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にじゅーさん

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「殿下、ごきげんよう」

「突然押しかけてごめんね。先触れは届いたかな」

「いえ……」

先触れ出てたのかよ。
先触れより早くついてどうする。私の微妙な反応に、殿下も気づいたのだろう。少し眉を下げて彼が言う。

「………先触れより早くついてしまったようだね。すまない」

「いえ。それより殿下、一体どのようなご要件でいらっしゃいますか?」

私は今自分の時間だったのだ。それを邪魔され、あまつさえ遠出とか絶対嫌である。そう思って声をかけると、殿下はその長い足を組んで私に答えた。

ーーー場所は広間。

殿下は少し微笑んで私に言った。

「うん、お出かけの誘いに来たんだ」

「差し支えなければいつのご予定がお伺いしても?」

「明後日とかどうかな」

今すぐかと思いきやまさかの明後日。
今から行こうと言われたらすぐに断るつもりだっただけに、少し拍子抜けしてしまった。

「明後日………ですか?」

「うん。………どうかな、王家所有の湖に行こうかと思うんだけど」

「………」

本当は行きたくない。だけど明後日なら体調不慮も使えない。そもそも王族の誘いを断るのは不敬だ。仕方なく私は頷いた。

「かしこまりました。では、明後日」

その明後日、突然の腹痛や頭痛に襲われないといいのだけど。精神的なストレスや負荷から来る頭痛や腹痛であれば、避けようがないですものね?
そう思って答えると、殿下が息を呑んだ。そして、すぐさまはぁ………と息を吐く。

「………良かった。断られたらどうしようかと思った」

断る気満々でしたけれど。
そう思ったものの、口には出さない。私はちらりと殿下を見て、ずっと気になってることを聞いた。

「………殿下は、私のことを好きではないのですよね?ではなぜ、私とご結婚したいと思われるのですか」

そう聞くと、殿下は少しだけ目を見開いた。まさか聞かれるとは思っていなかったのだろうか。膝の上の手を組みかえて、彼は神妙な面持ちて告げる。

「そうだね………。たしかに、僕はきみのことを好きじゃないし、恋というものもよくわからない」

今思ってもとても婚約者に言うセリフではないわよね。
だけどそんなのは今更だ。殿下の言葉を見守る。

「でも、これは最後のチャンスだと思う」

「……どういうことですか?」

「僕は、たしかにきみとの交友をずっと避けてきたーーーサボってきたという自覚がある。それは事実だ」

「……はい」

殿下はそこで顔を上げた。その透き通るような瞳を映す。私はこの瞳が、大好きだったことを思い出した。

「もし、巻き返すチャンスがあるのだとしたら。それはここだと思う。結果がどうであれ、僕はここで諦めたくない。最後くらい婚約者として真摯でいたいと思った」
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