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はち
しおりを挟む今、この場で必要なのは浮気………というより、不誠実行為が露見するのを恐れる王太子を口で負かすこと。
王太子を口で負かすなんて普通なら無理だ。この王太子、普段は無口であまり話さないがその実勉強はできるし、次世代の王としての威厳も若くしてある。つまり、シアにうつつを抜かした以外は立派な王太子なのである。まあ、シアにうつつを抜かした時点で私の彼への評価は氷河期なのだけれど。
普段ならきっと王太子には叶わない。だけど、この場限りで有用なものがある。そう、それは……
「うっ………わ、わたくし、わたくしは…………知ってるのです」
王太子は私を見ていたが、ややあってからはぁ、とため息を零した。
その仕草がものすごくイラッときたので顔を手で隠しながら口角をにこりとあげる。
「シャーロット、僕らは一度話し合った方がいい」
はあ??今更??絶対嫌なんですけど。
「アメリア………あれを出して?」
私はそれに取り合わず俯き、手で顔をおおったまま告げる。女の最大の武器ーーー、それは、そう!女の涙!
一度限りの戦法だが、おそらくこの場では役に立つだろう。何せ私は今まで公の場で泣いたことなどない。私がポロポロと涙をこぼしながらアメリアを呼ぶと、さすがに驚いたのか王太子が息を飲むのがわかった。
ふふーん、このために私、ものすごく練習したんだから!口内を思い切り噛んで、その傷口を舐めるとあまりの痛みに涙が出る仕様なのよ!やり方がやり方なので、あまり多用は出来ないけれど。
「はい。こちらにございます」
アメリアは突然泣いた私に動揺していたが、さすが私の侍女。すぐに書類を渡してくれた。
私は片手で顔を押えたまま、それを受けとり、王太子に差し出す。目があうと睨みつけそうだったから視線は外しておく。この時ばかりは不敬だとか言われないだろう。きっと。多分。
それを見た王太子が眉を顰めてそれを受け取る。そして、小さく舌打ちしたのが分かった。わお、お行儀悪い。彼が舌打ちしたのを見たのは今までの人生全てひっくるめて初めてだった。
「一応聞いておこう。これは何かな」
「………殿下と、異世界の少女の密会様子を詳らかにした書類でございます」
「……密会」
苦々しげに王太子がいう。ははん!これでもう言い逃れは出来ないわね!?私はそろそろ乾きそうな涙をなんとか瞬きでかわかないよう尽力して、告げる。
「昨日のパーティも、殿下は彼女をエスコートしました。その時、わたくしがどんな思いだったかご存じですか?」
「……すまない」
おっ?意外に素直に謝ったが、しかし謝ってすむなら法廷はいらない。私は首を振って答える。あくまで私が悪い、というスタンスは崩さない。
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