王妃の鑑

ごろごろみかん。

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城下(5)

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(仕方ない、かぁ………。夕方までには御屋敷に帰らなければならないのに………)

リリアベルは、正直、ネアモネの現状に不満を抱いていた。姉と妹で差別する両親。ネアモネの両親こそリリアベルの仕える相手だが、幼少期からネアモネに仕えていたリリアベルとしては、思うところがある。というより、二心を抱かずにはいられない。
どうして、ああもネアモネと彼女の姉を差別化するのだろう。確かにネアモネの姉はよくできた女性だった。だけど、我が強く、気も強い。他国の王子に嫁いではいったものの、他国でもうまくやっていけるとは思わなかった。

(それに比べて、ネアモネ様は消極的なお方……)

消極的とは、よくいえば、の話だ。
悪くいえば流されやすい。
実際のところネアモネには意志というものがないのではないかとリリアベルは思っていた。意思表示もあまりしない方だし、何か強く意見したことも無い。水のように、流れるままに。言われるままに、生きている。それがリリアベルから見たネアモネの人物像だった。

「訳あり………そう。そうね。消したい過去があった場合、どうしたらいいの?その、時の魔女さんにお話を聞いてもらって、何かできるの?」

だからこそ、今のように強くなにかに興味を示すネアモネは意外だった。いや、初めて見たかもしれない。

それより、消したい過去?
リリアベルは内心眉をひそめた。長くネアモネといるが、彼女が後ろめたく思う過去など、リリアベルは知らない。

「あっはっは!いいねぇ、そういうの、いいよ!」

女性が豪快に笑う。ネアモネは藁にもすがる思いだった。なぜ、自分が過去に戻ったのか。過去に戻ったことに、その『時の魔女』とやらは関係しているのかーーー。何か、手がかりがあるのなら知りたい。今度こそ自分が、自分のための人生を歩むために。ネアモネは意を決して女性を見る。
女性は酒を一気に煽ると、ネアモネを見た。長いロングヘアがゆらりと揺れる。

「あたしはネイヴァー!いいとこのお嬢ちゃん。教えてあげよう、その『時の魔女』というのはヨエンの谷底にいるらしい。とても冷たく、とても寒いんだとよ」

「実際魔女にあったって話も、どこの誰が言い出したのか知らないしなぁ。ただの噂話だよ」
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