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第五章・帝国の王女

♢611.Chapter1 Prologue

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 多くを望んだ訳ではない。
 ただ、愛する者達とずっと一緒に居たかった。陽だまりのように温かな日々を守りたかった。それだけが、幼少のみぎりよりの願いだったんだ。
 鬼畜だとか外道だとか揶揄されて来たが……いつだって俺は、金銀財宝よりも、権威よりも、闘争よりも、なんてことはない平穏を望んでいたのに。
 それすらも叶わなかった。俺の最愛はある日突然、永遠に奪われたのだ。──あの、忌むべき女に。

 愚かにも我が最愛を殺し、のうのうと生まれ落ちた女。
 どいつもこいつもあの女に罪は無いと言うが……ならば誰が悪いのだ。誰に罪があるのだ。誰が俺の妻を殺したんだ。
 病もなく、怪我もなく、健康そのものであった母体が何故出産直後に死んだんだ? あれではまるで……あいつの命を犠牲に、あの女が生まれたようなものじゃないか。
 何故、何故! あの女を誰も責めない? あの女こそが悪だと、我が最愛を殺したのだと、何故誰も認めない?

 ──いいや。誰も認めずとも、俺がそう断じる。
 あの女が、我が最愛を殺した。誰が否定しようとも、妻を殺した者が現れぬ限り最有力候補──被疑者は決して変わらない。
 ならば俺は……他ならぬ俺だけは。子殺しの大罪を冒してでも、この罪を問わねばなるまい。どうせ、俺はもう地獄へ落ちる事が確定しているのだから……これ以上罪を冒すことには一切の抵抗が無いとも。

 故に。俺は問う。
 我が最愛つまを殺してまで生まれ落ちておきながら──あいつと瓜二つのかおに成長してくれよったという、あの女に。
 親殺しの、その大罪を──……。


 ♢♢


 時は五月の下旬。
 同月の上旬頃に始まった妖精達による帝都の侵略。そして本格的に開始した妖精との戦いは、当事者一同腑に落ちない形で終結したという。

 私も当事者ではあるのだが……宝石化による苦しみのあまり途中で無様にも気を失ってしまい、次に目を覚ましたのはなんと四日後。
 シルフ曰く──『宝石化の影響で体内の魔力循環に問題が発生して、自己修復にリソースを割く為に暫く眠り続ける必要があったんだと思う』とのことで。
 死にかけた割にサラッと生き延びているのは、咄嗟の判断で私を救ってくれたシルフと、いくつもの治癒魔法を使ってくれたというミカリアとリードさんのおかげだろう。

 話は戻るが。そんなこんなで終戦より少し遅れて目を覚ました私は、相変わらず過保護全開の面々から蝶よ花よと丁重に扱われつつ、気絶した後の話を聞いたのだ。
 事の顛末には目が飛び出る程驚いた。拉致されたレオがラヴィーロに取引を持ち掛けられていたとか、レオが音魔法で妖精女王の恋心を消し去ったとか。
 大公邸が大惨事のままなので、ローズ共々東宮に滞在しているレオが申し訳なさそうに語ったところ、『美味しいところだけ持っていきやがって』とどこからともなく野次が飛んできたぐらいだ。

 東宮に滞在している人といえば。
 奇跡力から逃れる為に獣化していたジェジが元に戻っていた。私が目を覚ました頃には元気にシャルやユーキと遊んでいたから、それはもう安心したとも。
 ──そう。三人共、まだ東宮うちにいるのだ。
 西部地区が妖精戦の被害を一番被っているとはいえ彼等の家の辺りは無事らしく、私兵団の面々も奇跡力からは解放されたからもう帰っても大丈夫なんじゃ……? と訊ねるとユーキは、

『僕達が傷ついたぶん、ディオ兄達にも傷ついてほしい。具体的に言えば暫く家出してやろうと思ってね』

 と黒い笑顔で答えた。『後でどうなっても知らないよ』とだけ告げ、彼等の好きにさせてあげる事にしたよ。下手に関わったら私までディオにお説教されるからね!
 そんなこんなで慌ただしく過ぎた数週間。

 攻略対象達から奇跡力下のことを平謝りされ(※フリードルは除く)、お詫びという名のプレゼントを送られまくったり(※フリードルも含む)、師匠とシュヴァルツが怖いぐらい優しくなったり、シルフまでもが謝り倒してきたり。
 未だに家出(という名分の割に三人共かなり寛いでいる)をしているユーキ達や、騎士が邸の修繕を終えるまで間借り中のテンディジェル兄妹などなどのお客様と楽しく──事後処理おしごとに塗れた日々を送っていた、ある日のこと。

 私は、数週間ぶりに同郷の盟友──……カイルとミシェルちゃんと会う事になった。
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