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リリネリア・ブライシフィック

とっても面白いお話

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白金色の髪に、エメラルド色の瞳…………。目じりにはほくろがあって、全体的に柔和な雰囲気を覚える人…………。しかも、私のことをさっき『リリネリア』と呼びかけた。間違いない。きっとこの人はーーー

ーーーレジナルド………………

記憶の彼方にある名前を引っ張り出して、私は笑いたくなった。

あの時の彼はさながら天使のような顔立ちだったが、今は10年の時を経て青年になっている。街を歩けば恐らく女性が放っておかないだろう優男を前に、私は笑みを抑えることが出来なかった。

なぜ、レジナルドがここにいるのかはわからない。本当にレジナルドなのかもわからない。だけどそれでいい。

別に確かめる気にもならなかった。どうでもいいから。このレジナルドもどきが、レジナルド本人であろうともうどうでもいいのだ。今更、私に何の用だというのだろうか?そもそもレジナルドであるのであれば、彼は婚姻をあげたばかりだろう。 

わざわざ私に逢いに来たとは考えにくい。ということは、偶然遭遇したのだろうか?今更、なんのつもり?贖罪?笑わせる。どうでもよかった。本当に。
レジナルドーーーいや、ルドと言ったか。彼に掴まれた手首は骨がふるえるように小刻みに揺れていた。

どうでもいい。本当に、この人が幸せになろうが不幸になろうが私には関係ない。

あの日、レジナルドから裏切られたーーーいや、騙されていたと気づいた日以来、もうそんなのはどうだってよくなっていた。そう言えば、あの頃から王女のことを想っていたレジナルドは今頃幸せ絶頂というところなのだろう。気持ち悪い。気持ち悪くて、面白い。吐き気がするほどおかしくて、涙が出るほど狂おしい。幸せになればいい。不幸になればいい。絶望を味わえばいい。忘れればいい。相反する気持ちがぐるぐるとかきまわる。

「………手荒なことをしてすまなかった。少し、確認したいことがあっただけだから」

目の前の青年は私から目を逸らしながらそう言った。確認したいこと?何を?わざわざ私の手に触れたのにはなにか理由があった?どうでもいいけど、触れられた場所が気持ち悪くて仕方ない。早く洗いたい。

「騎士様であろうと、許されない蛮行です…………!おおやけに抗議してもよろしいのですよ!」

ガーネリアが怒りのこもった声を上げる。それにルドは目を伏せて詫びた。

「いや、本当にすまない。無理矢理家に押し入ったことも合わせて、謝罪する。…………エリザベートさん。ひとつ聞きたいんだけどーーー」

「もう結構です。さっさとお引き取り下さい。これ以上お話することはありません」

ガーネリアが半ば無理やりルドの腕を掴んで家の外に追い出そうとする。私はそれを見ながら、踵を返した。ガーネリアの言う通りだ。聞く必要も無いし、話す必要も無い。そもそも私に何を聞こうというのだろうか。
ルドがレジナルドだとしても、どうでもいい。早く消えて欲しかった。

「あーあー、ルド、何やってるんスか。ガーネリアさん、すみませんね。この人、女性に慣れてないんでスよ」

「だから何ですか?」

「ええー?それを聞かれると困っちゃうな」

軽薄な言葉でエレンと呼ばれた男が答え、ガーネリアはふたりまとめて部屋の外に追い出した。最後までレジナルドは何か言いたげにその視線を私に向けていたが、それすら苛ただしかった。
目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。ガーネリアがため息をついて、玄関の扉を施錠する。

「はぁ………災難でしたね」

ガーネリアが言うのを聞きながら、私はガーネリアをちらりと見た。そして、一言彼女に告げる。

「ねぇ、その髪飾り」

「はい?」

「捨てておいて」

ガーネリアは一瞬、わけがわからなかったようだがすぐにはっとして畏まった。

「かしこまりました」

「私はもう………寝るから」

「おやすみなさいませ、エリザベート様」

「…………」

エリザベート様、というのも気に入らない。私はただのエリザベートになったというのに、未だに丁寧に仕えるガーネリア自身にも苛立ちを募らせた。
あの髪飾りはもういらない。必要ない。男に触れられたと言うだけで気持ちが悪い。そんなものをまたつける気にはなれない。もとよりどうでもいい品だった。小物屋で偶然目に着いた、毒々しい紫色。それに、何となく魅入られてしまっただけ。髪飾りなんて使えればそれで十分だ。今流行りの、桃色のガラス細工でできたような繊細なそれなんて、驚くほど私には似合わない。穢れを知らない天使の細工品がこれほど似合わない女もいないだろう。私がつけても滑稽なだけ。まるで、似合わない服を着て踊るピエロのようなものだ。
私は自分でも訳が分からないくらいに胸が弾んでいた。いや、弾んでいる、というのはおかしい。興奮している?面白くて、笑っちゃいそう。自分の左手首にそっと触れる。服の下に隠れた傷跡に思いを馳せながら、今の激情をぶつけるにはちょうどいいと思った。






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