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二章

手遅れな██

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あの時、好きだ、と。
愛してる、と伝えていたら。

何かが変わっていたのだろうか──?

「──」

ラディールからもたらされた報告は、私の思考を真っ暗に染め上げた。
虚しくて、悔しくて、悲しくて──。

ああ。悲しみにも似た、哄笑を覚えた。

「……王妃陛下」

ラディールの目に同情が浮かぶ。
同情。
そう。今の私にぴったりな言葉。

つい先月、ルエイン様が第二妃になられた。
それに伴い、煌びやかな夜会が開かれ、反五大派筆頭貴族のステファニー公爵が、絶対の忠誠を陛下に誓ったことは記憶に新しい。

それで、それで──。

堪えたいのに、抑えたいのに。
目元が熱を持ち、泣きたくないのに、涙が溢れる。
だけどそれを、ラディールに見られるわけにはいかない。
私は小さく彼女に告げた。

「ひとりに、させて」

短い言葉は、蚊の鳴くような声になってしまった。顔を伏せて、ラディールに顔を見せないようにしていると、彼女はハッとした様子を見せて、そのまま恭しく頭を下げ、退室した。

──つい先日。

ルエイン様が懐妊した。





ルエイン様が第二妃入りを果たされてから、半年以上が経過した。
彼女が嫁いだのは夏の終わりだ。

夏の終わり。
蛍の仄かな灯りが消えるかのごとく、夏は呆気なく過ぎ去った。
代わりに訪れたのは、寒さを呼び込むような木枯らしの秋。
秋の入口から、瞬く間に私の周囲に変化が起きた。

窓の外から見える木々の葉が落ち、新緑が芽生える。

春が来た。
私は、窓辺に寄ると錠を開け、窓を開く。
初夏を感じ取れるだけの爽やかな風が、窓の向こうから吹き抜ける。
季節は巡る。私を置いて。

ルエイン様が第二妃に召されてから──それから、ロディアス陛下はこの部屋に戻ることはなくなった。
あれから、国王夫妻の寝室で睡眠を取るのは私だけ。
最初のひと月はそれでも彼を待っていたけれど、そのうちやめた。

ひたすら彼を待つだけの日々は虚しくて、悲しい。
私が彼の訪れを待っている間も、彼はルエイン様の元に通っているのだろう。
それを想像すると──とても、胸が痛くて。
悲しくて。悔しくて。涙がこぼれた。

同情に満ちた視線を向けられるのが、痛かった。
気遣われるのが、何よりも悲しかった。

だけどそれよりも──ルエイン様と寄り添う彼を見ることの方がもっと、ずっとずっと苦しかった。

覚悟はしていた。
理解もしていた。

だけどそれでも、いざそれを目の前に突きつけられて──自分が全く覚悟できていなかったことを知った。

目を背けるようになった。
意図して、彼らを避けるようになった。

ロディアス陛下と顔を合わせても、何を話せばいいかすら分からない。
だから自然、言葉は事務的なものになるし、その頃にはすっかり【王妃】の振る舞いが板についていた。
彼の言葉に是を返して、私もまた、王妃としてやるべきこと、できることを模索する日々。

慈善事業に精を出し、民と触れ合うことだけが私の癒しでもあった。
宮廷は、あまりにも窮屈で──私にとっての鳥籠だ。

悪意という棘をびっしり走らせた、鳥籠。

私はそこから、逃れることが出来ない。
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