【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。

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1.春を司る稀人と、冬の王家

馬鹿にしないで

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「馬鹿に、しないで」

震えた声が出た。
涙が滲む。ああ、これはアマレッタわたしの想いだ。彼への好意を、気持ちを、さんざん踏みにじられて、利用されて。良いようにされて、嘆き、悲しんでいる私の気持ちだ。



ぐ、と手に持った扇を強く握る。
エミリアは、困惑した顔で私を見ていた。

エミリアは、いい娘だ。
恋愛小説のヒロインなのだから、当然だろう。お人好しで、優しくて、親切で、少し引っ込み思案で。それでも、いざというときは動くことの出来るいい娘だ。

彼女から見た私は、意地悪な女性なのだろう。
恋路を邪魔する悪役、って感じ。

「私は、第二妃になどなりたくありません。だけど、だからといってもう、あなたの正妃にもなりたくない。婚約を解消してください、殿下」

彼は、私の言葉に驚いたようだったけど、やがて苦笑した。まったく、本気にしていない。

「なにを言ってるんだ?そんなの無理に決まってるだろう。きみが、春を司る稀人である限り、僕たちの婚約は解消されない」



私は、春を司る稀人だ。
この国は少し特殊で、古から続く神秘が色濃く残っている。三大公爵家と、王家には代々、季節を司る稀人が生まれる。

我が家、バートリー公爵家は【春】。
王家は、【冬】。



季節を司る稀人は、セミュエル国の四季のために必ず必要な人物だ。
だからこそ、三大公爵家に生まれた稀人は、歳が近い場合必ず王家との婚約を強制される。
私と、セドリック様がそうだった。

「とにかく、きみには第二妃になってもらう。エミリアに思うところはあるのかもしれないけど、僕はきみなら──」

「殿下は、私とあなたの婚約がなぜ結ばれたのか、もちろんご存知でしょう?知らないはずがない。あなたは、この婚約の重要性を知った上で、彼女を選んだ。それなら、それで良いではありませんか。私が第二妃として居座れば、彼女も居心地が悪いのではありませんか?」

彼女の立場からしてみたら、私は彼女たちの恋路を邪魔する悪役なのだろう。



(横恋慕してきたのは、エミリアのはずなんだけどなぁ……)

想い合うふたりを咎め、無理難題を押し付けるのは、私の方なのだ。彼らの中では、そうなっている。

「エミリアなら、これも納得の上だ。僕が国の王になる以上、これも仕方のないこと。だいたいきみには、稀人の自覚がないんじゃないか?セミュエルに季節をもたらすためには、僕ら【稀人】の神秘が必要だ。きみも知ってるだろ」

「その言葉、そっくりそのままお返しします。再三になりますが、殿下はご自身の責務より、愛を取られたのでしょう?なら、それでよろしいではありませんか。私は、祝福します」

「祝福?きみが?」

セドリック様は、鼻で笑った。
そして、私の頬に手を伸ばす。
予想外のことで、反応が遅れてしまった。彼の手が、私の頬を撫でる。


瞬間、ゾッとした。


これまで、彼のために生きていると思ったのに。彼への想いだけで、私は辛い日々を乗り越える、乗り越えなければ、と。
そう思っていたのに。

咄嗟に、彼の手を振り払っていた。

「っ嫌……!」

セドリック様は、つまらなそうに鼻を鳴らした。

「きみの気持ちは知っている。強がるのはやめなさい」

「何ですって……?」

「少し頭を冷やした方がいい。アマレッタ。きみには、きみの良さがあるんだ。どうかそれを、潰さないで」

「は、はぁ……?」

呆気にとられて、声も出ない。
思わず、あんぐりと口を開けている間に、彼はエミリアになにか話しかけていた。

ちら、と彼が私を見る。
彼の口が、なにかを示すようにパクパクと動いた。
王太子妃教育の一環で、読唇術も仕込まれている。だから、彼が何を云っているのか、私にはわかった。



『ま・た・あ・と・で』



(ま……た、後で、ですって?)
 

は、はああ……!?

馬鹿にしているにも程がある。

エミリアは、不安そうにしながらも頷いていた。彼はもう、私を見ていない。

話し合いを拒んだのは、彼だ。
私の言葉を軽んじて、私の声を無視したのは、彼の方だ。


そもそも、彼にとって私などどうとでも出来る、使い勝手のいい駒にしか過ぎないのだろう。
物語を読んだために、彼が私をどう思っているかも分かっている。


未だ、ほんの少し胸が痛む。それはきっと、恋をしていた。その、事実は消えないから。だからこそ、胸が痛いのだと思う。

セドリック様は、エミリアを連れて部屋を出ていってしまった。
城内の応接室に残されたのは、私ひとり。
侍従が、恐る恐る私に声をかけてくる。

「【春】を司る稀人──アマレッタ様。馬車の用意が出来ております」


つまり、帰れ、ということか。
ここで、彼に詰め寄ったところで意味などない。
それがわかっているから、私は内心ため息を吐いた。

「……ええ。今日のところは、帰ります」

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