上 下
47 / 73
3章

40話 仲良くしましょうよ

しおりを挟む
「ふむ…これは俺の国ではかなりウケたジョークなんだが……この状況ではウケるものもウケないということか…にしてもリリィ、君はどうやら俺とあんまり関わりたく無いみたいだな」

 ディルレッドが大真面目にふざけたことを言い出す。
すると突然核心に迫るような事も口にした。
それにより、リリィ肩を跳ね上がらせて咄嗟にディルレッドの顔を見上げた。
そこには、怒ってるわけでは無くむしろ笑っているディルレッドの顔があった。

「きっと貴女は俺と初対面だ。それなのに俺は出逢えたことに感激のあまり距離感を誤ってしまったようだからな…触らぬ神に祟りなしというし、そうやって関わりたくなさそうにしても不思議では無い」

 ディルレッドはわざとらしく、妙に引っかかる言い方を選んだ。
まるでこれまでの自分の言動に自覚があるように話す。
しかしこの軽薄男チャラ男、距離感を誤ったと言いながら離れるつもりは一切無いという。
まるで高慢な王侯貴族のように。どこまでも自分本位に行動していた。

 この男はこの国とは海を隔てた先にある海上貿易国家から、この国の騎士団に入団しに来ていた。
先程の『俺の国』という発言は、そこから来たものだろう。

 ディルレッドもまた、どこかの男のように遠い過去の日に見た1人の少女に心惹かれていた。
それは父親に連れられて行った、大きな国の王宮で開かれた絢爛豪華なパーティ。
おべっかを並べてゴマをする大人達に愛想笑いをするのにも疲れて、幼いディルレッドが1人で会場内を歩き回っていた時だった。
嘲笑い蔑むような衆目に晒されながらも令嬢らしく凛として佇む、赤い壁の花を見つけたのは。

 声をかけようと思っただろう。しかし、ディルレッドが声をかける寸前にこの国の王子が何やら一悶着起こしてしまい、令嬢はその時点で会場を後にした。
だからディルレッドは声をかけられなかったのだ。
しかし、自国に帰ってもその令嬢の姿がどうしても記憶に残り続けた。
だからディルレッドはこの国にまた訪れたのだろう。

 とどのつまり。彼の王子のように、この男もまた初恋を拗らせている相手にしない方がいいタイプのストーカーという事だ。
顔が整ってなければ許されないだろう所業をしているのだから。
 とまぁ、そんな過去の思い出に固執した男の話術に、正気を保てていないリリィは簡単に引っかかってしまう。

(なんだろうこの人…すごく、変な感じがする……)

 何となくそんな気がする。ただそれだけのふとした違和感のようなもの。
だがそれは確実にリリィの中に巣食い始めたのだ。
ただでさえ様々な感情に心を埋め尽くされてしまっているというのに、目の前の男が何者か分からない恐怖にまでも襲われてしまう。
だから離れたいのに離れられないというリリィのこの状況は、事実上の四面楚歌と言っても過言では無いだろう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー
恋愛
 それは舞踏会の最中の出来事。アルメリアは婚約者であるムスカリ王太子殿下に突然婚約破棄を言い渡される。  やはりこうなってしまった、そう思いながらアルメリアはムスカリを見つめた。  時を遡り、アルメリアが六つの頃の話。  避暑先の近所で遊んでいる孤児たちと友達になったアルメリアは、彼らが人身売買に巻き込まれていることを知り一念発起する。  そして自分があまりにも無知だったと気づき、まずは手始めに国のことを勉強した。その中で前世の記憶を取り戻し、乙女ゲームの世界に転生していて自分が断罪される悪役令嬢だと気づく。  断罪を避けるために前世での知識を生かし自身の領地を整備し事業を起こしていく中で、アルメリアは国の中枢へ関わって行くことになる。そうして気がつけば巨大な陰謀へ巻き込まれていくのだった。  そんなアルメリアをゲーム内の攻略対象者は溺愛し、更には隣国の皇帝に出会うこととなり……  行方不明になった友人を探し、自身の断罪を避けるため転生悪役令嬢は教会の腐敗を正して行く。そんな悪役令嬢の転生・恋愛物語。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

ヒロインがいない世界で悪役令嬢は婚約を破棄し、忠犬系従者と駆け落ちする

平山和人
恋愛
転生先はまさかの悪役令嬢・サブリナ!? 「なんで悪役!? 絶対に破滅エンドなんて嫌!」 愚かな俺様王子なんて、顔だけ良ければヒロインに譲ってあげるつもりだった。ところが、肝心のヒロインは学園にすら入学していなかった! 「悪役令嬢、完全に詰んでるじゃない!」 ずっとそばで支えてくれた従者のカイトに密かに恋をしているサブリナ。しかし、このままでは王子との婚約が破棄されず、逃げ場がなくなってしまう。ヒロインを探そうと奔走し、別の婚約者を立てようと奮闘するものの、王子の横暴さにとうとう我慢の限界が。 「もう無理!こんな国、出ていきます!」 ついにサブリナは王子を殴り飛ばし、忠犬系従者カイトと共に国外逃亡を決意する――!

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...