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3章

47話 衝突しました

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 そしてその男は叫んだ。無数の傷のある顔を真っ青にして。
本気で怒っているような声で…いや、間違いなく怒っているのだろう。
御身を思って傍を離れる決意をし、心を鬼にして強引に置いていったはずのお嬢様が、リリィが、よりにもよってこんな所に現れたのだから。
その男の──ライアーの怒りは正当なものである。

 しかし、リリィは何も答えなかった。ただただその虚ろな瞳から涙を溢れさせたのだ。
そしてそんな様子のリリィを見たライアーは、どうしようもないその怒りの矛先を、自分の主人を抱えている見知らぬ男へと向けた。

「……貴方ですか?お嬢様を、このような場所へ連れてきたのは…!!」

 ディルレッドに向け怒りをあらわにして、蛇のような竜のような鋭い瞳孔で睨んでいた。

「そうだけど。じゃあ、お前がライアーだな?」

 その剣幕に怯むことなく、ディルレッドは答えた。
静かに泣いているリリィの事をゆっくりと降ろし、その肩に手を回して支えながらライアーへと問い返す。

「…っ、僕の質問に答えてください!どうして、お嬢様をこの場にお連れしたのですか?それに……お嬢様の様子だって…!!」
「ここに来たのはお前に用があったからだよ。リリィの様子に関しては…俺が聞きたいくらいだ。急におかしくなったからな」

 柄にもなく怒りや焦りを見せるライアーと一転して、ディルレッドは恐ろしいくらい落ち着いていた。
その視線は、今もなお自分の腕の中で涙を流し続けるリリィに落とされていた。

(さて…これでこの男がどう出るか。ていうかこいつ……真面目に美形じゃね?しかも明らかに人間じゃない…リリィが何回も名前呼んでたってのもなんか腹立つな)
(この人が何を考えているのか分からない上にお嬢様を人質とされる可能性がある以上、下手に手は出せない…だがこの人は嘘をついている様子がない……一体どうするべきか…)

 互いに相手に対する情報がほとんど無いため、ほとんど予想だけのものになるのは致し方無い。
しかしこの2人…見事に謎の心理戦を始めたかのように見えたが、その実全く心理戦などしていなかった。
確かにライアーは心理戦をしているのだが、ディルレッドは全くしていなかった。
しかけてはいたのだけれど、その思考は途中からただの妬みへと変わってしまった。

「………とにかく、お嬢様をこちらに引き渡していただけますか?大事なお嬢様を見知らぬ人間に任せるわけにはいきませんので」

 冷静になるために大きく深呼吸をし、ライアーはディルレッドに向き直った。
どんな理由があるかまだ分からないが、今1番優先すべき事はリリィだということはライアーにとって当然の事だった。
何があろうと変わらない、普遍的な決まり。
お嬢様至上主義。それがライアーの信念…に近しいものだったからだ。

 なればこそ、ライアーは何よりもまずリリィの奪還を目論んだ。
それが今最も行うべき言動アクションだと気づいたから。
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