上 下
33 / 34
3章

さんじゅ

しおりを挟む
気がついたら寝てしまっていたようだ。
ベッドサイドの灯りが頼りなく揺れる。窓の外は暗いからもう夜なのだろう。寝すぎてしまった。
朝まで寝れないかもしれない。
そうしたら暇だな。
ひとりコックリさんでもしようかな。
そう思っていると、扉が叩かれた。

「失礼します」

入ってきたのは侍女だった。
私を見ると驚いた顔をする。

「す、すみません。お休みされてるかと思って」

侍女はどうやら私が見えるらしい。
初めてまともに会話が成立した。
私の喜びはひとしおだった。

「お腹がすきました」

言うと、侍女ははっとした顔をした。手に持っていたたらいを床に置く。

「直ぐにお持ちします!!」

侍女はそのまま部屋を出ていってしまった。
話ができるって素晴らしい。
意思疎通ってやっぱり大事よね。
侍女はワゴンを押して戻ってきた。なぜかその横には少年もいる。

「元気か?」

「今起きました」

「僕はリュードにめちゃくちゃ怒られて疲れた」

少年はそんなことを言いながらベッドに座ってきた。侍女が困ったようにしながらオロオロしている。
少年が「そのままでいいよ」と言うと、侍女は困った素振りを見せながら部屋を出ていった。
ワゴンからはいい匂いがしている。
空腹がより刺激されて、ベッドから降りようとすると少年に「待って」と言われた。
見れば、少年がベッドから降りてワゴンの元に向かっていた。

「僕が食べさせてあげる」

「いや、結構です」

そこまで疲れていない。
むしろ寝すぎたせいで元気はありあまっている。そう言うと、少年はちょっと悲しそうな顔をした。
そこまで私が重病人に見えるのだろうか。
それとも、もしかきたら少年はひとに食べさせることに興味があるのかもしれない。少年だし。

お姉様も昔、よく私にご飯を食べさせようとしていた。
そのご飯はひどくまずくて何入れたらこうなるんだ、という出来だったからもしかしたらお姉様が作ったものだったのかもしれない。

まずいですと言うのは可哀想かなと思ったけど、将来お姉様が誰かに手料理を振る舞う際、同じことがあったらいけない。
まずい料理を提供してまずいと言われるのはお姉様だ。それは可哀想だ。
私は心を鬼にすることにした。
だけどまずい理由が分かってないとだめよね。何で不味くなったのかなんて私には分からない。
だから私は死霊のせいにすることにした。

「死霊のせいです」

努めて優しく言ったら、お姉様は顔を真っ青にさせてしまった。

「な、何言って」

お姉様が顔を青ざめさせたから、私がフォローしていることに気がついてしまったのかもしれない。
私は焦って言葉を続けた。

「死霊は気まぐれですから。何をするかわかりません」

「そっ……そんなの嘘ってわかるんだから!」

お姉様が叫ぶ。

どうやらよっぽど料理下手なことを気にしているらしい。私は信憑性を持たせるためにお姉様の後ろを見やった。

「お姉様、後ろにいます」
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

くだらない毎日に終止符を

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢フランチェスカ・ヴィヴィアナは既に何回目かの婚約破棄騒動に挑んでいた。この流れは既に知っているものである。なぜなら、フランチェスカは何度も婚約破棄を繰り返しているからである。フランチェスカから婚約破棄しても、王太子であるユーリスから婚約破棄をされてもこのループは止まらない。 そんな中、フランチェスカが選んだのは『婚約を継続する』というものであった。 ループから抜け出したフランチェスは代わり映えのない婚姻生活を送る。そんな中、ある日フランチェスカは拾い物をする。それは、路地裏で倒れていた金髪の少年でーーー

公爵令嬢は婚約破棄を希望する

ごろごろみかん。
恋愛
転生したのはスマホアプリの悪役令嬢! 絶対絶対断罪なんてされたくありません! なのでこの婚約、破棄させていただき…………………できない!なんで出来ないの!もしかして私を断罪したいのかしら!? 婚約破棄したい令嬢と破棄したくない王太子のじゃれつきストーリー。

婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya
恋愛
 ファントム王国の第一王子、アスロンから、夜会で婚約破棄を叫ばれたエルステーネ(隣国であるミリガン王国の第二王女)だが。 「それ、ほんとうですか!?」  喜ぶエルステーネにアスロンが慌てて問いかける。 「え、何故喜んでいるか?そりゃ、馬鹿なこの国の馬鹿な王子に婚約破棄されたら嬉しいでしょ」

王子様の呪い

ごろごろみかん。
恋愛
「お前との婚約を破棄する!!リーゼロッテ!!」 突如告げられたのは婚約破棄を告げる言葉だった。しかしリーゼロッテは動じず、むしろこの状況を喜ばしく思っていた。なぜなら彼女には、やりたいことがあったから。 *ざまぁから始まるあっさり恋愛小説です。短くおわる

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

処理中です...