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第一章 “最弱”のギルド 編
4 作戦を立てよう
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ここは、ウィル大陸の東方に位置する、アスタル王国。俺が支部長として赴任した、ユンクレアを含めた四つの都市と、“熱砂”と呼ばれる巨大な砂漠を挟んだ西側にある、元は独立国家だった、二つの自治領からなる、かなり大きな主権国家である。面積自体広く、山もあるし、海にも面している。そのため、産業は非常に幅が広いが、砂漠が国の面積の大部分を占めるために、国力はどうしても他国に劣ってしまっている。しかしこのアスタル王国には、他のどの国も同じ数ほど持ち合わせていない、貴重な資源を有している。それが、魔法迷宮――ダンジョンと、その攻略者――高いレベルの冒険者達である。
◇
「だからこそ、この国にある冒険者ギルドの支部はどこもレベルと実績、数と質両方を大切にしている。そのせいで、今のこのユンクレアの様に、依頼達成数が少ないからという全くもって理不尽な理由で差別を受ける支部もあるくらいだ。予算分配額を上げるにしても、地位の向上にしても、どのみち俺たちも実績を積まなければならない。」
ホワイトボードに書きながら、話を続ける。
「そのために、巨大魔物を討伐するんですよね。」
ミヨは、なんとなく気持ちが高ぶっている様子で言う。自分たちの支部が、他のどこの支部も見返すチャンスがあることを改めて理解できたからだろう。
「ああ。だが、そのためにはまず相手を知る必要がある。“巨大な魔物”だという情報だけでは、何の対処にもならないからな。」
ホワイトボードに、魔物のイラストと?を書く。
「そういえば、ユンクレアに人がたくさんいた頃、討伐依頼を出していたと言っていたな。」
「はい。僕とミヨさん二人で手分けして、ユンクレア所属の冒険者達に依頼をしてきました。ですが、その人たちも太刀打ちができないほど、相手は強かったんです。Bランクの冒険者が束になってかかっても勝てないんですよ?」
「そうだな……。まあ、お前らは分かっていると思うが、いくら強い冒険者でも、正面から攻めたところで勝てるはずがないだろう。だけども、ちょっとでも裏をかけば、Cランク冒険者でも苦戦はするが、絶対に勝てるだろうな。」
「「!?」」
俺の発言に、二人の顔が強ばる。いや、絶対に無茶だろ。何言ってるんだこいつ。……言いたいことがすごくよく伝わってくる。
「まあ、そう疑うな。実際、俺はこれまでそういう戦いかたで生き抜いてこれたんだ。」
「確かに、支部長はAランクでしたね。」
この世界は、実力主義だ。全国に数多ある冒険者ギルドは、冒険者達の社会の縮図とも言える。下はFから上はSSまで徹底的にランク分けされているからこそ、どうしても上のランクの者の言うことは絶対などと、暗黙の了解ができてしまう。
「ミヨ、そんなにランクに惑わされるな。俺よりランクが低くても、優秀なヤツは一杯いるからな……まあ、そんなことは今はいい。ちなみに、その魔物について、何処まで調査が進んでいる。」
「…えっと、これは、これまで協力していただいた冒険者さんから聞き取った情報や、戦った際に手に入れていただいた体部と、それからアスタル王都の図書館に保管されているデータを元に調査・判断をしたものなんですけど……。」
スバルがまとめたというデータベースで、特に気になる部分や大切な部分をホワイトボードに書き出していく。
まず、この魔物に対して、近接戦闘はほぼ不可能だということ。相手は炎系統の魔法を使役し、その射程範囲が非常に広いということ。そして、効くと思われる水系統の魔法が、一切通用しないということ。
「なるほど……こうやって書き出してみると、こちらが不利になる条件ばかりだなぁ。」
ホワイトボードは、魔物の強さを表すものだけでいっぱいになってしまうほどだった。
「支部長、こんなに油断も隙もない相手に、本当に勝てるんですか?」
俺の横に立つミヨが、心配そうに訊ねてくる。確かに、一般の冒険者が一目みたら、逃げ出したくなってしまう要素ばかりだ。そう心配したくなる気持ちは分かるが…。
「言っただろ、俺は普通の戦いかたで勝つつもりはないって。」
「しかし、相手にどうやって挑むのですか?」
俺は、スバルがまとめてくれた資料のはしっこに目を向ける。
「ほれ、この最後のところ、読んでみ。」
「えっと………『魔法の威力は高いが、相手は動きが遅い。』ですか。それに、『音に非常に敏感で、光の方を向く癖がある。』? 支部長、これが一体なんだと言うのですか?」
動きが遅いという情報以外は、全く役に立たなさそうにみえる。だが、これが魔物討伐の大きな切り札になる。
「さて、じゃあここからはスバルに質問だ。Cランクの冒険者にでも扱える、瞬間的に発生する魔法で、音と光を発するものってなーんだ?」
「えっ……。確か、炎系遅効性の魔法に、『爆発』の術式はあった気がしますが、瞬間的に効くとなると……まさか、掛け合わせですか!?」
「ああ、お前は気づいたみたいだな。さて、ミヨ。お前はどうだ?」
「うーん、私は魔法にさっぱりで…。」
「じゃあ、これならどうだ? 一般家庭でもよく使われる、お湯を沸かすのに使う魔法だ。」
「それなら私でも分かります。『突沸』ですよね?」
「そうだ。じゃあ、二つの魔法術式を組み合わせたら、一体どんな魔法が出来上がるだろうか?」
スバルは、頭に手を当て、真剣に考え始める。そんなに固くならずとも、パッと分かるくらい簡単なものなんだが……ちょっと深く考えすぎだろう。すると、ミヨはハッと気づいたように言う。
「もしかして、『突然爆発』だったりして……なんちゃって、そんなことはないか♪」
「正解だ。」
「え……本当なんですか?」
「ああ。それが、一番シンプルかつ簡単な方法だ。」
つまり、こういうことだ、とホワイトボードに作戦を書いていく。
それをみて、ミヨが顎に手を当てて、なるほどとうなずく。
「確かに、この方法でしたら、Cランクの冒険者さんでも、充分に戦うことができそうですね。」
「ああ。元々が、低火力の魔法と、家庭魔法を組み合わせた簡易的なものだからな。それでも、相手を幾分かは止められるだろうし、勝つのには充分すぎるくらいに時間は稼げるだろう。」
「これだったら、絶対に勝てますね……! 凄いですよ、支部長!!」
二人とも、目を輝かせながら俺を見る。そんなに誉められる作戦を言ったつもりはないが……なんだか…………むず痒い。
だがしかし、これを実行するためには、あるものが足りない。
「問題は、人員不足だな。」
そう。この作戦を遂行するには、人手が必要なのだ。
◇
「だからこそ、この国にある冒険者ギルドの支部はどこもレベルと実績、数と質両方を大切にしている。そのせいで、今のこのユンクレアの様に、依頼達成数が少ないからという全くもって理不尽な理由で差別を受ける支部もあるくらいだ。予算分配額を上げるにしても、地位の向上にしても、どのみち俺たちも実績を積まなければならない。」
ホワイトボードに書きながら、話を続ける。
「そのために、巨大魔物を討伐するんですよね。」
ミヨは、なんとなく気持ちが高ぶっている様子で言う。自分たちの支部が、他のどこの支部も見返すチャンスがあることを改めて理解できたからだろう。
「ああ。だが、そのためにはまず相手を知る必要がある。“巨大な魔物”だという情報だけでは、何の対処にもならないからな。」
ホワイトボードに、魔物のイラストと?を書く。
「そういえば、ユンクレアに人がたくさんいた頃、討伐依頼を出していたと言っていたな。」
「はい。僕とミヨさん二人で手分けして、ユンクレア所属の冒険者達に依頼をしてきました。ですが、その人たちも太刀打ちができないほど、相手は強かったんです。Bランクの冒険者が束になってかかっても勝てないんですよ?」
「そうだな……。まあ、お前らは分かっていると思うが、いくら強い冒険者でも、正面から攻めたところで勝てるはずがないだろう。だけども、ちょっとでも裏をかけば、Cランク冒険者でも苦戦はするが、絶対に勝てるだろうな。」
「「!?」」
俺の発言に、二人の顔が強ばる。いや、絶対に無茶だろ。何言ってるんだこいつ。……言いたいことがすごくよく伝わってくる。
「まあ、そう疑うな。実際、俺はこれまでそういう戦いかたで生き抜いてこれたんだ。」
「確かに、支部長はAランクでしたね。」
この世界は、実力主義だ。全国に数多ある冒険者ギルドは、冒険者達の社会の縮図とも言える。下はFから上はSSまで徹底的にランク分けされているからこそ、どうしても上のランクの者の言うことは絶対などと、暗黙の了解ができてしまう。
「ミヨ、そんなにランクに惑わされるな。俺よりランクが低くても、優秀なヤツは一杯いるからな……まあ、そんなことは今はいい。ちなみに、その魔物について、何処まで調査が進んでいる。」
「…えっと、これは、これまで協力していただいた冒険者さんから聞き取った情報や、戦った際に手に入れていただいた体部と、それからアスタル王都の図書館に保管されているデータを元に調査・判断をしたものなんですけど……。」
スバルがまとめたというデータベースで、特に気になる部分や大切な部分をホワイトボードに書き出していく。
まず、この魔物に対して、近接戦闘はほぼ不可能だということ。相手は炎系統の魔法を使役し、その射程範囲が非常に広いということ。そして、効くと思われる水系統の魔法が、一切通用しないということ。
「なるほど……こうやって書き出してみると、こちらが不利になる条件ばかりだなぁ。」
ホワイトボードは、魔物の強さを表すものだけでいっぱいになってしまうほどだった。
「支部長、こんなに油断も隙もない相手に、本当に勝てるんですか?」
俺の横に立つミヨが、心配そうに訊ねてくる。確かに、一般の冒険者が一目みたら、逃げ出したくなってしまう要素ばかりだ。そう心配したくなる気持ちは分かるが…。
「言っただろ、俺は普通の戦いかたで勝つつもりはないって。」
「しかし、相手にどうやって挑むのですか?」
俺は、スバルがまとめてくれた資料のはしっこに目を向ける。
「ほれ、この最後のところ、読んでみ。」
「えっと………『魔法の威力は高いが、相手は動きが遅い。』ですか。それに、『音に非常に敏感で、光の方を向く癖がある。』? 支部長、これが一体なんだと言うのですか?」
動きが遅いという情報以外は、全く役に立たなさそうにみえる。だが、これが魔物討伐の大きな切り札になる。
「さて、じゃあここからはスバルに質問だ。Cランクの冒険者にでも扱える、瞬間的に発生する魔法で、音と光を発するものってなーんだ?」
「えっ……。確か、炎系遅効性の魔法に、『爆発』の術式はあった気がしますが、瞬間的に効くとなると……まさか、掛け合わせですか!?」
「ああ、お前は気づいたみたいだな。さて、ミヨ。お前はどうだ?」
「うーん、私は魔法にさっぱりで…。」
「じゃあ、これならどうだ? 一般家庭でもよく使われる、お湯を沸かすのに使う魔法だ。」
「それなら私でも分かります。『突沸』ですよね?」
「そうだ。じゃあ、二つの魔法術式を組み合わせたら、一体どんな魔法が出来上がるだろうか?」
スバルは、頭に手を当て、真剣に考え始める。そんなに固くならずとも、パッと分かるくらい簡単なものなんだが……ちょっと深く考えすぎだろう。すると、ミヨはハッと気づいたように言う。
「もしかして、『突然爆発』だったりして……なんちゃって、そんなことはないか♪」
「正解だ。」
「え……本当なんですか?」
「ああ。それが、一番シンプルかつ簡単な方法だ。」
つまり、こういうことだ、とホワイトボードに作戦を書いていく。
それをみて、ミヨが顎に手を当てて、なるほどとうなずく。
「確かに、この方法でしたら、Cランクの冒険者さんでも、充分に戦うことができそうですね。」
「ああ。元々が、低火力の魔法と、家庭魔法を組み合わせた簡易的なものだからな。それでも、相手を幾分かは止められるだろうし、勝つのには充分すぎるくらいに時間は稼げるだろう。」
「これだったら、絶対に勝てますね……! 凄いですよ、支部長!!」
二人とも、目を輝かせながら俺を見る。そんなに誉められる作戦を言ったつもりはないが……なんだか…………むず痒い。
だがしかし、これを実行するためには、あるものが足りない。
「問題は、人員不足だな。」
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