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第三章 騎士学校、留学(?)編
第18話 届け、思い①
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アレクは、夢を見ていた。とても長く、とても暗く、そして、とても怖い夢。
『父さん、俺は父さんのような騎士になって、将来国を守っていくよ!』
『アレク……。』
その頃の父さんは、持病が悪化したために帝国騎士団を引退し、貴族としての役目は母と同僚に任せて、病床に伏していた。父さんは微笑み、僕の手を握り返してきた。
『父さんは、お前にこの国だけでなく、己の信念も守ってほしい。自分の思いが曲がったら、刺さる刀も刺さらないからね。…………俺のように。』
そして、残り少ない気力を振り絞り、体を起き上がらせた。
『もし…もし俺の願いが叶うなら……俺だけの力で……俺の家族を……護りたかった。』
父さんは遠い空を見つめ、ただ一言、そう呟いた。
『あなたは何故言われたことがすぐに出来ないのですか?』
家庭教師に、ひっぱたかれる毎日。思う通りのことができず、俺はただただうなだれるしかなかった。
『あなたは、あのギース公爵の後を継ぐのです。もっと心構えからしっかりなさい!』
パシンッ!
『………………………』
家庭教師が帰った後、俺は家の陰で泣いた。
『……何故……何故、俺は思う通りにできない………何故魔法がうまく扱えない……何故剣の腕も上がらない……俺は、どうすれば…。』
『……………強く…………………なりたいですか?』
『! 誰だ!?』
『そう警戒する必要はないですよ…………私はあなたにチャンスを与えるつもりでやってきました。』
後ろを振り向く。立っていたのは、黒フードを被った男。
『一体、何が目的なんだ?』
『目的? だから言ったでしょう。あなたを助けに来たって。』
黒フードの男は、俺の目の前でお辞儀した。
『私は、〈ムーン〉のカルメンという者です。あなたの父上も、私の力を借りて、あそこまでの剣士に成長しました。』
『…なんだって?』
『おお、食い付きましたねェ。』
奴は、俺の周りを魔法で包み込んだ。
『どうですか? 望めば、あなたはこの世界の全ての名声を、我が物に出来るのですよ?』
奴は、炎を使って俺に様々な幻覚を見せてきた。
俺は、もう奴らに魅せられていた。
『……名声を、我が物に……。』
『ええ、ただし、条件があります。』
男は、パッと飛び立ち、俺に深紅の宝石を見せた。
『これは、“パワーストーン”と呼ばれる石の一種です。これをあなたに持っていただきます。そして私は、側であなたがその石によってどれだけの力を得るのかを、観察させてほしいのです。どうです? 悪い話じゃないでしょう?』
男は、俺に優しく、甘い、それでいて惹かれる声で、俺に言った。
俺はもう、考えることができなかった。
『お願い………します。』
『“契約成立”!』
男がマントを広げると、俺の目の前に巨大な緑の魔法陣が浮かび上がった。
『うわぁぁあ!?』
そこから、俺の記憶は……途切れ途切れになった。
ただ、“悪い記憶”のみを残して。
◇
「はっ!!?」
気がつくと、俺はベッドの上に寝ていた。ここは、保健室だろうか? そして、今まで自分がしてきたことを、今になってようやく理解してきた。
『お前にこの国だけでなく、己の信念も守ってほしい。自分の思いが曲がったら、刺さる刀も刺さらないからね。』
父さんの言葉を思いだし、強く自分の拳を握りしめた。
「己の信念を守る…か。俺は何故騎士になろうと思ったのかを忘れちゃ、いけないよな。」
俺はベッドから降り立ち、気絶する前に聞こえたタガルの声を頼りに、大講堂へと向かうことにした。
◇
生徒全員、パニック状態になっていた。そりゃあそうだろう。目の前で生徒が極大魔法を放ち、山が吹き飛んだ上に、その生徒が雷に打たれたのだ。先生達も、ただホスロが集まってほしいと言っただけなので、なにも知らないだろう。だから、ターゲットも何食わぬ顔でこの場に居合わせている。
だからここで、騎士学校で長年続いてきた負の歴史を、僕がたちきるんだ。
『ザザ……お静かに。ただいまから、タールランド王国第三王子にあらせられる、タイト・タール様よりお話があります。よく、お聞きくだされ。』
ホスロが、開始の合図を送る。
「なんだって? タイト・タール?」
「あの噂の無能王子が一体ここになんのようだ?」
「噂だと、魔法すらまともに使えないとか…。」
うーん、酷評だ。僕の悪い話ばっかりが、みんなのイメージとして定着しているようだ。それを払拭するためにも、僕の姿を見せなきゃね。
――すごく、驚くかもしれないけど。
壇上に、一歩足を踏み込む。観衆のどよめきは、さらに増した。お忍びで留学していることを知らない先生方は、みな唖然としていた。そりゃあそうだろう。最初は誰も信じないはずだ。
「えっと、タガルなにやってんだ!?」
クラスメイトから、抗議の声が出てくる。本当にタイトなんだけどな。
「えっと、みなさんこんにちは。僕の名前は、タガル・カムチャ………なんかではありませんよ。」
羽織っている制服をばっと外す。そして僕が中に着ていた、タールランド王国の王族の服が姿を表した。
「改めまして、僕の名前はタイト・タール。お隣のタールランド王国で、執政官を務めさせていただいている者です。……これで、皆さんの中にあるタイトの悪いイメージが払拭できればいいのですが?」
生徒達は、やはり状況が呑み込めないでいた。先生方も同じだ。だから、とりあえずこれまでの経緯を軽くおさらいしておこう。
「さて、皆さんは何故僕が身分や正体を隠してまで帝国留学をしているか、ご存知ではないでしょう。実は、この学校に関するある不正がハッキリしたんです。正面のスクリーンをご覧下さい。」
僕は、目の前に今回の不正事件に関する資料を写した。
「ここに書かれている通り、ここ帝国騎士学校から数十名の優秀な生徒たちが、独断でどこかの私軍に組み込まれているとの情報を帝国大臣メィビン・サガミ氏よりいただきました。何故私たちに助けを求めたかというと、大臣の中に、今回の黒幕と不正に通じている者がいると感じ取ったらしいからです。」
「………すいません、ちょっとトイレに…」
「申し訳ありませんが、お通しできません。」
「…………!?」
やはり、逃げようとするか。ならば仕方ない。トイレに間に合わせるために、証拠を全て叩き込んでやろうじゃないか。
「続いて、こちらの資料。これは、サガミさんに調査してもらったある記録なのですが、タイトルにある通り、“学校卒業生の就職先”を一覧にしたものです。ここを調べるとですね、ある奇妙な点がいくつか浮かんできたんですよ。例えば、行方不明の卒業生を斡旋していた名前、これ全部同じ先生のものですね。」
生徒たちが、そこに書かれている名前を見て驚く。最も、驚いているのは本人だろう。まさか隠した名前を見つけられるなんて、おもいもしなかっただろうね。
「そうですよね? ………シーナ・ハイヘルン先生。」
「………………………タイト…。」
シーナはうつむき、唇を噛み締めていた。
『父さん、俺は父さんのような騎士になって、将来国を守っていくよ!』
『アレク……。』
その頃の父さんは、持病が悪化したために帝国騎士団を引退し、貴族としての役目は母と同僚に任せて、病床に伏していた。父さんは微笑み、僕の手を握り返してきた。
『父さんは、お前にこの国だけでなく、己の信念も守ってほしい。自分の思いが曲がったら、刺さる刀も刺さらないからね。…………俺のように。』
そして、残り少ない気力を振り絞り、体を起き上がらせた。
『もし…もし俺の願いが叶うなら……俺だけの力で……俺の家族を……護りたかった。』
父さんは遠い空を見つめ、ただ一言、そう呟いた。
『あなたは何故言われたことがすぐに出来ないのですか?』
家庭教師に、ひっぱたかれる毎日。思う通りのことができず、俺はただただうなだれるしかなかった。
『あなたは、あのギース公爵の後を継ぐのです。もっと心構えからしっかりなさい!』
パシンッ!
『………………………』
家庭教師が帰った後、俺は家の陰で泣いた。
『……何故……何故、俺は思う通りにできない………何故魔法がうまく扱えない……何故剣の腕も上がらない……俺は、どうすれば…。』
『……………強く…………………なりたいですか?』
『! 誰だ!?』
『そう警戒する必要はないですよ…………私はあなたにチャンスを与えるつもりでやってきました。』
後ろを振り向く。立っていたのは、黒フードを被った男。
『一体、何が目的なんだ?』
『目的? だから言ったでしょう。あなたを助けに来たって。』
黒フードの男は、俺の目の前でお辞儀した。
『私は、〈ムーン〉のカルメンという者です。あなたの父上も、私の力を借りて、あそこまでの剣士に成長しました。』
『…なんだって?』
『おお、食い付きましたねェ。』
奴は、俺の周りを魔法で包み込んだ。
『どうですか? 望めば、あなたはこの世界の全ての名声を、我が物に出来るのですよ?』
奴は、炎を使って俺に様々な幻覚を見せてきた。
俺は、もう奴らに魅せられていた。
『……名声を、我が物に……。』
『ええ、ただし、条件があります。』
男は、パッと飛び立ち、俺に深紅の宝石を見せた。
『これは、“パワーストーン”と呼ばれる石の一種です。これをあなたに持っていただきます。そして私は、側であなたがその石によってどれだけの力を得るのかを、観察させてほしいのです。どうです? 悪い話じゃないでしょう?』
男は、俺に優しく、甘い、それでいて惹かれる声で、俺に言った。
俺はもう、考えることができなかった。
『お願い………します。』
『“契約成立”!』
男がマントを広げると、俺の目の前に巨大な緑の魔法陣が浮かび上がった。
『うわぁぁあ!?』
そこから、俺の記憶は……途切れ途切れになった。
ただ、“悪い記憶”のみを残して。
◇
「はっ!!?」
気がつくと、俺はベッドの上に寝ていた。ここは、保健室だろうか? そして、今まで自分がしてきたことを、今になってようやく理解してきた。
『お前にこの国だけでなく、己の信念も守ってほしい。自分の思いが曲がったら、刺さる刀も刺さらないからね。』
父さんの言葉を思いだし、強く自分の拳を握りしめた。
「己の信念を守る…か。俺は何故騎士になろうと思ったのかを忘れちゃ、いけないよな。」
俺はベッドから降り立ち、気絶する前に聞こえたタガルの声を頼りに、大講堂へと向かうことにした。
◇
生徒全員、パニック状態になっていた。そりゃあそうだろう。目の前で生徒が極大魔法を放ち、山が吹き飛んだ上に、その生徒が雷に打たれたのだ。先生達も、ただホスロが集まってほしいと言っただけなので、なにも知らないだろう。だから、ターゲットも何食わぬ顔でこの場に居合わせている。
だからここで、騎士学校で長年続いてきた負の歴史を、僕がたちきるんだ。
『ザザ……お静かに。ただいまから、タールランド王国第三王子にあらせられる、タイト・タール様よりお話があります。よく、お聞きくだされ。』
ホスロが、開始の合図を送る。
「なんだって? タイト・タール?」
「あの噂の無能王子が一体ここになんのようだ?」
「噂だと、魔法すらまともに使えないとか…。」
うーん、酷評だ。僕の悪い話ばっかりが、みんなのイメージとして定着しているようだ。それを払拭するためにも、僕の姿を見せなきゃね。
――すごく、驚くかもしれないけど。
壇上に、一歩足を踏み込む。観衆のどよめきは、さらに増した。お忍びで留学していることを知らない先生方は、みな唖然としていた。そりゃあそうだろう。最初は誰も信じないはずだ。
「えっと、タガルなにやってんだ!?」
クラスメイトから、抗議の声が出てくる。本当にタイトなんだけどな。
「えっと、みなさんこんにちは。僕の名前は、タガル・カムチャ………なんかではありませんよ。」
羽織っている制服をばっと外す。そして僕が中に着ていた、タールランド王国の王族の服が姿を表した。
「改めまして、僕の名前はタイト・タール。お隣のタールランド王国で、執政官を務めさせていただいている者です。……これで、皆さんの中にあるタイトの悪いイメージが払拭できればいいのですが?」
生徒達は、やはり状況が呑み込めないでいた。先生方も同じだ。だから、とりあえずこれまでの経緯を軽くおさらいしておこう。
「さて、皆さんは何故僕が身分や正体を隠してまで帝国留学をしているか、ご存知ではないでしょう。実は、この学校に関するある不正がハッキリしたんです。正面のスクリーンをご覧下さい。」
僕は、目の前に今回の不正事件に関する資料を写した。
「ここに書かれている通り、ここ帝国騎士学校から数十名の優秀な生徒たちが、独断でどこかの私軍に組み込まれているとの情報を帝国大臣メィビン・サガミ氏よりいただきました。何故私たちに助けを求めたかというと、大臣の中に、今回の黒幕と不正に通じている者がいると感じ取ったらしいからです。」
「………すいません、ちょっとトイレに…」
「申し訳ありませんが、お通しできません。」
「…………!?」
やはり、逃げようとするか。ならば仕方ない。トイレに間に合わせるために、証拠を全て叩き込んでやろうじゃないか。
「続いて、こちらの資料。これは、サガミさんに調査してもらったある記録なのですが、タイトルにある通り、“学校卒業生の就職先”を一覧にしたものです。ここを調べるとですね、ある奇妙な点がいくつか浮かんできたんですよ。例えば、行方不明の卒業生を斡旋していた名前、これ全部同じ先生のものですね。」
生徒たちが、そこに書かれている名前を見て驚く。最も、驚いているのは本人だろう。まさか隠した名前を見つけられるなんて、おもいもしなかっただろうね。
「そうですよね? ………シーナ・ハイヘルン先生。」
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