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二章:賢者食い

笛使い:テオ

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咄嗟に身構えると、同じようにテオもまた音のした方を鋭く見つめていた。
私は、恐る恐るテオに話しかけた。

「い、今のって」

テオも聞こえましたよね?と彼を見ると、テオはちらりと私を見てから、自身の口元に人差し指を当てた。

静かに、ということらしい。
葉のこすれる音は止まらない。
それどころか──ひとの話し声まで聞こえてくる。

(ここは、近くに村もないってテオが言ってた……!)

ではなぜ、ひとがこんな辺鄙な森を訪れるの?
まさか、王家の追っ手だろうか。予想以上に早い。
がさがさという音はさらに近付いてくる。ひとの話し声も。

「──から──だろ?」

「──すが、──から……」

間違いなく、ひとだ。
獣ではない。
いや、もし現れたのがクマだったとしても結構なパニックだったと思うが、相手が王家からの追っ手だとしてもそうとうに厄介だ。
私はこそこそとテオに尋ねた。

「テオ、どうにかできませんか?」

ちら、とテオが私を見る。

「どうにかって?」

「こう、目くらましの魔法をかけたり、相手を昏睡させたり……!」

私の言葉にまた、テオが困ったものを見る顔になった。

「だからそんな高難易度魔法をほいほい使える人間はいないって……。あとオレがやろうものなら森一帯の動物に影響が出かねないし、最悪アンタにも魔法がかかる」

な、なんてこったーー!
テオが魔法の細かい調整を苦手としていることは既に知っていたが、まさかそこまでとは……!
さすがに、私まで魔法がかかるのはご遠慮願いたい。

(え、じゃあどうするの!?このまま大人しく見つかるしかないっていうの!?)

私はテオの服の袖を掴んで引っ張った。

「ど、どうするんですかテオ!」

テオは、私に服の袖を掴まれ、それを上下に揺すられながらも考える素振りを見せた。
もしかしたら私が「魔法でなんとかできないか」と尋ねた時から考えていたのかもしれない。

「方法ならひとつだけある。……でも、相手が敵かどうか分からないうちは、あまり取りたい手じゃない」

「おお!どんな手ですか……!?」

「それは──」

テオが答えた時、だんだん近付いていた声が、はっきりと聞こえるようになった。

「あー、しつこい。エレインは僕が連れて帰るって言っただろ。だいたい、なんでお前がついてくるんだよ。僕ひとりで問題ないって言わなかった?」

その声を聞いて、私は体が石のように固まった。
その声はどこかで聞いたことがあるような気がしたが──すぐには思い出せない。そんなことより、そのひとは、私の名前を口にしていた。

『エレインは僕が連れて帰る』

それはつまり、私を探している、ということだ。
私は強い意志を持ってテオの服の袖をもう一度掴む。テオも、その声が聞こえていたのだろう。
警戒するように声のした方向を見ていた。
私は小声でテオに言った。

「テオ、敵です!やつら、敵です!私の追っ手です!」

テオはちら、と私を見るだけで答えなかった。
代わりに取りだしたのは──。
手のひらサイズの、角笛。
彼はそっとそれの吹き口にくちびるを当てた。

……が、音は一切鳴らない。

(な、何してるのかしら……?)

私は不思議に思ってテオの肩を叩こうとしたが、なぜか彼に睨まれる。

(え?な、なんで?)

ふたたび困惑していたところで、声のした方向から悲鳴が聞こえてきた。

「うわあああ!殿下、クマですよ!クマ!」

「はぁ?クマの一頭ぐらい、こんな森の中なんだからいるにきまって──……は?数が多すぎるだろ……!!おい、逃げるぞ!」

「ま、待ってください!私靴を落とし、ああー!」

追っ手の数は、ふたりのようだ。

(今、殿下って言った……?)

いや、まさかのまさかよね。
国にふたりしかいない王子殿下が、わざわざ私を追いかけてくるはずがない。彼らは王城で指揮を執っていることだろう。
私が頷いたあたりで、テオに手を引かれた。

見ると、くい、と彼が頷いている。
今のうちに行こう、ということらしい。

私は彼に従って、その場を離れた。
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