上 下
34 / 71
リリネリア・ブライシフィック

家族会議

しおりを挟む




「ーーー!エリザベート様、それは………!!」

ガーネリアの焦った声を無感情に聞きながら、くるりと振り返った。ガーネリアは苦しそうな顔をしていた。この十年間、ガーネリアのそんな顔は初めて見た。私は彼女の顔を見てから、またもや無機質な声で続けた。

「なんてね。あなたは優秀だから、クビになんて出来ないわ。あなたがいないと、何かと困っちゃうもの」

「エリザベート、様…………」

「だけど、ガーネリア。あなたは、あなたに与えられた仕事をするだけでいいの。…………分かるわね?」

「はい…………」

「それじゃあ、いいわ。二度目はないから、気をつけてね」

私はそう言うと、そのまままた階段をおりた。随分急いでいたようだし、もうレジナルドたちはいないだろう。木造りの階段を降りるとやはり既に彼らの姿はなかった。薬屋はやはり酷い有様だ。私は今日はもう帰ろうと思った。掃除は明日にすればいい。
私は階段をおりきると、未だに2階にいるガーネリアに声をかけた。

「ガーネリア、帰るわよ」




彼はーーーレジナルドはああ言っていたから、次の日にでも押しかけるかと思いきや、次の日になっても。その次の日になってもレジナルドはやってこなかった。そして、代わりに来るのがーーー

「おっ、今日も別嬪さんだねー。ふたりとも、残念だな。ルドの件さえなければ声掛けてたのに」

この軽薄男のエレンだった。エレンはなぜか朝から晩、つまり店の営業開始から営業終了まで店にいる。正直言って邪魔である。一度遠回しに邪魔だと伝えたところ、置物だと思って欲しいと言われた。こんな動いたり喋ったりする置物はいらない。そう思って正直に邪魔だと告げれば、これが俺の仕事だと言われ、結局エレンはそのまま店にいついてしまった。

「いやぁ。なんでもルドはさぁ。調べものがあるっていきなり王都に戻っちゃって」

黙っている私に性懲りも無くこの軽薄男は話しかけてくる。カチャカチャと手元だけに集中して私は材料を混ぜ合わせてくる。この匂いの強い薬草は痛み止めのある効能のあるものだ。これにリラックス効果のあるハーブを合わせて、と手を動かしていれば、私の返事など期待してなどいないというようにエレンが言葉を続けた。

「なんでも、家族会議するらしいよ?アイツ」

「…………」

家族会議、という言葉にぴくりと手が止まる。家族会議、というのはどう見たって穏やかではない。レジナルドはただの一般人ではない。レジナルドは王太子である。そんな彼の意味する家族会議、とはーーー。私の手が止まったのを見て、エレンは少しだけその口元を緩めた。そして手持ち無沙汰なのか飾ってある花の茎をつんつんと触りながら続けた。

「お父様に聞きたいことがあるんだってさ」

「……………」

私は、とめた手を動かしてまた薬草をすり潰し始めた。苦い匂いがあたりに充満する。私は無造作にその作業を繰り返しながらエレンに尋ねる。

「それを私に聞かせて、どうしたいんですか」

「おっ。やっと喋った」

その声を聞いて、私ら内心舌打ちした。しくじった。言わなきゃよかった。だけどエレンがなぜわざわざ私にその話をするのか分からなくて、つい口に出してしまっていた。エレンは「んー」と口篭りながら花の茎をさらにつんつんといじっている。無闇矢鱈に触るのはやめて欲しい。

「いや、心当たりあるのかな、と思って」

「……………私は、ただの薬師です。辺境の薬師とあの方に一体なんの関係があるというのですか?」

「さぁ?あるかもしれないじゃない?ルドはただの騎士だし」

そう言われてまたやられた、と思った。
レジナルドの正体を知っているのだろうとエレンに探りを入れられているのだと気づく。レジナルドの臣下らしいエレンはおそらくある程度の話をレジナルドから聞いているのかもしれない。それでいて、私から真実を引き出そうとしている。どいつもこいつも、勝手に首を突っ込んできていい加減嫌になってくる。私は嫌悪に胃をムカムカとさせながらも口を閉ざした。答えれば答えるほど、墓穴を掘る気がした。
だけどエレンはそれ以上その話を広げる気は無いのか、今度は雪の話をし始めた。引き際がいいのもおそらく、彼の手腕のひとつなのだろう。その切り替えの良さに反吐が出る。
放っておいてくれればいいのに。構わないでくれればいいのに。もう、どうだっていいのに。だって、全てが今更なのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ
恋愛
【完結しました】 アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。 だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。 気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。 「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」 アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。 敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。 アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。 前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。 ☆ ※ざまぁ有り(死ネタ有り) ※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。 ※ヒロインのパパは味方です。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。 ※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。 2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!

婚約者の心の声が聞こえてくるんですけど!!

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢ミレイユは、婚約者である王太子に聞きただすつもりだった。「最近あなたと仲がよろしいと噂のミシェルとはどんなご関係なの?」と。ミレイユと婚約者ユリウスの仲はとてもいいとは言えない。ここ数年は定例の茶会以外ではまともに話したことすらなかった。ミレイユは悪女顔だった。黒の巻き髪に気の強そうな青い瞳。これは良くない傾向だとミレイユが危惧していた、その時。 不意にとんでもない声が頭の中に流れ込んできたのである!! *短めです。さくっと終わる

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...