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「はい。フランチェスカが私のリデルを愚弄するのです」
言うユーリスに、咎めるような視線。
フランチェスカはそれを受け流しながらもおった誤字をそのままに、顔だけ上げた。
「陛下、発言の許可を」
無法地帯も甚だしいこの場で礼儀に則る必要はもはやないのではないかとすら思えたが、しかしフランチェスカは貴族である。どんな無法地帯だろうとスラムであろうと、貴族としての矜恃を持ってそう振る舞わなくてはならない。貴族の矜恃?何それ美味しいの?状態の王太子には分からないだろうが、貴族とはこういうものである。権利があるから義務がある。フランチェスカは、貴族が優遇される代わりなその責務を果たすべきだという考えの持ち主だった。いや、正しく貴族であるならそれが普通である。
「…………本当か?」
かくして、国王からは湾曲的に返答を問われた。フランチェスカは目をふせて答える。
「真実をそのままに申し上げたのです。………陛下、誤解されないでいただきたいのですが、わたくしはユーリス様とリデル様の婚約に関していややはありません。むしろ、祝福しています」
「ならばよいではないか」
「ええ。…………本当に、おめでたく」
そう言ってフランチェスカは笑う。
愛らしい表情でにこりと。それはよく出来た人形のようで、リデルが眉をしかめたのが見えた。
くるくる表情が変わるリデルはなるほど、確かに人間らしく親しみやすさがある。
ビスクドールのごとく笑みを保ったままのフランチェスカでは人間味が足りないのだろう。必要最低限の発言しかせず、己の品位を下げないよう動いていたらいつの間にか同性からは嫌われ男性からは媚びられるようになった。
フランチェスカの苦々しい過去である。
これが、ループがもう少し前ーーー。
それこそ、幼少時に戻るものであれば、対策のしようもあったが戻るのは今日から数えて一週間前なのである。どうしようもない。
人間誰しも勘違いされる部分は多少なりともある。
例えば、切れ長の瞳に太い眉、少し厚めの唇、気難しそうな顔をした男性がいるとする。
そうすれば大抵の人間は彼が堅物だとか、気難しいだとか、そう言った印象を受けるだろう。
もし彼がその真逆の性格だとしても、それは話してみなければわからない。
これは大袈裟な例だが、人は誰しも勘違いされる部分というのは多少なりともある。
フランチェスカの場合、それが少し大きいだけで。
愛らしい顔は、男に媚びているように見えて女性に嫌われやすい。その高い声も含めて、だ。
フランチェスカはざっと周りを見た。
これでループが終わればいいが、続くのであればもう手の打ちようがない。
どうすればこのループが終わるのか何度も何度も考えた。時には王太子を殺傷し、時にはリデルに水をぶっかけ、時には王太子に往復ビンタしたりした。しかし何をしても次の日にはフランチェスカは一週間前に戻ってしまう。フランチェスカは観客を見渡して、にこりと微笑んだ。
リデルは『太陽の姫君』、『うららかな娘』といった呼び名がある。
対して、フランチェスカは『愛らしい天使』、『微笑みの姫君』といったあだ名がある。だけどフランチェスカのそれは悪意の裏返しだ。『愛らしい天使を装った悪魔』だとか『姫君を気取った悪婦』だとか影で言われているのをフランチェスカは知っていた。
「ですから………わたくしから、ふたりに祝福を贈りたいと」
「フランチェスカ様から、私たちに?」
国王が現れたのでさすがに敬称をつけるリデルに、フランチェスカは頷いた。そして、ひとつ指を鳴らす。そうすると、いつの間にか静まり返っていたホールにひとつの映像が浮かび上がってきた。魔法を使用した道具、魔道具を使って過去の映像を記録したものだ。
映像はどこかーーー学園の裏庭のようなところから始まっていた。
『待たせた?』
『あんまり。きみはいつも人気だからなかなか捕まらないね』
『うふふ、上手なんだから。でも、いいわ。私あなたのそういうところ好きよ』
突然流れ込んできた男女の声に、会場がざわめく。
フランチェスカが流した過去の映像だ。今から五日ほど前だろうか。国王が訝しげな顔をし、ユーリスがあからさまに疑問符を頭の上にうかべる。わかり易すぎる顔に出るユーリスにフランチェスカは内心侮蔑の目を向けた。
『私が王妃になったらあなたを愛人に取り立ててあげる。そうしたらあなたは官司ね!栄誉職よ?私に仕えなさい?』
『ふふふ、愛らしい姫君だ…………僕にはあの女よりきみのほうが【愛らしい天使】というあだ名が当てはまる気がするよ』
『やめてよ!あんな女と一緒にするの。あの女はほんとありえないわ。媚びてるし、声は高いし、気持ち悪いったらない。猫なで声よ?』
『ははは。辛辣だね。でも確かに、お人形みたいなフランチェスカより君の方が断然いい、愛してるよ、リデル』
『ふふん、知ってるわ。サイオス。私も好きよ?三番目に、ね』
『二番はフェリックスで、一番はユーリス様かな』
『ええ。まだまだいるんだから。私、愛されてるの』
ざわめく会場。
リデルの顔色が悪くなっていく。
言うユーリスに、咎めるような視線。
フランチェスカはそれを受け流しながらもおった誤字をそのままに、顔だけ上げた。
「陛下、発言の許可を」
無法地帯も甚だしいこの場で礼儀に則る必要はもはやないのではないかとすら思えたが、しかしフランチェスカは貴族である。どんな無法地帯だろうとスラムであろうと、貴族としての矜恃を持ってそう振る舞わなくてはならない。貴族の矜恃?何それ美味しいの?状態の王太子には分からないだろうが、貴族とはこういうものである。権利があるから義務がある。フランチェスカは、貴族が優遇される代わりなその責務を果たすべきだという考えの持ち主だった。いや、正しく貴族であるならそれが普通である。
「…………本当か?」
かくして、国王からは湾曲的に返答を問われた。フランチェスカは目をふせて答える。
「真実をそのままに申し上げたのです。………陛下、誤解されないでいただきたいのですが、わたくしはユーリス様とリデル様の婚約に関していややはありません。むしろ、祝福しています」
「ならばよいではないか」
「ええ。…………本当に、おめでたく」
そう言ってフランチェスカは笑う。
愛らしい表情でにこりと。それはよく出来た人形のようで、リデルが眉をしかめたのが見えた。
くるくる表情が変わるリデルはなるほど、確かに人間らしく親しみやすさがある。
ビスクドールのごとく笑みを保ったままのフランチェスカでは人間味が足りないのだろう。必要最低限の発言しかせず、己の品位を下げないよう動いていたらいつの間にか同性からは嫌われ男性からは媚びられるようになった。
フランチェスカの苦々しい過去である。
これが、ループがもう少し前ーーー。
それこそ、幼少時に戻るものであれば、対策のしようもあったが戻るのは今日から数えて一週間前なのである。どうしようもない。
人間誰しも勘違いされる部分は多少なりともある。
例えば、切れ長の瞳に太い眉、少し厚めの唇、気難しそうな顔をした男性がいるとする。
そうすれば大抵の人間は彼が堅物だとか、気難しいだとか、そう言った印象を受けるだろう。
もし彼がその真逆の性格だとしても、それは話してみなければわからない。
これは大袈裟な例だが、人は誰しも勘違いされる部分というのは多少なりともある。
フランチェスカの場合、それが少し大きいだけで。
愛らしい顔は、男に媚びているように見えて女性に嫌われやすい。その高い声も含めて、だ。
フランチェスカはざっと周りを見た。
これでループが終わればいいが、続くのであればもう手の打ちようがない。
どうすればこのループが終わるのか何度も何度も考えた。時には王太子を殺傷し、時にはリデルに水をぶっかけ、時には王太子に往復ビンタしたりした。しかし何をしても次の日にはフランチェスカは一週間前に戻ってしまう。フランチェスカは観客を見渡して、にこりと微笑んだ。
リデルは『太陽の姫君』、『うららかな娘』といった呼び名がある。
対して、フランチェスカは『愛らしい天使』、『微笑みの姫君』といったあだ名がある。だけどフランチェスカのそれは悪意の裏返しだ。『愛らしい天使を装った悪魔』だとか『姫君を気取った悪婦』だとか影で言われているのをフランチェスカは知っていた。
「ですから………わたくしから、ふたりに祝福を贈りたいと」
「フランチェスカ様から、私たちに?」
国王が現れたのでさすがに敬称をつけるリデルに、フランチェスカは頷いた。そして、ひとつ指を鳴らす。そうすると、いつの間にか静まり返っていたホールにひとつの映像が浮かび上がってきた。魔法を使用した道具、魔道具を使って過去の映像を記録したものだ。
映像はどこかーーー学園の裏庭のようなところから始まっていた。
『待たせた?』
『あんまり。きみはいつも人気だからなかなか捕まらないね』
『うふふ、上手なんだから。でも、いいわ。私あなたのそういうところ好きよ』
突然流れ込んできた男女の声に、会場がざわめく。
フランチェスカが流した過去の映像だ。今から五日ほど前だろうか。国王が訝しげな顔をし、ユーリスがあからさまに疑問符を頭の上にうかべる。わかり易すぎる顔に出るユーリスにフランチェスカは内心侮蔑の目を向けた。
『私が王妃になったらあなたを愛人に取り立ててあげる。そうしたらあなたは官司ね!栄誉職よ?私に仕えなさい?』
『ふふふ、愛らしい姫君だ…………僕にはあの女よりきみのほうが【愛らしい天使】というあだ名が当てはまる気がするよ』
『やめてよ!あんな女と一緒にするの。あの女はほんとありえないわ。媚びてるし、声は高いし、気持ち悪いったらない。猫なで声よ?』
『ははは。辛辣だね。でも確かに、お人形みたいなフランチェスカより君の方が断然いい、愛してるよ、リデル』
『ふふん、知ってるわ。サイオス。私も好きよ?三番目に、ね』
『二番はフェリックスで、一番はユーリス様かな』
『ええ。まだまだいるんだから。私、愛されてるの』
ざわめく会場。
リデルの顔色が悪くなっていく。
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