ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。

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レジナルド・リームヴ

待っていた知らせ

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「ありがとう。あなたは、素晴らしい王太子妃だった。国元に戻ったら、良縁をーーー。いや、幸せになってくれ。今まで、ありがとう。………リリーナローゼ」

「殿下……………っ」

ぶわっと涙腺が緩み、静かにリリーナローゼは泣いた。この先、何が待っていようともこの言葉だけで救われた気がした。レジナルドはリリーナローゼのその表情を眺めながら、複雑な顔をうかべた。リリーナローゼは俯いていてレジナルドの表情は見えない。

(つくづく、私は救えないな………)

レジナルドは人知れず、息を吐いた。
リリーナローゼには悪いことをした。せめて、あの夜。一週間前の夜に抱いてやれれば良かったかもしれない。リリーナローゼとて、それが引っ掛かりになっているのだろうから。
だけど、ダメなのだ。きっと自分の体はそれが出来ないだろうし、この複雑奇怪な状況で安易にそういった行為に及ぶこともレジナルドはよくないと理解していた。リリーナローゼと契ってなお、リリネリアを娶るのは恐らく可能だろう。

だけど、リリネリアはーーー。彼女の心は、きっとそれを是としない。繊細な問題だと思う。特に、性行為をほのめかすそれはリリネリアにとっては何においても忌避すべきものなのだろう。地雷と言っても良かった。

自分は上手く立ち回っている、といえば聞こえがいいが実際は耳障りのいい言葉を流しているだけだ。リリーナローゼは、育ちのいい箱入りの王女様はそれに気がついていないだけ。

リリーナローゼが書類に署名をすると、ようやく離縁の手続きが終わった。国民や諸外国に告知するのはもう少し時間を持たせた方がいいだろう。
カイゼルに支えられたリリーナローゼが執務室から出るのを横目に、レジナルドは目を閉じて呼吸を整えた。そうすれば、すぐさま眠気と疲労が押し寄せてくる。今にも眠りの縁に立たされそうで、やがてレジナルドはゆっくりと目を開ける。侍女にコーヒーを用意させよう。そうすれば多少この眠気は何とかなるだろうから。

父王に言わなかった3つ目ーーー。
それは、リリネリアとの約束を果たす、というものだった。

あの薔薇園でした約束。

それを、レジナルドは違えず叶えるつもりだった。そのためなら、どんなことでもする。必要であれば、その手を赤く染めることも厭わなかった。




必要最低限の手回しを済ませ、レジナルドはできるだけ急いで辺境の地へと戻ってきた。
それでもあれから一ヶ月以上がたっていてーーー。レジナルドは焦っていた。あまりにも長く空けすぎたからだ。リリネリアとはやく会いたい。そして、話をしたい。彼女は誤解をしている。彼女は未だに、その暗闇に囚われている。

だから、教えたかった。そして、伝えたかった。

今更こんなことを言うのはおこがましいかもしれないけれど、自分はリリネリアを愛しているのだと。

ずっと、ずっと。初めてあったあの日から。リリネリアだけを見てきたと。

だから、また笑ってーーー。
リリネリアに、また笑って欲しかった。

しかし、それを嘲笑うように辺境の地へと戻ったレジナルドに伝えられたのは、リリネリアの行方不明の知らせだった。

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