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いつもおっとりと微笑んでいるミレイユの顔が紙のように白くなる。それに気付いたユリウスが僅かに眉を寄せた。

「ミレイユ?」

【ああ、ミレイユはどんな顔をしていても可愛いな。ぽってりした唇もぽつんとしたホクロも色っぽくて可愛い。は~~~~~早く結婚したい】

ミレイユは卒倒しそうになった。
お高く止まっているように見えるミレイユだが、その逆もいいところだった。実はミレイユは色恋沙汰の耐性が全くと言っていいほどなかった。何より、婚約者の相手がこのユリウスである。ミレイユ同様完璧なまでに表情を取り繕ったユリウス相手では発展するものも発展しなかったのである。昔はまだ良かった。昔は気の強いミレイユと、ニコニコしつつそれを見守るユリウス、という図があった。だけど厳しいお后教育を経て、ミレイユは鉄仮面と言ってもいいそれをゲットし、ユリウスとの仲は隔たれた。

(ちょ、ちょっと待って…………ついに、わたくし、おかしくなったの………………)

「…………ミレイユ?どうかした?」

【いつも白いけど、今はもっと白いな。ああ、可愛い。その瞳が涙に濡れたらどんなに可愛いんだろうな。泣かせてみたいな。だけどそうしたらミレイユに嫌われてしまうからーーーやるとしたら初夜かな。いや、でもいきなりそんな………酷くしたらミレイユが可哀想だな。可哀想だけど、でもやっぱり可愛い…………早く結婚したい。学園を卒業したら婚姻だっけ。早く卒業したいな……………朝のミレイユも可愛いんだろうな。ミレイユは朝が弱くて寝起きが良くないから】

(あーーーーー!!!)

内心ミレイユは絶叫した。
耐性のないミレイユである。よくわからないが分からないなりに恥ずかしいことだけは理解した。そもそも朝のミレイユってなんだ、と思った。確かにミレイユは朝が弱い。弱すぎて今でも侍女に起こされる時は水をかけられる一歩手前にならなければ目が覚めない。

だけど、だけども………!

(何よこれ、わたくしの幻聴?わたくしの願望?で、でもわたくし!こんなの望んでいないわ………………!!)

ミレイユは半ば混乱しながらもすっくと席を立った。若干その青い瞳は泣きそうである。そう言えばさっき、ユリウスは不穏なことを言ってなかったか。ミレイユを泣かしたいだとかなんとか。ミレイユは薄ら寒くなった。そして、万が一それが自分の幻聴だとしたらいよいよ倒れたくなった。もしかしたら自分には痴女の才能があるのかもしれない。

「わ、わたくし……………今日は気分が悪いようなので、申し訳ありません。退席させていただきますわ……………」

震えることなく言い切ったのはさすが王太子妃教育の賜物である。しかし顔は紙のように白い。
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