王妃の鑑

ごろごろみかん。

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幸せとは /アルフェイン

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「お初にお目にかかります、ネアモネ・ハッセーヌと申します」

まだまだ拙い声で、だけど教えこまれたであろう言葉を懸命に話す彼女は僕の婚約者だと言う。突然父上にもたらされた婚約話に正直、困惑しなかった訳では無い。
だけど僕は生まれながらの王太子として、その責務がある。ならばこれも受け入れるべきなのだろう。
僕は幼い頃、かなり無感情な子供だった。容姿が女性受けするということは幼い頃からなんとなく気づいてもいた。だけどそれがプラスに動くかと言うと、そうでも無い。
優男のような見た目は相手に舐められやすく、威厳に欠けやすい。令嬢や夫人から『絵本の王子様みたい』と言われるのは難しい年頃であったこの時、僕にとっては禁句だった。

五歳の頃、僕を亡き者にしようとしてスープに毒を混ぜられた。それを飲んだ僕の毒見係が死に、僕は生きながらえた。毒見係には家族がいた。その家族は毒見係の死を酷く悼み、長年苦しんだ。
それを見て、僕は罪悪感に囚われた。僕の代わりに人が死んだ。それは五歳の僕にとっては耐えきれない重圧で、それに苦しんでいた僕を見て王妃であった母が言った。

『あなたは王太子なのだから、人の屍の上にあなたの立場があることを自覚しなさい』

幼い子供には厳しすぎる言葉に、僕は反抗した。そんな立場、いらない。人の苦しみの上に、犠牲の上に成り立つ権力なんか、立場なんかいらない。
ますます塞ぎ込んだ僕を母は心配していた。だけど、僕はひねくれた思いを抱きながらそのまま成長した。六歳になり、毒殺の危険性を考えられた僕は毒の耐性を付けさせられることになった。毒薬を一定期間投与され続け、地獄のような苦しみを味わった。
だけどそのおかげで僕は毒の匂いに詳しくなり、そして軽度の毒では反応しなくなった。七歳の時だった。
毒では殺せないと知った反対勢力の貴族が放った刺客が僕を狙った。まだ幼かった僕は護衛に守られるしかなかった。
だけどある日、護衛の隙をついて僕は狙われた。剣が振りかぶられ、それを呆然と見る。そのまま突っ立っていたら恐らく僕は死んでいただろう。だけどそれを横から誰かに突き飛ばされ、見れば母が血に濡れていた。
………どうして?
どうして、僕をかばったの。

母は剣を持ったこともなければ魔力値も低い。体も元々弱かったという。
母に比べたらまだ僕の方が魔力に秀でていただろう。そう、授業で習っていたように魔力を暴発させれば刺客なんて払いのけられたはずなのに。僕は僕よりも弱く、本来であれば守られるべき人に庇われた。
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