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二章:賢者食い

国境封鎖

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それから一日半を徒歩で歩き、やっと辿り着いた街、セドア。
テオから拝借した地図を借り、確認するとウェルランの森からは五十キロメートルほど離れていた。テオが【辺鄙な森】と話していたのも納得だ。
セドアの街に到着すると、私たちはひとまず本日の宿を確保するために宿屋へと向かった。この近辺で大きな街はここしかないからか、宿屋も複数あり、どこも繁盛しているようだ。
そのうち一階は食事処、二階は宿屋という形態を取っているひとつの店に私たちは入った。
何はともかく、宿である。
宿の受付にテオとファーレと向かうと、カウンターの中の女性がぱっと顔を上げた。

「いらっしゃいませ!泊まりですね?」

「二日泊まりたいんだけど、部屋は空いてる?」

慣れた様子でテオが尋ねる。
受付の女性は、驚いたようにテオを見つめている。観察するような女性の視線を不思議に思ったが、すぐにその理由に気がついた。

(テオの瞳が珍しいんだわ)

なるほどなー、と思う。
私も、テオに会うまで瞳孔の細い──まるで猫のような瞳を持つひとがいるとは思ってもみなかったのだ。
さすがファンタジー、テオのようなひともいるのね……とひとり納得していたが、もしかして、というか。やはりというか。アーロアでは珍しいのかしら?私が世間知らずだから知らなかった、とかじゃなくてそもそもアーロアでは稀なのかもしれない。
テオはアルヴェールの出のようだし、アルヴェールでは珍しくはないのかしら……。

そんなことを考えていると、女性がハッと我に返ったようにカクカクと頷いた。

「は、はい!空いてますよ!」

そしてパッとテオの背後の私たちを見て──フードを被って顔の見えないファーレに顔をひきつらせた。いかにも、な怪しい人間を前にしたら誰だってこうなるだろう。
しかしファーレは暗部の人間としてあまり顔を見られるとまずいようなので、仕方ない。誤魔化すように愛想笑いを浮かべておく。

お姉さんは私と視線が合うと、困惑した様子を見せた。怪しいローブ姿の男に、アーロアでは珍しい猫目の男、そして、そのふたりと共に行動する、どこからどう見てもふつうの少女である私。
……奇妙な三人連れである。

お姉さんは数秒を間を開けてにっこりと笑った。

「三名様ですね!」

お姉さんのプロ根性を見た気がした。
切り替えが早い!こういうひとが仕事のできるひと、というのだろう。
そして、ファーレの見るからに怪しいローブはどうにかしよう、と私は強く思った。私は追われている身である。それなのにこんなに目立っていてはそのうち遅かれ早かれ捕まってしまう。

(顔を見せたくないなら……変装とかどうかしら……)

お化粧ならある程度は顔貌を変えられるし、とちらりとファーレを見た。ファーレは痩身だし、見た目も中性的だし、髪も長いのでお化粧を施せば女性……と言えそうな気がする。
本人は嫌がりそうだけど、少なくとも目立つローブ姿よりはましなはず。
その時、お姉さんのとんでもない発言が聞こえてきて私は耳を疑った。

「……えっ!?」

驚いて彼女を見ると、数多くお客さんを接客して慣れているのだろう。女性はにこにこと笑いながら続けた。

「ですから、部屋の数が足らないんですよー。国境が封鎖されるみたいで、お客さんの出入りが激しくって……。今空いてるのは二部屋なんですけど、そのうちの一部屋はすごく狭くて……急ごしらえの部屋なんです。だから」

「ちょっ……ちょっと待ってください!国境が封鎖……?アーロアのですか?」

お姉さんは、頷いた。
そして、カウンター内の机上に置いてある紙束を手に取り、紙面に視線を走らせた。

「そうなんですよ。それで慌ててチェックアウトするお客様と、しばらく滞在するお客様とで大忙しで……。話に聞くと、あと二日ほどで国境封鎖されると聞きましたよ?」
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