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対象外の婚約者 ※R18
しおりを挟む「……いたずらしてる?」
彼が困ったように、からかうように私に言った。
その瞳は、優しい色を宿していた。
(よかった……)
その瞳の優しさに、穏やかに、あたたかさに、安堵する。
ああ、いつもの、リュアンダル殿下だ、と。
しかし、そう思ったのも束の間、彼が責めるような視線を私に寄越した。
指が、引き抜かれる。
ちゅぽ、と場にそぐわない、可愛らしい音が鳴る。
「痛かったら、噛んでいい」
リュアンダル殿下の指が横向きに、くちびるへ当てられた。指をくわえさせて、彼はほんの少し、満足そうに笑った。
「……ほんとうは、結婚するまで待つつもりだったんだ。未成熟なこの身体に、手を出すつもりはなかった」
懺悔するような、悔いるような声だった。
彼の指が、私のお腹の上に触れる。
まるで、なにか意図を孕んだような触れ方。
私は彼の瞳をじっと見る。
彼の指を咥えていて話せないから、代わりに見つめる。リュアンダル殿下が、私の視線に気がついて苦く笑った。
「きみはまだまだ子供だよ。見た目は大人びていても……歳の割に落ち着いても、僕にとってきみは、まだちいさな女の子のままだ」
「…………」
その声は、熱に浮かれていても残酷に響いた。
彼の声が、言葉が、冷たく、氷のように感じた。
彼にとって私は、【女性】ではなく、年下の少女に過ぎないと、そう言われているようで。
私のことは、恋愛対象として見れないと、そう、言われているようで。
三個という年齢差は、そんなにも大きいものなの。
十八歳と、十五歳。
周りのひとたちは、もっと年齢に開きのある婚約をすることだってある。
それを思えば、私と彼の年齢差はじゅうぶん許容範囲内で、指摘されるほどのものではない。
そう、思っていた。
でも、違うのだろうか。
彼にとって私は、【女】として見れない、妹のようなものなのか。
じわり、じわり。
泉が湧くように、涙が滲む。
こんこんと湧き上がる泉のように、止めることは出来なかった。
「僕が……僕だけが、知っている。きみは、まだ十五歳の、女の子だ。……こんな無茶、する必要はなかった」
ひどいひとだ。
あなたは、ひどいひと。
こうして、今になって私を否定する。
ここで拒絶されたら、私はどうしたらいいの。
苦しい。
苦しいの。
水の中に沈んだかのように、上手く息ができない。
ぽろぽろと、とめどなく涙がこぼれる。
あんなに泣いたのに、まだ涙は出てくるのか。そんなことをふと、考えた。
彼が、困ったように笑ったあと──ふ、と穏やかな笑みを乗せた。
それは確かに優しいのに。
私が求めているのはきっと、それではない。
「……ごめんね、シュネイリア」
彼がつぶやいた。
その言葉の意図が、私には分からない。
わからなくてもいいと思った。
だって、知ればまた私は傷つくのでしょう。
もう、辛い思いはしたくない。
だから意図して私は、その意味を探らなかった。
太ももに、熱いなにかが触れた。
しっとりとしていて、滑らかで、粘ついた液が肌をなぞる。
見なくてもわかる。
きっとそれが、彼の性器なのだろう。
性的知識に乏しくとも、男のものを受け入れることで性行為が成されることくらいは、私も知っている。
急に、どきどきしてきた。
いやらしいことをして、性的な触れ合いを繰り返して、今更だとは思うが。
今になって、急に実感が湧いた。
今から私は、彼と性行為を行うのだ。
彼のものを受け入れて、破瓜する。
未婚の身のまま、私は処女を失うのだ。
彼の陰茎は、得体の知れない恐怖と、この先を望む期待感をもたらした。
そして、この行為が愛に溢れたものでないことを知っているから、虚しさに襲われる。
「……くだ、ひゃい」
彼の指を舌で押しやるようにして、なんとかつぶやいた。
それはちいさな声になったが、リュアンダル殿下には聞こえただろう。
恥ずかしさのあまり見ていられなくて、まつ毛を伏せる。
羞恥に焦がされて、今にも死んでしまいそうだったけど、私が自らの意思で受け入れているのだと、彼に知って欲しかった。
これは、非合意の冷たい行為ではないと、ほんの少しでも思いたかった。
互いに想い合う、愛に溢れたものなのだと、錯覚したかった。
私が乞うと、リュアンダル殿下がぐっと腰を押し付けた。
まるい先端があてられる。
あ、と思った。
「っ……ゆっくり、するから」
彼の指がくちびるに押し当てられる。
彼は宣言通り、ゆっくり、じっくりと腰を推し進めた。
初めては痛みを伴うものだと聞いていた。
だから私も、その衝撃に耐えようと思っていたのだけど──媚薬の効果か、さんざん快楽を貪ったためか。強い痛みは全くなく、むしろ疼くような快楽を運んでくる始末だった。
どうしよう。声が、ひっきりなしにあがる。
「んっ、ぁっ……あ、ああ!あっ……!あ……!!」
彼の指を食んだまま、私は乱れた。
高い声が、止まらない。
彼の剛直がなかを擦る度、なかを穿つ度に気持ち良くて、思考が飛びそうになる。
意識を失ってしまいそうな、暴力的な快楽だった。知らずのうちに、リュアンダル殿下の指に歯を立てていた。
彼が、眉を寄せる。
苦しげに息を吐き、私の顔を覗き込んだ。
「……大丈夫そう、だね」
そう言うあなたの方が、大丈夫ではなさそうだ。
私は涙で歪む視界の中、彼を見た。
リュアンダル殿下は、はぁ、と熱い息を吐くと、そのまま腰を押し進める。
奥を穿たれた感覚があって、奥を突かれた気がして、視界がちかちかと明滅した。
「や、ぁ、んんん──ッ……!」
「は、ぅっ……シュネ、イリア」
彼が、私の名を呼ぶ。
もう、だめだ。
これは、だめだ。
これは、知ってはいけない快楽なのではないだろうか。こんなの知ったら、頭がばかになる。
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