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5話 正体を隠す必要がありました
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「時にお嬢様…何かやりたい事などはごさいますか?」
処刑が行なわれたその日の夜。王都の外れにあるお店で2人で夕食をとっていたら、ライアーがふと伺ってきて。
「やりたい事…ってどういう事?」
人目があるため被り続けているローブを揺らし、首を傾げる。
「これからはもうお嬢様は自由の身なのですから。今まで我慢してきた事や、やってみたい事などがあれば仰ってください」
自由の身…ライアーはそう言った。
今までみたいにお家に行動を制限される事もなく、やりたい事を最初から諦める必要もない。
私は──本当に自由になれたんだ。
「やりたい事…改めて考えると、すぐには出てこないものね。今までは色んな人や物を妬んでは、アレがしたいコレがしたいって思っていたのに」
思ったところでどうせ意味は無いと諦め続けていた。
少し考えたら出そうだけど、どうにも咄嗟には出ないらしい。
「ゆっくりで構わないんですよ。ふと思いついた際に仰ってくだされば、そのやりたい事をやれるように僕が尽力しますから」
ライアーが「お任せを」と胸元に手を当てて、微笑を浮かべる。
「わかったわ。何か思いついたら言うようにするわね、ライ──」
「なぁ聞いたか噂の鮮血令嬢の話!」
彼へと返事をしようとすると、他のテーブルから聞こえてくる声によって妨げられてしまった。
そのテーブルの男性達は、ジョッキ片手に真っ赤になった顔をつきあわせて酒の肴を楽しんでいた。
聞くからに怪しいそれに少し興味を引かれて、聞き耳を立てる。
わざわざ立てずとも、彼らの声が大きいから聞こえてくるのだけれども。
「それってアレだろ?王子サマを殺そうとしたとかで処刑されたっていう御令嬢だったか?」
あれ…?それって、私の事じゃないかしら?
人の噂は千里を駆けると言うけれど、本当に市井の噂話の広まりって凄いのね。
「元々その御令嬢って赤い髪だったらしいんだけどさ、処刑されて血溜まりに落ちた頭が血の色と同じ色だったんだとよ!!」
「がはははは!!それで鮮血令嬢ってか!随分相応しい名前じゃねえか!」
「オレも見たかったぜぇ、鮮血令嬢の処刑!」
周りの事など気にせず騒ぎ、大口を開けて笑い酒を煽る男性達。
その話を聞いて、私は更にローブを深く被る。
顔は大丈夫だろうけど、私の髪の色はとても珍しいから、少しでも見られたら不審に思われてしまうかもしれない。
不安になる気持ちを抑えるようにローブで顔に影を作る。
すると、同じようにその話を聞いていたライアーがひとつ私に提案してきた。
「お嬢様…どうやらあのようにお嬢様の不名誉な噂が出回っているようですので、外見を少々変えた方がよろしいかと思うのですが、如何なされますか?」
外見を変える…その手があったわ!
そうすれば誰にも私だって気づかれるはずがないですもの!!
「外見にこだわりは無いから、全然構わないのだけれど……具体的にどこをどう変えればいいのかしら」
「それでしたら、御髪の色などを染めて変えてみては如何でしょうか?髪型も変えて、服装も変えて、最後に名前を変えてしまえば、きっともう誰にもお嬢様だとは分からなくなりますよ」
私はセレスティア・アルセリアでは無くなった。
ならばもう、この外見をしている必要は無いという事だ。
その事に嬉しさのあまりついつい頬が緩んでしまう。
私も今まで見てきた令嬢達のように、お洒落を楽しむことができるのだから。
処刑が行なわれたその日の夜。王都の外れにあるお店で2人で夕食をとっていたら、ライアーがふと伺ってきて。
「やりたい事…ってどういう事?」
人目があるため被り続けているローブを揺らし、首を傾げる。
「これからはもうお嬢様は自由の身なのですから。今まで我慢してきた事や、やってみたい事などがあれば仰ってください」
自由の身…ライアーはそう言った。
今までみたいにお家に行動を制限される事もなく、やりたい事を最初から諦める必要もない。
私は──本当に自由になれたんだ。
「やりたい事…改めて考えると、すぐには出てこないものね。今までは色んな人や物を妬んでは、アレがしたいコレがしたいって思っていたのに」
思ったところでどうせ意味は無いと諦め続けていた。
少し考えたら出そうだけど、どうにも咄嗟には出ないらしい。
「ゆっくりで構わないんですよ。ふと思いついた際に仰ってくだされば、そのやりたい事をやれるように僕が尽力しますから」
ライアーが「お任せを」と胸元に手を当てて、微笑を浮かべる。
「わかったわ。何か思いついたら言うようにするわね、ライ──」
「なぁ聞いたか噂の鮮血令嬢の話!」
彼へと返事をしようとすると、他のテーブルから聞こえてくる声によって妨げられてしまった。
そのテーブルの男性達は、ジョッキ片手に真っ赤になった顔をつきあわせて酒の肴を楽しんでいた。
聞くからに怪しいそれに少し興味を引かれて、聞き耳を立てる。
わざわざ立てずとも、彼らの声が大きいから聞こえてくるのだけれども。
「それってアレだろ?王子サマを殺そうとしたとかで処刑されたっていう御令嬢だったか?」
あれ…?それって、私の事じゃないかしら?
人の噂は千里を駆けると言うけれど、本当に市井の噂話の広まりって凄いのね。
「元々その御令嬢って赤い髪だったらしいんだけどさ、処刑されて血溜まりに落ちた頭が血の色と同じ色だったんだとよ!!」
「がはははは!!それで鮮血令嬢ってか!随分相応しい名前じゃねえか!」
「オレも見たかったぜぇ、鮮血令嬢の処刑!」
周りの事など気にせず騒ぎ、大口を開けて笑い酒を煽る男性達。
その話を聞いて、私は更にローブを深く被る。
顔は大丈夫だろうけど、私の髪の色はとても珍しいから、少しでも見られたら不審に思われてしまうかもしれない。
不安になる気持ちを抑えるようにローブで顔に影を作る。
すると、同じようにその話を聞いていたライアーがひとつ私に提案してきた。
「お嬢様…どうやらあのようにお嬢様の不名誉な噂が出回っているようですので、外見を少々変えた方がよろしいかと思うのですが、如何なされますか?」
外見を変える…その手があったわ!
そうすれば誰にも私だって気づかれるはずがないですもの!!
「外見にこだわりは無いから、全然構わないのだけれど……具体的にどこをどう変えればいいのかしら」
「それでしたら、御髪の色などを染めて変えてみては如何でしょうか?髪型も変えて、服装も変えて、最後に名前を変えてしまえば、きっともう誰にもお嬢様だとは分からなくなりますよ」
私はセレスティア・アルセリアでは無くなった。
ならばもう、この外見をしている必要は無いという事だ。
その事に嬉しさのあまりついつい頬が緩んでしまう。
私も今まで見てきた令嬢達のように、お洒落を楽しむことができるのだから。
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