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第一章 裏切りの王都編
第10話 改めて
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マージの過去は、僕のはるか想像するよりも酷いものだった。国に忠義を尽くたのに裏切られたその心中は穏やかではない、ではすまされないだろう。マージの話には考えさせられることがとてもあった。
その中でも、自分の無力さ、が一番強かった。
父に持病があるのは知っていた。だが、余命があと少しだというのに、僕は全く気づけなかった。
マージの妻が人質にとられていたのに、彼は、父を殺そうとは微塵も思わなかった。この国に非常に尽くしてくれたのに、僕は全く知らなかった。
ズール帝国と結託していると勝手に思っていた。だが、脅されても、脅されても、最後まで忠義を尽くしたのに、僕は全く何もしてあげられなかった。
僕は、第三王子として、これまでホスロから様々なことを学んできた。それでも、僕にはまだ足りないものがある。人の心中を察し、誰かを救うことのできる力だ。
こんなことを言うと、まるで言い訳のようになってしまうが、僕の力は欠けている。僕ら三人の王子の力が合わさって、ようやく一人前になる。
僕は少々、道を見誤っていたようだ…
父は僕を優しいと評価してくれた。でも、僕はそうは思えない。今のままでは、絶対にそうは思えない気がした。
「………マージ、君にはこれまで辛い思いをさせてしまい、本当に申し訳なかった。父から口止めされていたとはいえ、僕はお前のことをちゃんと理解できていなかった。…………………本当に、申し訳ない。」
僕は、心からマージに謝罪した。
「……あなたが謝る必要はない。全ては、この俺が仕組んで実行したことだ。こちらが謝るべきだ。謝っても、謝りきれない。結局俺は、主君に依存するしかなかったんだ…あそこで………あそこで、俺の気持ちを伝えられたらっ……………」
マージは、ポロポロと涙を流しながらそう言った。
周りの貴族、王族たちはただ黙っており、その場には、静寂の時が流れる。誰も、咎めようとする者はいなかった。
「…マージ。」
「……なんでしょう?」
僕は、改めてマージに向き直る。
「…お前が良ければ、またお前に、ここで働いてほしい。俺はそう思っている。」
「…!?」
マージはひどく驚いていた。一国の王を殺害したその罪は、本来ならば即死刑だ。でも、その家族である、王子である俺が、再び雇うという世迷い言を言いのけるのだ。驚くのも無理はないだろう。
「父は、お前の腕を見込んで、この国のことを一回は託そうとした。優しくて、人のために尽くせる、傲りのない人物だ。僕は、そんな人材を失いたくはない。」
マージの頬に、再び涙が伝う。
「そして何よりも、この国のことが大好きだ。父の思いを継ぎ、僕はこの国を立てていきたい。そのためには、マージ。君の力が必要なんだ。」
僕は、マージに微笑みかけた。
「僕らとともに、この国を作っていこう。」
マージは、その場に泣き崩れた。
◇
それから数日後、僕はジーク兄さんに呼ばれたので、執務室へと向かった。すると、そこにはマクドル兄さんもいた。
「あれ?マクドル兄さんまでどうしたの?」
「いや、ジークが何か大切な話があるみたいだからね。」
そう言って、僕に微笑む。…?どうしたのだろう?
「さて、二人に集まってもらったのは、他でもない。
………この国の、行く先について話し合うためだ。」
「急に改まってどうしたの?」
「ふっふふ♪」
マクドル兄さんが、楽しそうに笑う。
「父が遺した言葉を、マージから間接的に聞くことになってしまったが、父は、僕らが短所を補いあってこの国をつくっていけ、と仰られた。三人で協力しあおうにも、まだこの国の長が決まっていないのは、お前たちも知っての通りだ。」
うん。あ、ということは、今日はジーク兄さんが、就任する意向を僕たちに伝えるために呼んだんだね!
なるほど、なるほど♪
「俺は、政治よりも腕に猛る。この国の兵力を増強させるには、俺が軍のリーダーとなる必要があるだろう。」
ん?どういうことだ……?
「マクドルは、腕はそんなにたつ方ではないが、その執政力はお前の知っている通りだ。だが、国の議会の長の座を空席にするわけにはいかない。」
……あれ?雲行きが怪しくなってきたぞ?………まさか。
「改めて、タールランド第三王子、タイト・タール。
この国の、タールランドの国王として、皆を統べていってくれないか?」
ジーク兄さんと、マクドル兄さんは僕の方を向く。
そして、胸に手を当てる、この国最大の敬礼を行う。
………………………
「ええええええええええええ!?」
…僕なんかに、執政できるんですかね?
第一章 完
その中でも、自分の無力さ、が一番強かった。
父に持病があるのは知っていた。だが、余命があと少しだというのに、僕は全く気づけなかった。
マージの妻が人質にとられていたのに、彼は、父を殺そうとは微塵も思わなかった。この国に非常に尽くしてくれたのに、僕は全く知らなかった。
ズール帝国と結託していると勝手に思っていた。だが、脅されても、脅されても、最後まで忠義を尽くしたのに、僕は全く何もしてあげられなかった。
僕は、第三王子として、これまでホスロから様々なことを学んできた。それでも、僕にはまだ足りないものがある。人の心中を察し、誰かを救うことのできる力だ。
こんなことを言うと、まるで言い訳のようになってしまうが、僕の力は欠けている。僕ら三人の王子の力が合わさって、ようやく一人前になる。
僕は少々、道を見誤っていたようだ…
父は僕を優しいと評価してくれた。でも、僕はそうは思えない。今のままでは、絶対にそうは思えない気がした。
「………マージ、君にはこれまで辛い思いをさせてしまい、本当に申し訳なかった。父から口止めされていたとはいえ、僕はお前のことをちゃんと理解できていなかった。…………………本当に、申し訳ない。」
僕は、心からマージに謝罪した。
「……あなたが謝る必要はない。全ては、この俺が仕組んで実行したことだ。こちらが謝るべきだ。謝っても、謝りきれない。結局俺は、主君に依存するしかなかったんだ…あそこで………あそこで、俺の気持ちを伝えられたらっ……………」
マージは、ポロポロと涙を流しながらそう言った。
周りの貴族、王族たちはただ黙っており、その場には、静寂の時が流れる。誰も、咎めようとする者はいなかった。
「…マージ。」
「……なんでしょう?」
僕は、改めてマージに向き直る。
「…お前が良ければ、またお前に、ここで働いてほしい。俺はそう思っている。」
「…!?」
マージはひどく驚いていた。一国の王を殺害したその罪は、本来ならば即死刑だ。でも、その家族である、王子である俺が、再び雇うという世迷い言を言いのけるのだ。驚くのも無理はないだろう。
「父は、お前の腕を見込んで、この国のことを一回は託そうとした。優しくて、人のために尽くせる、傲りのない人物だ。僕は、そんな人材を失いたくはない。」
マージの頬に、再び涙が伝う。
「そして何よりも、この国のことが大好きだ。父の思いを継ぎ、僕はこの国を立てていきたい。そのためには、マージ。君の力が必要なんだ。」
僕は、マージに微笑みかけた。
「僕らとともに、この国を作っていこう。」
マージは、その場に泣き崩れた。
◇
それから数日後、僕はジーク兄さんに呼ばれたので、執務室へと向かった。すると、そこにはマクドル兄さんもいた。
「あれ?マクドル兄さんまでどうしたの?」
「いや、ジークが何か大切な話があるみたいだからね。」
そう言って、僕に微笑む。…?どうしたのだろう?
「さて、二人に集まってもらったのは、他でもない。
………この国の、行く先について話し合うためだ。」
「急に改まってどうしたの?」
「ふっふふ♪」
マクドル兄さんが、楽しそうに笑う。
「父が遺した言葉を、マージから間接的に聞くことになってしまったが、父は、僕らが短所を補いあってこの国をつくっていけ、と仰られた。三人で協力しあおうにも、まだこの国の長が決まっていないのは、お前たちも知っての通りだ。」
うん。あ、ということは、今日はジーク兄さんが、就任する意向を僕たちに伝えるために呼んだんだね!
なるほど、なるほど♪
「俺は、政治よりも腕に猛る。この国の兵力を増強させるには、俺が軍のリーダーとなる必要があるだろう。」
ん?どういうことだ……?
「マクドルは、腕はそんなにたつ方ではないが、その執政力はお前の知っている通りだ。だが、国の議会の長の座を空席にするわけにはいかない。」
……あれ?雲行きが怪しくなってきたぞ?………まさか。
「改めて、タールランド第三王子、タイト・タール。
この国の、タールランドの国王として、皆を統べていってくれないか?」
ジーク兄さんと、マクドル兄さんは僕の方を向く。
そして、胸に手を当てる、この国最大の敬礼を行う。
………………………
「ええええええええええええ!?」
…僕なんかに、執政できるんですかね?
第一章 完
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