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繋ぐもの
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「きみには!羞恥心というものがないのか!?」
「んっ、けほ、こほ。そんなことより、淑女の口をいきなり塞ぐだなんて酷いですわ!それに私は人形じゃありませんのよ!喋るし動くし、感情があるんですから!」
黙っていれば~系統の言葉はそれこそ両手の数で足らないほど言われてきたのよ。私は王女という立ち位置だから、直接は言われたことは少ないけれど。それでもそういう意図を含む言葉はたくさん言われてきた。そして、その度に返すのである。
『お人形遊びがお好きなら、王都に人気のビスクドール店がございますわ。いかがかしら』と。
そう言うと大抵の人間はいや、そんなことはフハハハと取り繕うように笑うのだ。稀にその店を紹介して欲しいという奇人もいるけれど。
私が妙に憤慨したからか、王太子殿下は珍しそうな顔をした。
「まあそうだろうね」
「……コホン。それより、お渡ししたいものがあるとお伝えしましたでしょう?」
私は気を取り直して、ポケットからサシェを取りだした。布袋に入った胡蝶蘭が、微かな甘い香りを運んでくる。
それを殿下に差し出すと、彼は受け取り、灯りに透かすようにしてみせた。
「サシェ?」
「昨日の……いいえ、今回の件に関するお詫びですわ。心ばかりですけれど」
「……………衣装棚にでも使えと?」
訝しげにフェアリル殿下がこちらを見る。そうよね。ふつう、たかがサシェを貰ったくらいで急にどうしたとしか思わないわよね。私は殿下の持つサシェを指さして言った。
「袋に布糸を通しています。首につけてくださいませ」
「このダサ………装飾具にしては大きすぎるものを首に通せと?」
ださいとはっきり言いそうになった殿下が言い改めるが、もう遅い。しっかり私は聞き取りましたわ。
「殿下の趣味には合わないかもしれませんけれど、それにちょっとしたおまじないをかけましたの」
言うが早いが、殿下がぱっとこちらを見る。そして私を上から下まで見て、瞳を細める。
そして、確かめるような口振りで言った。
何をそんなに警戒しているのかしら………?突然の殿下の様子に訝しく思ったが、彼の言葉を聞いて納得した。
「まじないが得意なんだ?」
「言っておきますけれど、加護の類ですわよ。あなたに悪影響はありませんからご心配なく」
「それをどう信じればいいのかな。また妙なことになっても困る。………これは返しても?」
「………では身につけなくてもいいから、机の中にでも閉まっておいてください。それだけで多少効果はあるはずですから」
「その加護というのが信用ならないんだ。魅了の類とは言いきれない」
失礼な。そう思ったが、彼は王太子で、この美貌だ。地位や見た目に惑わされたものたちにそういう術をかけられてもおなしくない。
(折角作ったけれど、仕方ないわ。回収するしかないさそうね)
彼が拒否するのなら仕方ない。押し付けがましいことは出来ないし。そう思って私は手を差し出した。
「では、それは私が持ち帰ります。申し訳ありませんでした、妙なものをお渡ししてしまって」
それでも突き返すことは無いじゃない!?
この男、脛をけってやりたい。そう思いながら手を出すが、しかしサシェは戻ってこない。何よ………?
「この加護はどの類?それに答えてもらってない」
「…………他言無用でお願いしたいのですけれど、癒しの力です」
「癒しの?」
「デスフォワードの王族に伝わる、秘事ですわ。我が国は他国より少し、魔法や呪術といったことに精通してますから。……とにかく、それは返してください」
「ふぅん………」
しかし要らない用無し持って帰れと言ったくせに、王太子はサシェを手放さない。あら?そこまでは言ってなかったかしら。だけどサシェを作るのだってそう簡単ではなかったのよ。王太子のお墨付きなくらい、私は不器用だし。
サシェは花を乾燥させて作るものだけれど、魔法の加減を間違えて一度灰にしてしまったくらいだし。
私が見ていると、王太子は「やはりやめた」と言った。
「は?」
「これは、やっぱり貰っておくよ。今までの迷惑料代わりに」
「………そんなものでいいの?」
「足りないくらいだけどね。………きみのことを信じる」
「そう………」
なんだかいちいち重たいなとは思ったけれど、王太子殿下にとってこういう贈り物がされるのは日常茶飯事なのかもしれない。怪しげな術や薬が盛られた代物が贈られることがよくあるというのは、少し可哀想にも思えるけれど。
でも、受け取ってもらえてよかったわ。無駄手間になるところだったもの。
「ふふ、大事にしてくださいませ。苦心して作ったのだから」
「本当に妙な魔法はかかってないんだな?」
「疑い深いわね。何もしてないわ。そもそも、あなたにそんな魔法をかけたところで私に得などないもの」
「………きみの目的は、僕との性交だったね?」
「でも私、略奪婚は好きではありませんわ」
それだけ言うと、フェリアル殿下ははあ、と大きくため息をついた。そして、サシェを持ったまま執務机へと戻る。
「これは貰っておくよ。お茶を持ってきてもらえる?」
「んっ、けほ、こほ。そんなことより、淑女の口をいきなり塞ぐだなんて酷いですわ!それに私は人形じゃありませんのよ!喋るし動くし、感情があるんですから!」
黙っていれば~系統の言葉はそれこそ両手の数で足らないほど言われてきたのよ。私は王女という立ち位置だから、直接は言われたことは少ないけれど。それでもそういう意図を含む言葉はたくさん言われてきた。そして、その度に返すのである。
『お人形遊びがお好きなら、王都に人気のビスクドール店がございますわ。いかがかしら』と。
そう言うと大抵の人間はいや、そんなことはフハハハと取り繕うように笑うのだ。稀にその店を紹介して欲しいという奇人もいるけれど。
私が妙に憤慨したからか、王太子殿下は珍しそうな顔をした。
「まあそうだろうね」
「……コホン。それより、お渡ししたいものがあるとお伝えしましたでしょう?」
私は気を取り直して、ポケットからサシェを取りだした。布袋に入った胡蝶蘭が、微かな甘い香りを運んでくる。
それを殿下に差し出すと、彼は受け取り、灯りに透かすようにしてみせた。
「サシェ?」
「昨日の……いいえ、今回の件に関するお詫びですわ。心ばかりですけれど」
「……………衣装棚にでも使えと?」
訝しげにフェアリル殿下がこちらを見る。そうよね。ふつう、たかがサシェを貰ったくらいで急にどうしたとしか思わないわよね。私は殿下の持つサシェを指さして言った。
「袋に布糸を通しています。首につけてくださいませ」
「このダサ………装飾具にしては大きすぎるものを首に通せと?」
ださいとはっきり言いそうになった殿下が言い改めるが、もう遅い。しっかり私は聞き取りましたわ。
「殿下の趣味には合わないかもしれませんけれど、それにちょっとしたおまじないをかけましたの」
言うが早いが、殿下がぱっとこちらを見る。そして私を上から下まで見て、瞳を細める。
そして、確かめるような口振りで言った。
何をそんなに警戒しているのかしら………?突然の殿下の様子に訝しく思ったが、彼の言葉を聞いて納得した。
「まじないが得意なんだ?」
「言っておきますけれど、加護の類ですわよ。あなたに悪影響はありませんからご心配なく」
「それをどう信じればいいのかな。また妙なことになっても困る。………これは返しても?」
「………では身につけなくてもいいから、机の中にでも閉まっておいてください。それだけで多少効果はあるはずですから」
「その加護というのが信用ならないんだ。魅了の類とは言いきれない」
失礼な。そう思ったが、彼は王太子で、この美貌だ。地位や見た目に惑わされたものたちにそういう術をかけられてもおなしくない。
(折角作ったけれど、仕方ないわ。回収するしかないさそうね)
彼が拒否するのなら仕方ない。押し付けがましいことは出来ないし。そう思って私は手を差し出した。
「では、それは私が持ち帰ります。申し訳ありませんでした、妙なものをお渡ししてしまって」
それでも突き返すことは無いじゃない!?
この男、脛をけってやりたい。そう思いながら手を出すが、しかしサシェは戻ってこない。何よ………?
「この加護はどの類?それに答えてもらってない」
「…………他言無用でお願いしたいのですけれど、癒しの力です」
「癒しの?」
「デスフォワードの王族に伝わる、秘事ですわ。我が国は他国より少し、魔法や呪術といったことに精通してますから。……とにかく、それは返してください」
「ふぅん………」
しかし要らない用無し持って帰れと言ったくせに、王太子はサシェを手放さない。あら?そこまでは言ってなかったかしら。だけどサシェを作るのだってそう簡単ではなかったのよ。王太子のお墨付きなくらい、私は不器用だし。
サシェは花を乾燥させて作るものだけれど、魔法の加減を間違えて一度灰にしてしまったくらいだし。
私が見ていると、王太子は「やはりやめた」と言った。
「は?」
「これは、やっぱり貰っておくよ。今までの迷惑料代わりに」
「………そんなものでいいの?」
「足りないくらいだけどね。………きみのことを信じる」
「そう………」
なんだかいちいち重たいなとは思ったけれど、王太子殿下にとってこういう贈り物がされるのは日常茶飯事なのかもしれない。怪しげな術や薬が盛られた代物が贈られることがよくあるというのは、少し可哀想にも思えるけれど。
でも、受け取ってもらえてよかったわ。無駄手間になるところだったもの。
「ふふ、大事にしてくださいませ。苦心して作ったのだから」
「本当に妙な魔法はかかってないんだな?」
「疑い深いわね。何もしてないわ。そもそも、あなたにそんな魔法をかけたところで私に得などないもの」
「………きみの目的は、僕との性交だったね?」
「でも私、略奪婚は好きではありませんわ」
それだけ言うと、フェリアル殿下ははあ、と大きくため息をついた。そして、サシェを持ったまま執務机へと戻る。
「これは貰っておくよ。お茶を持ってきてもらえる?」
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