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王城の庭にて
しおりを挟むシェリアにお願いしたのは娼館の調査だった。別にそんながっつり調べる訳では無い。ただ、シェリアの知り合いにそういったことに詳しい、もしくは関係している人を知らないかと聞いただけ。
聞くとシェリアは知り合いに娼婦はいないが役者ならいる、と答えた。そして、彼女なら顔も広いし何か知ってるかもしれない、と。
私は、シェリアに『お金に困っている娼婦』がいないか探してもらうよう頼んだ。
あまり綺麗な手口とは言えないだろう。結局のところ、人間が信じられるのは目に見えるもの。例えば、お金を使った恩義、とか。
私は、お金に困る娼婦の女性に援助する。
出来ればお金を払うことで解決する事柄が大きければ大きいほどいい。
そうすればそれだけその女性は私に恩を感じるだろうし、裏切ることもないだろう。とはいえ、金片手に言うことを聞けと言う気もない。むしろそんなので人は従わない。人を従わせるのに必要なのは感情の操作。私が信じるのはお金の力。
使えるものはなんでも使う。だって、そうしないと死んでしまうのは私だ。時間が無い。使える手はなんだって使う。それが例え、綺麗とは言い難いことでも。
「セイリーンの館のミィナね………彼女が例の女性なのね?」
誰が聞いてるかも分からない。私はあえて濁しながらシェリアに聞いた。シェリアは私のそばで神妙な顔をしながら答えた。
「はい。何でもご両親の借金の肩代わりにそういう生業をしているらしく………だけどそれではとても賄えないから、妹も、という話が出ているらしくて」
「なるほどね。それはちょうどいいわ」
都合のいい、と言ってもいい。
ミィナにとっては絶望的な話かもしれないがタイミングが良かった。
必要な金額をシェリアに聞くと、私は今後の予定を脳裏に描き始める。
「夜、そちらに向かうわ。私は登城するから」
「登城………でございますか?」
「ええ。私は良き妻でいるために、確かめなければならないことがあるの。旦那様のことも知りたいしね」
「………承知いたしました。では、お出かけのご準備を整えさせていただきます」
「ありがとう、シェリア。あなただけが私を理解してくれるわ」
言うと、シェリアは苦笑した。少し切ない笑みだった。
既に陽は傾き始めている。今からむかえば夕方までには城に入れるかどうか、というところだろう。圧倒的に時間が無い。
私は、シェリアに支度をしてもらうと早速城へと向かった。
***
向かうは魔術塔。
狙いはウィリアムの血の繋がらない弟だというルアヴィスだ。彼は使いようによっては手強い手札になるかもしれない。
貴族図鑑を見る限りでは彼は一級魔術師の資格を持っていた。つまり彼は魔術塔に所属する人間である。魔術塔を管理する聖術協会は王政とはまた別のところにある。
つまり王族の力が唯一及びにくい、不可侵の場所ということ。それもあって王太子は王族は魔術塔に属する人間を快く思っていないのだろう。
ウィリアムがダメとなれば違う方向から攻めるのみ。
ちなみに、シェリアには王城のすぐ側の庭で待っていてもらっている。そこから先が魔術塔への道になる。誰か人が来ればすぐ教えてもらうよう伝えてあるのだ。
私は、白と薄紫のグラデーションが美しいドレスに身を包むと、優雅な足取りでそちらへと歩いた。そも、散歩していたら迷い込んでしまったとでも言うように。
しかし王城の地図は先程の侍女たちとのお茶会中しっかりと頭に叩き込んでいる。死角になりがちな場所は全て把握しているのだ。その甲斐あってか、私は誰にも声をかけられずに魔術塔の近くまで行くことが出来た。
しかしーーー
ーーードンッ!
「きゃあっ!」
曲がり角を曲がると、突然何かと酷い衝突を起こした。思わずたたらを踏むと、しかしその前に息を飲んだ。
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