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閑話休題。

というわけでエレノアは諸々の関係から一縷の希望を抱いていた。希望とはつまり夢にまで見たサバイバル生活である。怠惰で堕落して好き勝手生きれる人生。
なんて素晴らしいのかしら。寝たい時に寝て、食べたい時に食べる。退廃的な生活を喉から手が出るほど欲しているエレノア。夢は諦めたらそこで終わりだ。

(いつだって人間は気合いさえあれば大抵の事はどうでもなるのよ…………!)

エレノアはその愛らしい顔に似合わず意外と根性論派だった。

そして、エレノアが確認したのはキャサリンの赤い糸だった。キャサリンはエレノアと会う度に嫌そうな目をして隠さずに嫌味を飛ばしてくるのでめちゃくちゃ苦手である。ぶっちゃけ近づきたくない。

だからそーっと彼女が視界に見える範囲で見ると…………

(うわーーー伸びてる。ぶっとい赤い糸、伸びてる)

チョーカーの幅ほどあるだろうか。ぶっとい赤い糸がどこぞに向かって伸びているのである。ちなみに両想いでなければ赤い糸は結ばれない。
その人の周囲で切れるのである。ちなみにリュミエールの周りは赤い糸だらけでぶっちゃけ恐怖すら覚えたエレノアである。
カインデルもまあ多かったが彼の場合女遊びが問題なので一回痛い目を見ればいいと思う。エレノアは非情だった。
エレノアの嫌いな男ランキング二位は女遊びをする男である。
ちなみに一位は俺様男。偉そうな男はお断りなのだ。むしろ這いずってでも愛を希う男がエレノアは好きだ。つまりエレノアは偉そうにしたいのである。

エレノアはキャサリンの赤い糸を見て閃いた。

(そうよ………そうだわ)

キャサリンは侯爵令嬢。
つまり、王太子と婚約しても何ら問題のない身分。加えて、王家とキャサリンの生家、レトリヴァー家は王家と懇意にしている家である。つまり、エレノアではなくキャサリンと結婚しても問題ないどころか推奨すらされるはずで。

(そういえば何で私との婚約が持ち上がったのだったかしら………)

エレノアに砂糖を吐くほど甘い父親はある日、エレノアに言ったのだ。

『王子様との婚約が決まったよ』

ーーーと。
そうだ、思い出した。あの時エレノアは絵本の王子様にどハマりしていて現実と物語の区別がついていなかったのである。エレノア五歳。まだアカデミーに通う年齢にすら足りないエレノアは父親に強請ったのだった。

『王子様が欲しい!!』

エレノアにでろ甘溶けそうなくらい甘い公爵といえどさすがに王子をこしらえることは出来ない。それで誂られたのがリュミエールとの婚約だったというわけだ。つまりこれはエレノアの希望通りなわけで。

(うわ………これで婚約破棄したいとか言ったら私ものすごいわがまま娘なのでは?)

エレノアは少しだけ常識人だった。
そんな常識が流れ込んできたがここはエレノアである。

(いや、でもあんな作り物みたいな王子様嫌なんだけど。物語の王子だってもっと人間味溢れてるでしょ。現に少女小説の王子は嫉妬に狂ってヒロインを監禁したり縛り付けたりしてるわよ)

エレノアの趣味は少し偏っていた。
少女小説趣味なエレノアだが読む小説があれなのである。
別にエレノアは監禁されたり縛られたりしたくないしもしされそうになったら窓でもぶち破って逃げる系の女だが、しかし優しいだけの王子様だと物足りないのである。

(それに私を愛してないしね………)

ここは肝心だ。エレノアは貴族令嬢には珍しい愛のある結婚をしたい娘だったのだ。

エレノアは帰宅すると即、ソフィアに言った。

「キャサリンとリュミエールの仲を応援しようと思うのよ」

自宅ではリュミエールを呼び捨てしているエレノアだった。
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