684 / 764
第五章・帝国の王女
♢611.Chapter1 Prologue
しおりを挟む
多くを望んだ訳ではない。
ただ、愛する者達とずっと一緒に居たかった。陽だまりのように温かな日々を守りたかった。それだけが、幼少の砌よりの願いだったんだ。
鬼畜だとか外道だとか揶揄されて来たが……いつだって俺は、金銀財宝よりも、権威よりも、闘争よりも、なんてことはない平穏を望んでいたのに。
それすらも叶わなかった。俺の最愛はある日突然、永遠に奪われたのだ。──あの、忌むべき女に。
愚かにも我が最愛を殺し、のうのうと生まれ落ちた女。
どいつもこいつもあの女に罪は無いと言うが……ならば誰が悪いのだ。誰に罪があるのだ。誰が俺の妻を殺したんだ。
病もなく、怪我もなく、健康そのものであった母体が何故出産直後に死んだんだ? あれではまるで……あいつの命を犠牲に、あの女が生まれたようなものじゃないか。
何故、何故! あの女を誰も責めない? あの女こそが悪だと、我が最愛を殺したのだと、何故誰も認めない?
──いいや。誰も認めずとも、俺がそう断じる。
あの女が、我が最愛を殺した。誰が否定しようとも、妻を殺した者が現れぬ限り最有力候補──被疑者は決して変わらない。
ならば俺は……他ならぬ俺だけは。子殺しの大罪を冒してでも、この罪を問わねばなるまい。どうせ、俺はもう地獄へ落ちる事が確定しているのだから……これ以上罪を冒すことには一切の抵抗が無いとも。
故に。俺は問う。
我が最愛を殺してまで生まれ落ちておきながら──あいつと瓜二つの貌に成長してくれよったという、あの女に。
親殺しの、その大罪を──……。
♢♢
時は五月の下旬。
同月の上旬頃に始まった妖精達による帝都の侵略。そして本格的に開始した妖精との戦いは、当事者一同腑に落ちない形で終結したという。
私も当事者ではあるのだが……宝石化による苦しみのあまり途中で無様にも気を失ってしまい、次に目を覚ましたのはなんと四日後。
シルフ曰く──『宝石化の影響で体内の魔力循環に問題が発生して、自己修復にリソースを割く為に暫く眠り続ける必要があったんだと思う』とのことで。
死にかけた割にサラッと生き延びているのは、咄嗟の判断で私を救ってくれたシルフと、いくつもの治癒魔法を使ってくれたというミカリアとリードさんのおかげだろう。
話は戻るが。そんなこんなで終戦より少し遅れて目を覚ました私は、相変わらず過保護全開の面々から蝶よ花よと丁重に扱われつつ、気絶した後の話を聞いたのだ。
事の顛末には目が飛び出る程驚いた。拉致されたレオがラヴィーロに取引を持ち掛けられていたとか、レオが音魔法で妖精女王の恋心を消し去ったとか。
大公邸が大惨事のままなので、ローズ共々東宮に滞在しているレオが申し訳なさそうに語ったところ、『美味しいところだけ持っていきやがって』とどこからともなく野次が飛んできたぐらいだ。
東宮に滞在している人といえば。
奇跡力から逃れる為に獣化していたジェジが元に戻っていた。私が目を覚ました頃には元気にシャルやユーキと遊んでいたから、それはもう安心したとも。
──そう。三人共、まだ東宮にいるのだ。
西部地区が妖精戦の被害を一番被っているとはいえ彼等の家の辺りは無事らしく、私兵団の面々も奇跡力からは解放されたからもう帰っても大丈夫なんじゃ……? と訊ねるとユーキは、
『僕達が傷ついたぶん、ディオ兄達にも傷ついてほしい。具体的に言えば暫く家出してやろうと思ってね』
と黒い笑顔で答えた。『後でどうなっても知らないよ』とだけ告げ、彼等の好きにさせてあげる事にしたよ。下手に関わったら私までディオにお説教されるからね!
そんなこんなで慌ただしく過ぎた数週間。
攻略対象達から奇跡力下のことを平謝りされ(※フリードルは除く)、お詫びという名のプレゼントを送られまくったり(※フリードルも含む)、師匠とシュヴァルツが怖いぐらい優しくなったり、シルフまでもが謝り倒してきたり。
未だに家出(という名分の割に三人共かなり寛いでいる)をしているユーキ達や、騎士が邸の修繕を終えるまで間借り中のテンディジェル兄妹などなどのお客様と楽しく──事後処理に塗れた日々を送っていた、ある日のこと。
私は、数週間ぶりに同郷の盟友──……カイルとミシェルちゃんと会う事になった。
ただ、愛する者達とずっと一緒に居たかった。陽だまりのように温かな日々を守りたかった。それだけが、幼少の砌よりの願いだったんだ。
鬼畜だとか外道だとか揶揄されて来たが……いつだって俺は、金銀財宝よりも、権威よりも、闘争よりも、なんてことはない平穏を望んでいたのに。
それすらも叶わなかった。俺の最愛はある日突然、永遠に奪われたのだ。──あの、忌むべき女に。
愚かにも我が最愛を殺し、のうのうと生まれ落ちた女。
どいつもこいつもあの女に罪は無いと言うが……ならば誰が悪いのだ。誰に罪があるのだ。誰が俺の妻を殺したんだ。
病もなく、怪我もなく、健康そのものであった母体が何故出産直後に死んだんだ? あれではまるで……あいつの命を犠牲に、あの女が生まれたようなものじゃないか。
何故、何故! あの女を誰も責めない? あの女こそが悪だと、我が最愛を殺したのだと、何故誰も認めない?
──いいや。誰も認めずとも、俺がそう断じる。
あの女が、我が最愛を殺した。誰が否定しようとも、妻を殺した者が現れぬ限り最有力候補──被疑者は決して変わらない。
ならば俺は……他ならぬ俺だけは。子殺しの大罪を冒してでも、この罪を問わねばなるまい。どうせ、俺はもう地獄へ落ちる事が確定しているのだから……これ以上罪を冒すことには一切の抵抗が無いとも。
故に。俺は問う。
我が最愛を殺してまで生まれ落ちておきながら──あいつと瓜二つの貌に成長してくれよったという、あの女に。
親殺しの、その大罪を──……。
♢♢
時は五月の下旬。
同月の上旬頃に始まった妖精達による帝都の侵略。そして本格的に開始した妖精との戦いは、当事者一同腑に落ちない形で終結したという。
私も当事者ではあるのだが……宝石化による苦しみのあまり途中で無様にも気を失ってしまい、次に目を覚ましたのはなんと四日後。
シルフ曰く──『宝石化の影響で体内の魔力循環に問題が発生して、自己修復にリソースを割く為に暫く眠り続ける必要があったんだと思う』とのことで。
死にかけた割にサラッと生き延びているのは、咄嗟の判断で私を救ってくれたシルフと、いくつもの治癒魔法を使ってくれたというミカリアとリードさんのおかげだろう。
話は戻るが。そんなこんなで終戦より少し遅れて目を覚ました私は、相変わらず過保護全開の面々から蝶よ花よと丁重に扱われつつ、気絶した後の話を聞いたのだ。
事の顛末には目が飛び出る程驚いた。拉致されたレオがラヴィーロに取引を持ち掛けられていたとか、レオが音魔法で妖精女王の恋心を消し去ったとか。
大公邸が大惨事のままなので、ローズ共々東宮に滞在しているレオが申し訳なさそうに語ったところ、『美味しいところだけ持っていきやがって』とどこからともなく野次が飛んできたぐらいだ。
東宮に滞在している人といえば。
奇跡力から逃れる為に獣化していたジェジが元に戻っていた。私が目を覚ました頃には元気にシャルやユーキと遊んでいたから、それはもう安心したとも。
──そう。三人共、まだ東宮にいるのだ。
西部地区が妖精戦の被害を一番被っているとはいえ彼等の家の辺りは無事らしく、私兵団の面々も奇跡力からは解放されたからもう帰っても大丈夫なんじゃ……? と訊ねるとユーキは、
『僕達が傷ついたぶん、ディオ兄達にも傷ついてほしい。具体的に言えば暫く家出してやろうと思ってね』
と黒い笑顔で答えた。『後でどうなっても知らないよ』とだけ告げ、彼等の好きにさせてあげる事にしたよ。下手に関わったら私までディオにお説教されるからね!
そんなこんなで慌ただしく過ぎた数週間。
攻略対象達から奇跡力下のことを平謝りされ(※フリードルは除く)、お詫びという名のプレゼントを送られまくったり(※フリードルも含む)、師匠とシュヴァルツが怖いぐらい優しくなったり、シルフまでもが謝り倒してきたり。
未だに家出(という名分の割に三人共かなり寛いでいる)をしているユーキ達や、騎士が邸の修繕を終えるまで間借り中のテンディジェル兄妹などなどのお客様と楽しく──事後処理に塗れた日々を送っていた、ある日のこと。
私は、数週間ぶりに同郷の盟友──……カイルとミシェルちゃんと会う事になった。
20
お気に入りに追加
620
あなたにおすすめの小説
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スキル【海】ってなんですか?
陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜
※書籍化準備中。
※情報の海が解禁してからがある意味本番です。
我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。
だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。
期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。
家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。
……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。
それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。
スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!
だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。
生命の海は思った通りの効果だったけど。
──時空の海、って、なんだろう?
階段を降りると、光る扉と灰色の扉。
灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。
アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?
灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。
そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。
おまけに精霊の宿るアイテムって……。
なんでこんなものまで入ってるの!?
失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!
そっとしておこう……。
仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!
そう思っていたんだけど……。
どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?
そんな時、スキルが新たに進化する。
──情報の海って、なんなの!?
元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?
【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?
ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。
当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める……
と思っていたのに…!??
狼獣人×ウサギ獣人。
※安心のR15仕様。
-----
主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる