王妃の鑑

ごろごろみかん。

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覆る /アルフェイン

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「私、自分の名前嫌いなの」

それから日を経てーーー
僕とネアモネは急激に仲良くなった。仲良くなった、というのももちろん上辺だけの関係だけれど。
ネアモネは毎日のように僕の執務室に通ってくる。それをさすがに煩わしく思っていたが邪険には扱わずそれなりに相手をしていたらますますネアモネは僕に夢中になった。真っ青な水晶玉のような瞳いっぱいに僕を映す。
その瞳が暗く穢れるところが見て見たい。絶望に瞳を濁した彼女はさぞーーー

「アル様?」

「うん?何?ネアモネ嬢」

ネアモネは僕のことをアル様と呼ぶようになった。アルと呼んでいいよ、と許可を出したところ彼女はしっかり敬称をつけて呼んできたのだ。てっきり飛びつくようにアルと呼ぶだろうと思っていた僕は少しだけ驚いた。
ネアモネは言葉を続ける。

「………アネモネは血の花なの。だからわたくし………」

「自分の名前が嫌い?」

聞くと、ネアモネはこくりと頷いた。神話から生まれたとされる花、アネモネ。ネアモネの名前はアネモネから取っているのだろう。
俯いたネアモネの頭にそっと手を乗せる。小さな丸い頭はとても頼りない。

「ネアモネ。きみは知っている?アネモネの花言葉を」

「花言葉………?」

「きみの言う血のような赤いアネモネの花言葉はね“君を愛す”なんだ。随分情熱的だと思わない?」

「君を………愛す………」

「だからね、ネアモネ。自分の名前を嫌いだなんて言わないで。僕は君の名前好きだよ」

「アル様………」

ぽっと頬を染めてうっとりするネアモネを見ながら薄く笑う。あまりにも簡単すぎる。こんな言葉の羅列で僕に夢中になるとはいいご令嬢だ。
純真で、無垢で、何も知らないネアモネ。そんなきみが僕は厭わしい。

赤いアネモネの花言葉は“君を愛す”。
だけどアネモネ全般の花言葉には“清純無垢”、“無邪気”といった意味もある。彼女にはぴったりの花言葉だ。だから、ネアモネ。
きみにその名前はふさわしい。

八歳の誕生日にはアネモネの花束を送った。彼女はとても喜んでいた。

彼女が十歳になった頃、彼女の姉だという少女が僕に声をかけてきた。偶然登城していたらしい。
名前はダリア。またしても花の名前だ。ハッセーヌ公爵は花が好きなのだろうか。
彼女は淑女然とした態度で僕に察してきた。
そして言う。
『このドレス、ネアモネには似合わないって言われたのだけれど、そんなに合わないでしょうか………?』
悲しんだように顔を伏せるダリア。
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