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一章◆アメリア・バーチェリー
私はお姉様にはなれません
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アーロン様に手招きをされて、のろのろと店内に踏み入りました。
店内は落ち着いた雰囲気で、私たち以外にお客さんはいません。
アーロン様はそのまま、奥の階段に歩いていってしまいました。困惑していると、カウンター奥の店主が私を見て、苦笑します。
「きみが、あいつの婚約者?はー。ずいぶんと雰囲気が……。ま、いいや。アーロンになにか変なことをされそうになったら、ぶん殴って大声をあげるんだよ」
「は、はい。お心遣い、ありがとうござます」
店主は、若い青年でした。
彼の言葉のほとんどはよく分かりませんでしたが、私を気遣ってくれているのだろうということだけは理解しました。
アーロン様は先に行ってしまったので、いそいでそのあとを追います。
二階は、まるで宿場のようになっていて個室がたくさんあります。このうちのどこかの部屋に、アーロン様は入ったのでしょう。
どうしよう。置いていかれてしまったわ……。
私がノロノロちんたらしていたからでしょうか。
ひとりになってしまい心細くなっていると、扉がノックされました。続いて、僅かに扉が開きます。
アーロン様でした。それにホッとしたのも束の間、イライラした様子で彼が言いました。
「早くして。相変わらず、アメリアはのろいね」
「ごめんなさい……!」
私は小走りでそちらに向かうと、アーロン様のいる部屋に入りました。
ちいさなテーブルと椅子が二脚。窓側を向いたソファに、窓は大きくくり抜かれて、王都の大通りの街並みを一望できるようです。
ちいさな部屋ですが、バランスよく画角が設置されており、何よりおおきな窓に向かい合うようなソファが素敵だと思いました。
「……ここに、お姉様と?」
尋ねると、アーロン様は一瞬その動きを止めましたが、そのままジャケットを脱ぎます。
「だから、何?きみも来たかった?」
相変わらず、彼の声はツンツンしております。
きっと、私に触れられたくない部分なのでしょう。
私は、窓辺にたちながら彼を振り返りました。
「……アーロン様。アーロン様の好きなひとは、お姉様ですか?」
まだ、料理も運ばれてきていません。
ですが、私は話は早くに終わらせた方がいいと判断しました。
何より、ここのお店。とても素敵なのですが、初めて来たからか居心地が悪いのです。
アーロン様は、椅子に座り、長い足をすらりと組みました。腕を組み、挑むように私を見ています。
「僕が結婚するのは、きみだよ。アメリア」
「聞いてしまいました。お姉様と、あなたのお話を。私と婚約を解消したいのでしょう?」
「…………何の話?」
彼は、誤魔化すようでした。
戸惑いました。
なぜ、彼ははぐらかそうとするのでしょう。あんなに、お姉様を愛している、と言っていたのに。
私は、窓のカーテンの袖を握りながら、彼に言います。
「あなたが好きなのはお姉様で、お姉様もまたあなたを愛していると、そう言っていました。私は邪魔なのでしょう?」
「知らないな。何の話をしているの」
「どうして嘘をつくんですか?先日、サロンであなたたちは抱き合っていた!」
つい、声を荒らげてしまいます。
私が大声を出したことによっぽど驚いたのか、アーロン様は目を見張りました。
私もまた、声を張り上げることに慣れていなくて、心臓がバクバクと音を立てました。
「お姉様が好きなら、婚約は解消しましょう。今日はそれを言いに来たんです」
「なんだと?」
「私は、お姉さまにはなれません」
手を強く握って、アーロン様に言います。
彼は、射抜くように私を見つめ──いや、睨んでいました。
その眼差しに、怯みそうになりました。
だけど、ここで臆してはならないのだと思います。
私は、震えそうになる体をむりやり押さえ込み、アーロン様をぐっと睨みつけました。
彼は、そんな私の様子にたじろいだようでした。
「あなたが望んでいるのは、お姉様でしょう?私は、お姉様にはなれない!華やかな顔立ちも、高い身長も、豊かな体も、私は持っていません」
「そんなことは……」
歯切れ悪く、彼が言います。
身に覚えがないとは言わせません。
今まで、彼は何度も私に言ってきたのですから。
「お父様にお願いして、この婚約は解消していただきます」
「待ちなさい。すぐ思い込んで行動するのは、きみの悪いところだ」
部屋を出たいのだけど、アーロン様が扉の近くにいて出られません。
やっぱり、馴染み深いお菓子屋さんにすればよかった、と後悔しました。
お菓子屋さんにも個室はあるし、何より、侍女が同席してくれます。
どうしてここには、一緒に来てくれないのでしょう。
アーロン様とふたりきりのこの状況は、不安感を煽りました。
「お姉様を愛しているのでは無いのですか?」
「きみはアンリエッタに妬いているの?」
「そうではなくて……!どうして話を逸らすのですか!」
「そんなに声を荒らげるきみを、僕は初めて見た。そんなに僕が好き?」
「いい加減にして!帰ります!」
話になりません。
そう思って、私は扉に向かいます。
だけどとうぜん──その近くに座る彼に腕を掴まれてしまいました。
店内は落ち着いた雰囲気で、私たち以外にお客さんはいません。
アーロン様はそのまま、奥の階段に歩いていってしまいました。困惑していると、カウンター奥の店主が私を見て、苦笑します。
「きみが、あいつの婚約者?はー。ずいぶんと雰囲気が……。ま、いいや。アーロンになにか変なことをされそうになったら、ぶん殴って大声をあげるんだよ」
「は、はい。お心遣い、ありがとうござます」
店主は、若い青年でした。
彼の言葉のほとんどはよく分かりませんでしたが、私を気遣ってくれているのだろうということだけは理解しました。
アーロン様は先に行ってしまったので、いそいでそのあとを追います。
二階は、まるで宿場のようになっていて個室がたくさんあります。このうちのどこかの部屋に、アーロン様は入ったのでしょう。
どうしよう。置いていかれてしまったわ……。
私がノロノロちんたらしていたからでしょうか。
ひとりになってしまい心細くなっていると、扉がノックされました。続いて、僅かに扉が開きます。
アーロン様でした。それにホッとしたのも束の間、イライラした様子で彼が言いました。
「早くして。相変わらず、アメリアはのろいね」
「ごめんなさい……!」
私は小走りでそちらに向かうと、アーロン様のいる部屋に入りました。
ちいさなテーブルと椅子が二脚。窓側を向いたソファに、窓は大きくくり抜かれて、王都の大通りの街並みを一望できるようです。
ちいさな部屋ですが、バランスよく画角が設置されており、何よりおおきな窓に向かい合うようなソファが素敵だと思いました。
「……ここに、お姉様と?」
尋ねると、アーロン様は一瞬その動きを止めましたが、そのままジャケットを脱ぎます。
「だから、何?きみも来たかった?」
相変わらず、彼の声はツンツンしております。
きっと、私に触れられたくない部分なのでしょう。
私は、窓辺にたちながら彼を振り返りました。
「……アーロン様。アーロン様の好きなひとは、お姉様ですか?」
まだ、料理も運ばれてきていません。
ですが、私は話は早くに終わらせた方がいいと判断しました。
何より、ここのお店。とても素敵なのですが、初めて来たからか居心地が悪いのです。
アーロン様は、椅子に座り、長い足をすらりと組みました。腕を組み、挑むように私を見ています。
「僕が結婚するのは、きみだよ。アメリア」
「聞いてしまいました。お姉様と、あなたのお話を。私と婚約を解消したいのでしょう?」
「…………何の話?」
彼は、誤魔化すようでした。
戸惑いました。
なぜ、彼ははぐらかそうとするのでしょう。あんなに、お姉様を愛している、と言っていたのに。
私は、窓のカーテンの袖を握りながら、彼に言います。
「あなたが好きなのはお姉様で、お姉様もまたあなたを愛していると、そう言っていました。私は邪魔なのでしょう?」
「知らないな。何の話をしているの」
「どうして嘘をつくんですか?先日、サロンであなたたちは抱き合っていた!」
つい、声を荒らげてしまいます。
私が大声を出したことによっぽど驚いたのか、アーロン様は目を見張りました。
私もまた、声を張り上げることに慣れていなくて、心臓がバクバクと音を立てました。
「お姉様が好きなら、婚約は解消しましょう。今日はそれを言いに来たんです」
「なんだと?」
「私は、お姉さまにはなれません」
手を強く握って、アーロン様に言います。
彼は、射抜くように私を見つめ──いや、睨んでいました。
その眼差しに、怯みそうになりました。
だけど、ここで臆してはならないのだと思います。
私は、震えそうになる体をむりやり押さえ込み、アーロン様をぐっと睨みつけました。
彼は、そんな私の様子にたじろいだようでした。
「あなたが望んでいるのは、お姉様でしょう?私は、お姉様にはなれない!華やかな顔立ちも、高い身長も、豊かな体も、私は持っていません」
「そんなことは……」
歯切れ悪く、彼が言います。
身に覚えがないとは言わせません。
今まで、彼は何度も私に言ってきたのですから。
「お父様にお願いして、この婚約は解消していただきます」
「待ちなさい。すぐ思い込んで行動するのは、きみの悪いところだ」
部屋を出たいのだけど、アーロン様が扉の近くにいて出られません。
やっぱり、馴染み深いお菓子屋さんにすればよかった、と後悔しました。
お菓子屋さんにも個室はあるし、何より、侍女が同席してくれます。
どうしてここには、一緒に来てくれないのでしょう。
アーロン様とふたりきりのこの状況は、不安感を煽りました。
「お姉様を愛しているのでは無いのですか?」
「きみはアンリエッタに妬いているの?」
「そうではなくて……!どうして話を逸らすのですか!」
「そんなに声を荒らげるきみを、僕は初めて見た。そんなに僕が好き?」
「いい加減にして!帰ります!」
話になりません。
そう思って、私は扉に向かいます。
だけどとうぜん──その近くに座る彼に腕を掴まれてしまいました。
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