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似ているふたり
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「……取れないのですか?」
「え……」
尋ねると、ファラビア王女が目を見開く。
そして、私の問いの主語が、枝に引っかかったストールだと気がついたのだろう。
控えめに頷いた。
「……はい。窓から飛ばしてしまって」
「供をひとりもつけないで行動されるのは、よくありませんわ」
「……ごめんなさい」
しょんぼりとファラビア王女は謝った。
彼女も、非のある行動だと理解していたのだろう。
だから早くストールを取って部屋に戻るつもりだったのだ。
しかし、思ったよりも高いところにストールが引っかかってしまい、取るに取れずにいた、と。
困った。
確かに、あの位置は高い。
女性では届かないだろう。
メイドたちも飛び抜けて長身のひとはいない。
私はちらりと背後を振り返った。
彼女たちはみな、渋い顔をしている。
当然だ。
私もファラビア王女も、互いにネグリジェ姿なのだから。
早く寝室に戻って欲しい、と思っているのだろう。
「……風の特性を持つひとはいる?」
彼女たちはみな、貴族の血を引いている。
程度の差はあれ、特性を所持している。
しかし、私の記憶する限り、彼女たちに風の特性をもつひとはひとりもいなかった気がする。
現に、ひとりの女性が申し訳なさそうに首を横に振った。
「申し訳ありません。…… こちらのストールは私どもがお持ちいたします。王女殿下はお部屋に」
「……そうね。ファラビア王女殿下、それでよろしいでしょうか?」
尋ねると、私とメイドの話を聞いていた彼女がふと、口を開いた。
「あの……不躾なことをお聞き、するのだけど……。シュネイリア様のお力でどうにかならないかしら……」
「……私の特性は、無効です。私の特性は、特性攻撃を全て無効化しますが、それ以外のことはできないのです」
「あ、違うの。えっと」
ファラビア王女はそこで、メイドの目を気にするようにちら、と彼女たちを見た。
彼女たちの前では言い難いことなのだろう。
そう思って数歩、近づいてファラビア王女のそばに寄ると、当たっていたのだろう。
彼女はこそっと手元に口を当てて囁くように言った。
「シュネイリア様は……二つ目の特性がおありなのよね……?それで……」
なるほど。
それで、どうにかならないか、と尋ねたのか。
私がセカンド特性を所持していることは、王家によって伏せられているが、同盟関係にあるマーセルの王族なら知っていてもおかしくはない。
しかし、ファラビア王女の様子を見るに、私のセカンド特性が何かまでは知らないようだ。
私は返答に迷いながらも、端的に事実のみを答えることにした。
「私のセカンド特性は、そんな便利なものではありません。申し訳ありませんが、私ではあのストールをとることは叶いません」
「そう……なのです、ね。セカンド特性があるのは、事実なのですね」
目を瞬く。
まるで、ファラビア王女に鎌を掛けられたようだった。
私の沈黙に、彼女もそれに気がついたのだろう。
ハッとした様子で首を横に振った。
「違うのです。そうではなくて、あの、あなたを騙すつもりではなかったのです。ほんとうに。ただ……私は、お恥ずかしいことにマーセルの王家では唯一、祈術に恵まれておらず……。父や母に、よく言われるのです。ヴィーリアの王太子の婚約者は、能力をふたつも所持しているのになぜお前はひとつも持たないのか、と」
「…………」
息を呑む。
マーセルでは、ヴィーリアと同様に不思議な力を持つものがいると聞いている。
そして、マーセルではその力を祈術、と読んでいるとも。
それがどういった力なのか、特性とは何が違うのかは、明らかにされていない。
国家間の力関係の問題にも関わってくるからだろう、と私は考えている。
ファラビア王女は、控えめに笑った。
「だから、気になっていたのです。特別な能力をふたつも持っている、ご令嬢。……私とはきっと、何もかもが違うのだろう、と」
「それは──」
思わず、口を開いたところで。
耳に馴染んだ、柔らかな声が聞こえた。
「シュネイリア」
「……!」
驚いて、背後を振り向く。
ファラビア王女も、同様に私との会話に集中し気がついていなかったのだろう。
私たちの視線の先には、私がついさっき──昨晩まで共にいたひとが立っていた。
「……リュアンダル、殿下」
「え……」
尋ねると、ファラビア王女が目を見開く。
そして、私の問いの主語が、枝に引っかかったストールだと気がついたのだろう。
控えめに頷いた。
「……はい。窓から飛ばしてしまって」
「供をひとりもつけないで行動されるのは、よくありませんわ」
「……ごめんなさい」
しょんぼりとファラビア王女は謝った。
彼女も、非のある行動だと理解していたのだろう。
だから早くストールを取って部屋に戻るつもりだったのだ。
しかし、思ったよりも高いところにストールが引っかかってしまい、取るに取れずにいた、と。
困った。
確かに、あの位置は高い。
女性では届かないだろう。
メイドたちも飛び抜けて長身のひとはいない。
私はちらりと背後を振り返った。
彼女たちはみな、渋い顔をしている。
当然だ。
私もファラビア王女も、互いにネグリジェ姿なのだから。
早く寝室に戻って欲しい、と思っているのだろう。
「……風の特性を持つひとはいる?」
彼女たちはみな、貴族の血を引いている。
程度の差はあれ、特性を所持している。
しかし、私の記憶する限り、彼女たちに風の特性をもつひとはひとりもいなかった気がする。
現に、ひとりの女性が申し訳なさそうに首を横に振った。
「申し訳ありません。…… こちらのストールは私どもがお持ちいたします。王女殿下はお部屋に」
「……そうね。ファラビア王女殿下、それでよろしいでしょうか?」
尋ねると、私とメイドの話を聞いていた彼女がふと、口を開いた。
「あの……不躾なことをお聞き、するのだけど……。シュネイリア様のお力でどうにかならないかしら……」
「……私の特性は、無効です。私の特性は、特性攻撃を全て無効化しますが、それ以外のことはできないのです」
「あ、違うの。えっと」
ファラビア王女はそこで、メイドの目を気にするようにちら、と彼女たちを見た。
彼女たちの前では言い難いことなのだろう。
そう思って数歩、近づいてファラビア王女のそばに寄ると、当たっていたのだろう。
彼女はこそっと手元に口を当てて囁くように言った。
「シュネイリア様は……二つ目の特性がおありなのよね……?それで……」
なるほど。
それで、どうにかならないか、と尋ねたのか。
私がセカンド特性を所持していることは、王家によって伏せられているが、同盟関係にあるマーセルの王族なら知っていてもおかしくはない。
しかし、ファラビア王女の様子を見るに、私のセカンド特性が何かまでは知らないようだ。
私は返答に迷いながらも、端的に事実のみを答えることにした。
「私のセカンド特性は、そんな便利なものではありません。申し訳ありませんが、私ではあのストールをとることは叶いません」
「そう……なのです、ね。セカンド特性があるのは、事実なのですね」
目を瞬く。
まるで、ファラビア王女に鎌を掛けられたようだった。
私の沈黙に、彼女もそれに気がついたのだろう。
ハッとした様子で首を横に振った。
「違うのです。そうではなくて、あの、あなたを騙すつもりではなかったのです。ほんとうに。ただ……私は、お恥ずかしいことにマーセルの王家では唯一、祈術に恵まれておらず……。父や母に、よく言われるのです。ヴィーリアの王太子の婚約者は、能力をふたつも所持しているのになぜお前はひとつも持たないのか、と」
「…………」
息を呑む。
マーセルでは、ヴィーリアと同様に不思議な力を持つものがいると聞いている。
そして、マーセルではその力を祈術、と読んでいるとも。
それがどういった力なのか、特性とは何が違うのかは、明らかにされていない。
国家間の力関係の問題にも関わってくるからだろう、と私は考えている。
ファラビア王女は、控えめに笑った。
「だから、気になっていたのです。特別な能力をふたつも持っている、ご令嬢。……私とはきっと、何もかもが違うのだろう、と」
「それは──」
思わず、口を開いたところで。
耳に馴染んだ、柔らかな声が聞こえた。
「シュネイリア」
「……!」
驚いて、背後を振り向く。
ファラビア王女も、同様に私との会話に集中し気がついていなかったのだろう。
私たちの視線の先には、私がついさっき──昨晩まで共にいたひとが立っていた。
「……リュアンダル、殿下」
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