婚約者の心の声が聞こえてくるんですけど！！

3-1

(甘いものが苦手であれば間違いなくうへっとなるものだわ)

実際自分の弟で既に試し済みである。哀れ犠牲となった弟はミレイユの予想通りうへっとなっていた。
一口飲んで、ユリウスは優雅に瞼を伏せた。その様子からはとてもではないがうへっとなっている感じはしない。
だけど。

【あっ……………ま！！なにこれ、嫌がらせかな…………！？ミレイユ僕が甘いもの苦手って知ってるよね……………！？あっま。あっますぎて吐きそう。うわっ………いやでもミレイユはこれが美味しいと思って出してくれたわけで、………………ハーブティー飲みたい…………】

いや、ミレイユも正直このくどすぎる甘さはノーセンキューである。表情は何ら変わらないユリウスだが、僅かに眉がよっているように見える。その表情もどこか硬そうだ。

「………これは、甘い、ね。ミレイユはこういうのが好き？」

その声も、いつもであれば責められているように聞こえただろう。自分が苦手なものを出すなんてどういうつもりなのかと暗に言われてるように思っただろう。だけど今日はそうは受け取らずに、ミレイユは目をぱちぱちさせながらも笑みを浮かべた。

「ええ、まあ………」

【いや絶対嘘だ。ミレイユもこんなくどい甘さは好きじゃないだろ。第一………ああ、甘い………本当甘い。仕方ないからダークチョコレートでも食べるか】

ユリウスは不意にテーブルの上に置かれたカカオ90%のチョコレートに手を伸ばした。これで確定した。この言葉は、頭に流れ込んでくる声はユリウスのものである…………！！
つまり、これはユリウスの考えていること。それを知ってミレイユは固まった。つまり、つまり、だ。今までのあの、朝のミレイユは、だとか泣かせたいだとか、そういうのも含めて全部、ユリウスの本心だったわけだ…………！！

ミレイユはまたしても意識を手放したくなってしまった。

＊＊＊

次の日。
最近なかなか話す機会が得られなかったフラヴィアと昼食を共にすることになった。
フラヴィアとの時間が取れなかった理由は簡単だ。フラヴィアが家の事情で海外に行ってたからである。最後にフラヴィアに会ったのは一か月前。フラヴィアが長期休暇を取得する前日に偶然寮の前であったのである。その一瞬だけだったからこんなに長く話すのは実に一か月ぶりとなる。

(幻聴が幻聴でないことはわかったけど…………)

薔薇はなんなのだろうか。この薔薇は本物なのだろうか？だとしたら、なぜフラヴィアのものは灰色なのか………。幻聴が本物だとわかった以上薔薇もただの幻影ではないだろうと思われる。だけどなぜ、フラヴィアのものは灰色なのか………。ミレイユは変わらず色の変わらない灰色のものを眺めては、内心ため息を吐いた。