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リリネリア・ブライシフィック
家族会議
しおりを挟む「ーーー!エリザベート様、それは………!!」
ガーネリアの焦った声を無感情に聞きながら、くるりと振り返った。ガーネリアは苦しそうな顔をしていた。この十年間、ガーネリアのそんな顔は初めて見た。私は彼女の顔を見てから、またもや無機質な声で続けた。
「なんてね。あなたは優秀だから、クビになんて出来ないわ。あなたがいないと、何かと困っちゃうもの」
「エリザベート、様…………」
「だけど、ガーネリア。あなたは、あなたに与えられた仕事をするだけでいいの。…………分かるわね?」
「はい…………」
「それじゃあ、いいわ。二度目はないから、気をつけてね」
私はそう言うと、そのまままた階段をおりた。随分急いでいたようだし、もうレジナルドたちはいないだろう。木造りの階段を降りるとやはり既に彼らの姿はなかった。薬屋はやはり酷い有様だ。私は今日はもう帰ろうと思った。掃除は明日にすればいい。
私は階段をおりきると、未だに2階にいるガーネリアに声をかけた。
「ガーネリア、帰るわよ」
彼はーーーレジナルドはああ言っていたから、次の日にでも押しかけるかと思いきや、次の日になっても。その次の日になってもレジナルドはやってこなかった。そして、代わりに来るのがーーー
「おっ、今日も別嬪さんだねー。ふたりとも、残念だな。ルドの件さえなければ声掛けてたのに」
この軽薄男のエレンだった。エレンはなぜか朝から晩、つまり店の営業開始から営業終了まで店にいる。正直言って邪魔である。一度遠回しに邪魔だと伝えたところ、置物だと思って欲しいと言われた。こんな動いたり喋ったりする置物はいらない。そう思って正直に邪魔だと告げれば、これが俺の仕事だと言われ、結局エレンはそのまま店にいついてしまった。
「いやぁ。なんでもルドはさぁ。調べものがあるっていきなり王都に戻っちゃって」
黙っている私に性懲りも無くこの軽薄男は話しかけてくる。カチャカチャと手元だけに集中して私は材料を混ぜ合わせてくる。この匂いの強い薬草は痛み止めのある効能のあるものだ。これにリラックス効果のあるハーブを合わせて、と手を動かしていれば、私の返事など期待してなどいないというようにエレンが言葉を続けた。
「なんでも、家族会議するらしいよ?アイツ」
「…………」
家族会議、という言葉にぴくりと手が止まる。家族会議、というのはどう見たって穏やかではない。レジナルドはただの一般人ではない。レジナルドは王太子である。そんな彼の意味する家族会議、とはーーー。私の手が止まったのを見て、エレンは少しだけその口元を緩めた。そして手持ち無沙汰なのか飾ってある花の茎をつんつんと触りながら続けた。
「お父様に聞きたいことがあるんだってさ」
「……………」
私は、とめた手を動かしてまた薬草をすり潰し始めた。苦い匂いがあたりに充満する。私は無造作にその作業を繰り返しながらエレンに尋ねる。
「それを私に聞かせて、どうしたいんですか」
「おっ。やっと喋った」
その声を聞いて、私ら内心舌打ちした。しくじった。言わなきゃよかった。だけどエレンがなぜわざわざ私にその話をするのか分からなくて、つい口に出してしまっていた。エレンは「んー」と口篭りながら花の茎をさらにつんつんといじっている。無闇矢鱈に触るのはやめて欲しい。
「いや、心当たりあるのかな、と思って」
「……………私は、ただの薬師です。辺境の薬師とあの方に一体なんの関係があるというのですか?」
「さぁ?あるかもしれないじゃない?ルドはただの騎士だし」
そう言われてまたやられた、と思った。
レジナルドの正体を知っているのだろうとエレンに探りを入れられているのだと気づく。レジナルドの臣下らしいエレンはおそらくある程度の話をレジナルドから聞いているのかもしれない。それでいて、私から真実を引き出そうとしている。どいつもこいつも、勝手に首を突っ込んできていい加減嫌になってくる。私は嫌悪に胃をムカムカとさせながらも口を閉ざした。答えれば答えるほど、墓穴を掘る気がした。
だけどエレンはそれ以上その話を広げる気は無いのか、今度は雪の話をし始めた。引き際がいいのもおそらく、彼の手腕のひとつなのだろう。その切り替えの良さに反吐が出る。
放っておいてくれればいいのに。構わないでくれればいいのに。もう、どうだっていいのに。だって、全てが今更なのだから。
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