王妃の鑑

ごろごろみかん。

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時めぐる(4)

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「嘘です!」

「え、」

私はソファを立ち上がると殿下の前まで歩いた。扉が開かれたのがわかる。でも、ここで帰る気は毛頭なかった。いつも、萎縮して、いつも、怯えていた。あの時のあなたが怖かったから。冷たい目が、冷酷な瞳が。その度に私を貫き、殺した。私の心を殺し、嬲り、あなたは笑いものにした。私はそれを許したくない。許せない。あなたが私にしたことは、絶対に忘れたくない。
でもーーー。きっと、それだけじゃダメなのだと思う。私が前に進むには、これを乗り切るには。きっと、向き合わなければならないこと。

「殿下は、私を信じていません」

はっきりと言う。身長差のせいで見上げられる形になった殿下は、目に見えて困惑していた。前回の人生ではもちろん。今生だって、私が彼にこうして反論したことは無かった。

「えーと………殿下、どういたしましょう」

後ろで女剣士………フィフが困惑した声を出す。殿下はそちらにちらりと視線を寄せた。私は構わず、殿下の服を引っ張る。そして、至近距離から彼を見つめた。

「あなたは、十年間共に居たわたくしとよりも、どこの誰だか存じ上げませんがーーーわたくしよりも、その者を信じるとおっしゃいますの」

「………ネア」

お母様が不貞をおかしていた。それはきっと、ものすごいショックだろう。きっと私には測りえない衝撃だったに違いない。でも、だからってどうしてそれが私を疑う理由になる。
今まで十年間、一緒にいた。その時間はなんだったの。殿下は、私を信じていないの。そんな嘘っぱちの報告より、私を信じると言い切ってくれない方がショックだった。それと同時に、裏切られたようにも感じた。
感情が嵐のように巻き起こる。以前ーーー、殿下と婚姻した夜。

ーーー僕はお前を愛していない

そう、言われた時は絶望しか抱かなかった。
信じられなかった。でも今。今は明確なショックとーーー、そして、怒りを覚えていた。理不尽だと思った。
私は殿下のきれいな顔を見ながら、笑って告げた。

「はは………。わたくしより、その方を信じられるというのなら………どうです?いっそ、その方とご結婚なさったら」

「!」

「ネアっ……!」
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