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さんじゅーきゅう

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独り言を漏らしながら、私はシャフィナを見る。相変わらず彼はまっすぐと私を見ていた。

「シャフィナ、アメリアを呼んできて。出立の準備を」

こくり、とまたひとつシャフィナが頷いた。

少ししてからアメリアが戻ってきて外出の許可をもぎとってきたことを私に知らせた。そして、殿下の伝言があるということも。

「殿下は外出についてあまりいい顔をされませんでした。ですが、必要であれば仕方ない、とも。そして………外出するのであればシャフィナだけでは心配だからラーセルを連れていくようにと仰せでした」

「………そう」

やっぱりラーセルを連れていかないとだめか。
外出の許可すら降りない可能性から考えると、だいぶ譲歩してくれていると思う。ここで余計な真似をすればすぐにでも私は怪しまれるだろう。
例えばラーセルを連れていきたくない、なんていえば怪しまれるのは避けられない。………仕方ない。ラーセルも連れていこう。ちょうどいいタイミングだ。
どんな時でも前向きに捉えていかなければ。ちょうどラーセルと話すタイミングを得られたと考えられればラーセルつきも悪くない。

「分かったわ、じゃあ、行きましょう」

アメリアに支度を手伝ってもらって出かける用意をする。あまり時間はかけられない。私たちは急いで城下町へ目指した。
アメリアのことは信頼している。いや、100%信頼できるかと聞かれたらそれは微妙なところだが、それでもラーセルよりはいいだろう。

私はただ、婚約を破棄して自由になりたいだけなのに。
いや違う、私はただ、生きたいだけ。
なのに生きるということがこんなにも大変だとは思わなかった。それもこれも、私の生まれが理由なのだろう。公爵家の娘であり王太子の婚約者であればそう簡単に婚約を破棄することも町娘へと身を落とすことも難しい。
でも私はそれを果たしたい。

「薬屋に用事ってなんだよ?」

裏庭に出ると既にラーセルが待ち構えていた。随分早い到着だと思う。王太子の行動が見えない以上、やはりその従者であるラーセルにも警戒してしまうのは仕方ないと言える。
私は務めて冷静にラーセルに答えた。

「美容のお薬よ」

「んなもん、侍女に取りに行ってもらえばいいだろ」

「それがそうもいかないのよ。まあ、あなたには言えないけどね。乙女の秘密に土足で踏み入れるなんて野蛮よ?」

「ああそうかよ。でもお前、城の現状分かってるんだろう?美意識が高いのはいいことだろうがそれで死んだら意味ないぞ」

「分かってるわ」
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