僕のことを見つめ

「タイト王子、あなたに我が皇帝を救っていただいたお礼です。今回は、存分に恩返しをさせてください。」

僕は、なんだか歯がゆくなった。むずっとした、変な感覚に襲われた。

「そんなに改まらないでください。帝国においては、僕が生徒で大臣が先生だったのですから。」
「そうか………そこまで言うなら、この調子でいくぞ?」
「この方が気楽ですよ。」

なんて笑い会う。

「へぇー、案外ここからの眺めって壮大なんだねー。」

なんだか間延びした声が僕のとなりから聞こえる。

「やぁ、カイン。まさか君にも協力してもらえるなんてね。」
「当たり前じゃーん。僕は君の友達だし、大事な商売相手なんだよ? わざわざ失うなんてことになったらもったいないじゃーん♪」
「相変わらずだな、お前は……。」

帝国騎士学校の大陸地理学専攻の兵士が、僕の下に駆け寄ってくる。

「タイト殿下、この辺の地形は充分に把握しております故、我々にもお任せください。」
「うん。わざわざ遠くからありがとう。」
「いえ、帝国では魔の手から助けていただきましたからね。このぐらい当然です。」

帝国の騎士礼をし、僕の方を向く。

「タイト様、これで一気に問題が片付きましたな。」
「うん。そうだね。」

地図を片手に持ち、兵士と何かを話し終わったジーク兄さんの隣に立つ。ジーク兄さんの後ろには、マクドル兄さんが本を読んで座っていた。

「ジーク兄さん、調子はどう?」
「もちろん、大丈夫に決まってるだろ。兵士たちも皆、勝てると信じて士気が高まっている。それに、帝国軍もいるんだ。ただ、最強なのは俺たちタールランド軍だけどな。」
「うん。それならいいよ。」
「そういうタイトこそ、緊張してるんじゃない?」

マクドル兄さんが、こっちをみてクスッと笑う。

「む、そんなことないさ。」
「上着、前後ろ逆だよ。」
「ま、まじか……!?」

慌てて着なおす。ふぅ、もう少しで、兵士に僕の間抜けなイメージを植え付けるところだった。

「…………ボソボソ………今さら手遅れな気がしますぞ………。」
「ん? ホスロ、なんか言った?」
「空耳ですな。」

岩の上に立ち、下を見下ろす。暖かいが、乾いた風が、僕の体を通り抜けていく。その風が、戦場に吹いているものなのに、妙に心地よかった。
兄さんや、兵士たちがいる方を向いて声をかける。

「この戦いは、僕らのこれからをかけた大事な一戦となる。また、これはスムジアとの平和条約を破ることに等しい。それに、僕はずっと平和な解決方法を目指してきたから、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。だけど、僕は人々の思いを踏みにじる、スムジア征服をした〈ムーン〉の構成員を許せないんだ。もしかしたら、事情を知らない各国からしたら、非常に冷たい目を向けられるだろう。だが、これだけは覚えておいてほしい。今から我々が戦うのは、平和を願うスムジア王国の人々ではなく、征服した〈ムーン〉の構成員だ。奴らに、僕たちの力を見せつけよう。僕ら、一人一人の力を。戦場で散れとは言わない。皆、勝って、生きてここに戻ろう!!」
「「おおおお!!!!!!」」

雄叫びが、戦場を駆け抜けた。
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