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第五章・帝国の王女
539.Main Story:Ameless/Sylph
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「ぐぁ……っ!!」
「カイル!」
ミシェルちゃんの悲痛な声が遠くから僅かに聞こえてくる。
「ご無事ですか、主君!! 一体何が起き──っ?!」
ボロボロの私を見て、アルベルトが血相を変える。しかし彼がミシェルちゃん達の方へと視線を向けようとした瞬間、
「何も見るな、ルティ。下手をすればお前まで奇跡の奴隷になるぞ」
「っありがとうございます、シルフ様」
アルベルトの目元にぐるぐると魔法の布が巻き付く。それと同時に姿を見せたシルフが私を見て、強く歯軋りした。
「──フリザセア。お前がついていながらなんだ、この体たらくは。アミィがどうして怪我をしている? どうして泣いている? そもそもどうしてお前がアミィと共にいる? 後でじっくり、話は聞かせてもらうぞ」
「……仰せのままに」
フリザセアさんを威圧し、彼は私を抱き上げた。
「アミィ、どうして泣いているの? ボクに理由を教えておくれ」
「ぅ……っ! 皆が、私のことを──忘れちゃった、の」
「そう。…………あのね、アミィ。それは全部妖精の仕業だよ」
「え──?」
「あの女を中心に、相当量の奇跡力が発動している。あれを喰らえば大抵の人間は狂わされてしまうだろうね」
「……じゃあ、皆は、望んで私を忘れた訳じゃ……ないの? 世界の意思でそうなったんじゃ、ないの?」
「ああ。アイツ等は全員、妖精の奇跡力で無理矢理人格を捻じ曲げられたんだ。だからアミィが気に病むことではないよ」
たとえ嘘だったとしても、その言葉がどれ程私の心に平穏を齎してくれたことか。彼等が自分の意思で私を嫌いになった訳ではないのなら──……いつか、また、今までみたいに過ごせる日が来るかもしれないから。
そう思えるだけで、私は────。
「っ、よか……った…………」
意識が朦朧とする。涙を止める余裕もないまま、私はそこで意識を失ってしまった。
♢♢
やっとの思いで見つけたアミィが怪我をし、涙を流しているのを見た時は本気で怒り狂いそうになった。
だがここで暴れてはアミィにまで被害が出てしまうからなんとか耐えた。それはさておきとにかく移動しようと、微かに痙攣する彼女を抱き上げる。
でも、我慢ならなくて。アミィがどうして泣いているのか。誰がこの子を泣かせたのか。……それを知りたくて、ボクは聞いてしまった。
『皆が、私のことを──忘れちゃった、の』
嗚咽混じりにアミィは言った。
その時、ボクは思った。『薄情な奴等だね。あんな奴等のことを君が気にかける必要なんてないよ』──そう言えば、君はアイツ等のことを見限って、博愛的なその愛情をボクにもっと分け与えてくれるんじゃないかって。
ただ一言、アイツ等を悪し様に言えばよかった。そうすればきっと……アミィの心をボクだけに向けられる。“皆”に与えられる君の愛情を“ボク”だけのものに出来る。
そう分かっていたのに。──ボクには、それが出来なかった。
『…………あのね、アミィ。それは全部妖精の仕業だよ』
悩んだ末に、ボクは正直に説明した。そうしたら、
『っ、よか……った…………』
アミィは心の底から安心したように笑い、度重なる無茶の影響か眠ってしまった。
ボクは君の笑顔を守りたい。君に、泣いて欲しくない。
大好きな君をボクだけのものにしたいのに──……かと言って、君が悲しむような真似は出来ない。君に嫌われる事を何よりも恐れる臆病者なんだ、ボクは。
「……フィン。この辺りの穢妖精を殺したら──あそこのクソボケ野郎共を一発ずつぶん殴って、他の精霊達と共にボクの元に来い」
「畏まりました。元凶は生かしておけばよろしいでしょうか」
「ああ。あの子供を殺そうとしても、どうせ妖精共が邪魔をする。時間の無駄だから今は放っておけ」
人間が奇跡力を回避する事は出来ないので、アイツ等に非はない。ないのだが…………それはそれとして、人間如きがボクのアミィを傷つけ泣かせた事は許せない。
フィンが穢妖精を殺しに向かったので、
「それじゃあボクは東宮に向かうから。──お前達も、事情聴取させろ」
ユーキと、ジェジと思しき狼を抱えるシャルルギルに言い放つと、二人は静かに頷いた。
だが瞬間転移を発動しようとすると、水を差される。
「──ッユーキ! ユーキだろう!? オレがオマエを見間違える訳がない!! 答えてくれ、なあっっっ!」
金髪のエルフが身を乗り出して叫ぶ。名を呼ばれた当人は、奥歯を噛み締めて涙を堪えるように俯いた。
「アイツ、お前の知り合いなの?」
「…………違う」
「じゃあなんでそんな顔してるんだ」
「あいつは──僕の、親友なんだよ」
じゃあ知り合いじゃないか。と呟くと、
「クソッ…………シャル兄、あの女が例の人間で間違いないんだよね」
「ああ。あの女の子を見てから、皆がおかしくなってしまった」
「そう、なんだ。じゃあ──……あいつも、僕の敵だ」
ユーキは涙を拭い、意を決したように顔を上げた。
「シルフさま、早く東宮に行こう。これ以上ここにいたら……きっと僕は、親友を殺したくなるから」
「……元よりそのつもりだから、言われるまでもないけど」
何があったのかは知らないが、それもまた後で聞き出せばいいか。その場で瞬間転移を発動し、白い魔法陣が煌めく。
視界が完全に白に塗り潰される寸前、
「ユーキ!! 待ってくれ────ッ!!」
また、あの金髪のエルフが叫ぶ。男がこちらに向けて手を伸ばすが、ユーキは目を逸らして悔しげな顔でぐっと黙り込むだけ。
それと同時に瞬間転移が発動し、ボク達は東宮へと帰還した。
「カイル!」
ミシェルちゃんの悲痛な声が遠くから僅かに聞こえてくる。
「ご無事ですか、主君!! 一体何が起き──っ?!」
ボロボロの私を見て、アルベルトが血相を変える。しかし彼がミシェルちゃん達の方へと視線を向けようとした瞬間、
「何も見るな、ルティ。下手をすればお前まで奇跡の奴隷になるぞ」
「っありがとうございます、シルフ様」
アルベルトの目元にぐるぐると魔法の布が巻き付く。それと同時に姿を見せたシルフが私を見て、強く歯軋りした。
「──フリザセア。お前がついていながらなんだ、この体たらくは。アミィがどうして怪我をしている? どうして泣いている? そもそもどうしてお前がアミィと共にいる? 後でじっくり、話は聞かせてもらうぞ」
「……仰せのままに」
フリザセアさんを威圧し、彼は私を抱き上げた。
「アミィ、どうして泣いているの? ボクに理由を教えておくれ」
「ぅ……っ! 皆が、私のことを──忘れちゃった、の」
「そう。…………あのね、アミィ。それは全部妖精の仕業だよ」
「え──?」
「あの女を中心に、相当量の奇跡力が発動している。あれを喰らえば大抵の人間は狂わされてしまうだろうね」
「……じゃあ、皆は、望んで私を忘れた訳じゃ……ないの? 世界の意思でそうなったんじゃ、ないの?」
「ああ。アイツ等は全員、妖精の奇跡力で無理矢理人格を捻じ曲げられたんだ。だからアミィが気に病むことではないよ」
たとえ嘘だったとしても、その言葉がどれ程私の心に平穏を齎してくれたことか。彼等が自分の意思で私を嫌いになった訳ではないのなら──……いつか、また、今までみたいに過ごせる日が来るかもしれないから。
そう思えるだけで、私は────。
「っ、よか……った…………」
意識が朦朧とする。涙を止める余裕もないまま、私はそこで意識を失ってしまった。
♢♢
やっとの思いで見つけたアミィが怪我をし、涙を流しているのを見た時は本気で怒り狂いそうになった。
だがここで暴れてはアミィにまで被害が出てしまうからなんとか耐えた。それはさておきとにかく移動しようと、微かに痙攣する彼女を抱き上げる。
でも、我慢ならなくて。アミィがどうして泣いているのか。誰がこの子を泣かせたのか。……それを知りたくて、ボクは聞いてしまった。
『皆が、私のことを──忘れちゃった、の』
嗚咽混じりにアミィは言った。
その時、ボクは思った。『薄情な奴等だね。あんな奴等のことを君が気にかける必要なんてないよ』──そう言えば、君はアイツ等のことを見限って、博愛的なその愛情をボクにもっと分け与えてくれるんじゃないかって。
ただ一言、アイツ等を悪し様に言えばよかった。そうすればきっと……アミィの心をボクだけに向けられる。“皆”に与えられる君の愛情を“ボク”だけのものに出来る。
そう分かっていたのに。──ボクには、それが出来なかった。
『…………あのね、アミィ。それは全部妖精の仕業だよ』
悩んだ末に、ボクは正直に説明した。そうしたら、
『っ、よか……った…………』
アミィは心の底から安心したように笑い、度重なる無茶の影響か眠ってしまった。
ボクは君の笑顔を守りたい。君に、泣いて欲しくない。
大好きな君をボクだけのものにしたいのに──……かと言って、君が悲しむような真似は出来ない。君に嫌われる事を何よりも恐れる臆病者なんだ、ボクは。
「……フィン。この辺りの穢妖精を殺したら──あそこのクソボケ野郎共を一発ずつぶん殴って、他の精霊達と共にボクの元に来い」
「畏まりました。元凶は生かしておけばよろしいでしょうか」
「ああ。あの子供を殺そうとしても、どうせ妖精共が邪魔をする。時間の無駄だから今は放っておけ」
人間が奇跡力を回避する事は出来ないので、アイツ等に非はない。ないのだが…………それはそれとして、人間如きがボクのアミィを傷つけ泣かせた事は許せない。
フィンが穢妖精を殺しに向かったので、
「それじゃあボクは東宮に向かうから。──お前達も、事情聴取させろ」
ユーキと、ジェジと思しき狼を抱えるシャルルギルに言い放つと、二人は静かに頷いた。
だが瞬間転移を発動しようとすると、水を差される。
「──ッユーキ! ユーキだろう!? オレがオマエを見間違える訳がない!! 答えてくれ、なあっっっ!」
金髪のエルフが身を乗り出して叫ぶ。名を呼ばれた当人は、奥歯を噛み締めて涙を堪えるように俯いた。
「アイツ、お前の知り合いなの?」
「…………違う」
「じゃあなんでそんな顔してるんだ」
「あいつは──僕の、親友なんだよ」
じゃあ知り合いじゃないか。と呟くと、
「クソッ…………シャル兄、あの女が例の人間で間違いないんだよね」
「ああ。あの女の子を見てから、皆がおかしくなってしまった」
「そう、なんだ。じゃあ──……あいつも、僕の敵だ」
ユーキは涙を拭い、意を決したように顔を上げた。
「シルフさま、早く東宮に行こう。これ以上ここにいたら……きっと僕は、親友を殺したくなるから」
「……元よりそのつもりだから、言われるまでもないけど」
何があったのかは知らないが、それもまた後で聞き出せばいいか。その場で瞬間転移を発動し、白い魔法陣が煌めく。
視界が完全に白に塗り潰される寸前、
「ユーキ!! 待ってくれ────ッ!!」
また、あの金髪のエルフが叫ぶ。男がこちらに向けて手を伸ばすが、ユーキは目を逸らして悔しげな顔でぐっと黙り込むだけ。
それと同時に瞬間転移が発動し、ボク達は東宮へと帰還した。
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