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一章
姫君と性奴隷……?
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私の体に力が入ったことに気がついたのだろう。
私を抱き上げているロディアス陛下が気が付かないはずがなかった。
彼に尋ねられ、私はハッとして顔を上げた。
真っ直ぐに私を見るロディアス陛下の瞳と視線が交わった。
いつ見ても、綺麗な瞳だと思う。
それは、太陽の陽射しを受けた湖面の輝きによく似ている。
それでいて、スパークリングワインのような、揺れる発泡を秘めている。
透明度の高い色合いが混ざり合い、煌めきにも似た泡沫が、弾けるように見える。
魅入られてしまう。
その、美しい瞳に。
私は彼の肩に置いた手にぎゅっと力を込めた。
そして、そろそろと顔を隠すようにして彼の肩に顔を埋める。
正直に答えるには、あまりにも羞恥を誘った。
彼の、綺麗すぎる瞳を見つめて答えることは、難しかった。
「……いや、では……」
ありません、という声はとても小さくなってしまった。
彼との行為を受け入れるのは──それを肯定することは、さながら進んで強請っているように思えてしまって、羞恥に胸がきゅうと絞られた。
縋るように肩に置いた手に力が入る。
「そう。なら、良かった。嫌がる女を無理に組み敷くのは趣味じゃないんだ。これでもね」
「……趣味、とか……あるのですか?」
怖いもの見たさでで、思わず尋ねてしまっていた。子を成す行為はひとつのはずで、それに種類があるとは思えない。
不思議に思い顔を上げると、彼は──ロディアス陛下は、何とも言えない顔をしていた。
困っているようにも見えるし、バツが悪そうにも見えた。
「……?」
「そう……だね。そうだったね……。きみはまだ、十六歳で、社交界デビューしてから一年しか経っていない。淑女になったばかりだった」
「……」
実際は、ランフルアの社交界に出たのは片手で数える程度なので、しっかり社交をこなすようになったのはレーベルトに来てからだ。
だけどそれを口にしたらますます子供扱いされそうで、私は口を噤んだ。
ロディアス陛下は、寝室に入り、ベッドへ向かいながら呟くように言った。
「きみは大人しいし、歳の割に落ち着いているだろ?だからつい、忘れてしまいそうになる」
……そのまま、忘れてくれていて構わないのに。
そんなに、私の発言は稚いものだっただろうか。
幼子のようなものだっただろうか。
自問するが、なにがいけなかったのか分からない。
もしかして、彼の思う『大人』になるのは、ある程度夜の知識がなければならないのかもしれない。
そんなことを考えていると、私をシーツに寝かせ、ロディアス陛下が苦笑した。
「何も知らないきみに、教えていく……というのは、何とも言えない後ろめたさと罪悪感があるな。……でも、きみは僕の妃だ。だから、何をしても後ろ指を刺されることはないし、僕が責められる謂れはない」
「?は、はい……。そのとおりです」
何を言いたいのか、よく分からない。
私が困惑していると、ロディアス陛下が私の手を取って、手の甲に口付けを落とした。
「つまり、純真無垢なきみを僕好みに染め上げることも許される、ということだよ」
「…………」
その意味をしっかりと理解できたわけではないが、卑猥な話であることはわかった気がした。
私が黙り込むと、ロディアス陛下がまた苦笑する。
「じゃあまず、手始めに僕の趣味を教えてあげようか」
「……この行為に、趣味というものが存在するのですね」
小さく呟いた声は、自分で思っているよりも拗ねたものになってしまい、焦る。
子供扱いされたのが、思った以上に不服だったようだ。ハッとして取り繕うように口を開くが、その前にロディアス陛下が笑って答えた。
「うん、そう。あのね、きみは僕としかしたことがないし、僕との行為を一般的だと思っているでしょう。でも違うんだよ。世の中には、もっと色々なプレ……嗜好を凝らすものがいる。そうだな……例えば、従僕に性奴隷の真似事をさせている姫君もいる、という話をきみは知らないでしょう」
「せい……?せい……。……!!」
せいどれい。
それがすぐには脳内で変換されず、何拍か遅れて気がつく。
性奴隷。
つまり、性的に奉仕する人間のことを指す。
私はその言葉のあまりの衝撃に、固まってしまった。
硬直する私を見て、ロディアス陛下がにんまりと笑う。意地悪な色を帯びた瞳だ。
夜の義務を果たす時、彼はこんな目をすることが多い。
「きみはランフルアの王女だったね。……じゃあ、今からきみは僕の仕える姫君で、僕はきみに買われた性奴隷、ということにしよう」
「なっ……!?」
思わず、驚きのあまり腰を浮かしかける。
起き上がろうとするのを、彼は制して私の指先に口付けた。
まるで、忠誠を誓う騎士のように。
「……王女殿下。本日も、あなたのお気の召すままに奉仕いたしましょう。何をお望みですか?」
「ややっ、やっ、やめ、やめてください……!!」
恥ずかしさと驚きで、様々な感情が吹っ飛んだ。起き上がって彼の肩を押し、跪く彼を止めようとする。
しかし、その手はやんわりと彼に掴まれてしまう。
「……まずは、快楽を極められますか?姫君は、気持ちのよいことが好きでしょう」
「なっ……な……!?」
「お喜びいただけて、私めも嬉しく思います。さあ、横になってください。姫君はただ、寝ていらっしゃればよろしいのです。全ては私にお任せください」
「ろ、ロディアス陛……」
「お戯れを。今ここにいるのは、姫君の下僕であるロディアスですので」
「……。………………」
どうしよう。
どうしたらいいのだろうか。
どうすれば、陛下を止められる?
というか、これは何?
私はランフルアの王女。
それは正しい。
だけど……ロディアス陛下が性奴隷?
下僕??
(ちょ、ちょっと……何を仰っているのか分からないわ……!!)
私を抱き上げているロディアス陛下が気が付かないはずがなかった。
彼に尋ねられ、私はハッとして顔を上げた。
真っ直ぐに私を見るロディアス陛下の瞳と視線が交わった。
いつ見ても、綺麗な瞳だと思う。
それは、太陽の陽射しを受けた湖面の輝きによく似ている。
それでいて、スパークリングワインのような、揺れる発泡を秘めている。
透明度の高い色合いが混ざり合い、煌めきにも似た泡沫が、弾けるように見える。
魅入られてしまう。
その、美しい瞳に。
私は彼の肩に置いた手にぎゅっと力を込めた。
そして、そろそろと顔を隠すようにして彼の肩に顔を埋める。
正直に答えるには、あまりにも羞恥を誘った。
彼の、綺麗すぎる瞳を見つめて答えることは、難しかった。
「……いや、では……」
ありません、という声はとても小さくなってしまった。
彼との行為を受け入れるのは──それを肯定することは、さながら進んで強請っているように思えてしまって、羞恥に胸がきゅうと絞られた。
縋るように肩に置いた手に力が入る。
「そう。なら、良かった。嫌がる女を無理に組み敷くのは趣味じゃないんだ。これでもね」
「……趣味、とか……あるのですか?」
怖いもの見たさでで、思わず尋ねてしまっていた。子を成す行為はひとつのはずで、それに種類があるとは思えない。
不思議に思い顔を上げると、彼は──ロディアス陛下は、何とも言えない顔をしていた。
困っているようにも見えるし、バツが悪そうにも見えた。
「……?」
「そう……だね。そうだったね……。きみはまだ、十六歳で、社交界デビューしてから一年しか経っていない。淑女になったばかりだった」
「……」
実際は、ランフルアの社交界に出たのは片手で数える程度なので、しっかり社交をこなすようになったのはレーベルトに来てからだ。
だけどそれを口にしたらますます子供扱いされそうで、私は口を噤んだ。
ロディアス陛下は、寝室に入り、ベッドへ向かいながら呟くように言った。
「きみは大人しいし、歳の割に落ち着いているだろ?だからつい、忘れてしまいそうになる」
……そのまま、忘れてくれていて構わないのに。
そんなに、私の発言は稚いものだっただろうか。
幼子のようなものだっただろうか。
自問するが、なにがいけなかったのか分からない。
もしかして、彼の思う『大人』になるのは、ある程度夜の知識がなければならないのかもしれない。
そんなことを考えていると、私をシーツに寝かせ、ロディアス陛下が苦笑した。
「何も知らないきみに、教えていく……というのは、何とも言えない後ろめたさと罪悪感があるな。……でも、きみは僕の妃だ。だから、何をしても後ろ指を刺されることはないし、僕が責められる謂れはない」
「?は、はい……。そのとおりです」
何を言いたいのか、よく分からない。
私が困惑していると、ロディアス陛下が私の手を取って、手の甲に口付けを落とした。
「つまり、純真無垢なきみを僕好みに染め上げることも許される、ということだよ」
「…………」
その意味をしっかりと理解できたわけではないが、卑猥な話であることはわかった気がした。
私が黙り込むと、ロディアス陛下がまた苦笑する。
「じゃあまず、手始めに僕の趣味を教えてあげようか」
「……この行為に、趣味というものが存在するのですね」
小さく呟いた声は、自分で思っているよりも拗ねたものになってしまい、焦る。
子供扱いされたのが、思った以上に不服だったようだ。ハッとして取り繕うように口を開くが、その前にロディアス陛下が笑って答えた。
「うん、そう。あのね、きみは僕としかしたことがないし、僕との行為を一般的だと思っているでしょう。でも違うんだよ。世の中には、もっと色々なプレ……嗜好を凝らすものがいる。そうだな……例えば、従僕に性奴隷の真似事をさせている姫君もいる、という話をきみは知らないでしょう」
「せい……?せい……。……!!」
せいどれい。
それがすぐには脳内で変換されず、何拍か遅れて気がつく。
性奴隷。
つまり、性的に奉仕する人間のことを指す。
私はその言葉のあまりの衝撃に、固まってしまった。
硬直する私を見て、ロディアス陛下がにんまりと笑う。意地悪な色を帯びた瞳だ。
夜の義務を果たす時、彼はこんな目をすることが多い。
「きみはランフルアの王女だったね。……じゃあ、今からきみは僕の仕える姫君で、僕はきみに買われた性奴隷、ということにしよう」
「なっ……!?」
思わず、驚きのあまり腰を浮かしかける。
起き上がろうとするのを、彼は制して私の指先に口付けた。
まるで、忠誠を誓う騎士のように。
「……王女殿下。本日も、あなたのお気の召すままに奉仕いたしましょう。何をお望みですか?」
「ややっ、やっ、やめ、やめてください……!!」
恥ずかしさと驚きで、様々な感情が吹っ飛んだ。起き上がって彼の肩を押し、跪く彼を止めようとする。
しかし、その手はやんわりと彼に掴まれてしまう。
「……まずは、快楽を極められますか?姫君は、気持ちのよいことが好きでしょう」
「なっ……な……!?」
「お喜びいただけて、私めも嬉しく思います。さあ、横になってください。姫君はただ、寝ていらっしゃればよろしいのです。全ては私にお任せください」
「ろ、ロディアス陛……」
「お戯れを。今ここにいるのは、姫君の下僕であるロディアスですので」
「……。………………」
どうしよう。
どうしたらいいのだろうか。
どうすれば、陛下を止められる?
というか、これは何?
私はランフルアの王女。
それは正しい。
だけど……ロディアス陛下が性奴隷?
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