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1章

さよなら、馬。また会おう、馬

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 あれ?
 なんか暗くない?

 せっかく日焼けバージョンの私になろうと日向ぼっこでぽかぽかしてたのに、もう日が落ちた?

 ううん、日が落ちるのは突然過ぎるから、たぶん太陽が雲に隠れたんだと思うけど……。


「雨でも降るの?」

「いや、雨雲ではない」


 雨雲じゃないの?
 じゃあ何?
 曇り空?


「常闇の地に、主も心当たりがあるだろう」


 そりゃもう、住んでますから。
 つまりこの辺りは、城の周辺と同じってこと?

 城の周辺って確か、アンデッドの瘴気であんな風になってるんだよね?
 ってことはこの辺りにもアンデッドが……?


「アンデッドの根城がある。我と同程度とは言わぬが、それなりに強力な主がいるのであろう」


 やっぱり、テイム予定のモンスターってアンデッドなんだね。
 クリスの口ぶりから何となく分かってたけどね。
 食糧気にしてたし。

 猫とかだと、食糧がいるからよほど強力じゃないと割に合わないって言ってたから。

 じゃあこれからテイムするモンスターは、食糧がいらないんだって思うじゃん?
 食糧のいらないモンスターってどんな?
 精霊とか?
 もしかしたら樹木のモンスターだったりして!

 そんな風に現実逃避していたけれど、やっぱりアンデッドなんだね。
 うん、分かってたよ。


「常闇が出来るほど、アンデッドの瘴気に満ちているのだ。テイムすれば、さぞ強力な戦力となろう」


 うん、合理的だね。
 クリスってほんと合理的だよね。

 私の我が儘とか、要望には合理的でなくても応えてくれるけど、それは私が主だからだし、それ以外の場面では本当に合理的だ。

 合理的な人って、女の子には嫌われるよね。
 頼りにはなるんだけどね。

 もっとこう、情緒とか、風情とか、そういうの大切にしない?
 人間はさ、感情があるからこそ人間なんだよ?

 クリスはリッチだから人間じゃないって言うかもしれないけど、合理的なだけじゃ生きててつまんないよ?

 何が言いたいのかって言うと、もっともふもふとか、もふもふとか、もふもふとか、仲間にしても良いんじゃない!?

 そんな余裕はない?
 はい、すみません。

 今はお城を保持出来るかどうかの瀬戸際だったね。
 こんな状況で合理性無視して趣味に走ったら、殺されちゃうかもしれないしね。

 我が儘言うにしても、状況を考えて言う女だよ、私は。

 今はともかくローコストでハイクオリティの戦力が欲しいところだったね。

 うわっ!
 なに?
 馬?
 急に止まんないでよ。

 どうしたの、馬?
 ツヤツヤのタテガミを撫でてみるけれど、なんだか震えてるみたい。

 どうしたの、馬?


「瘴気に中てられたのだろう」

「瘴気って、この場所、馬に毒なの?」

「馬というよりも生物にとって毒だな。主はテイムスキルも持っているし、不老だから瘴気程度で影響は受けぬが」


 あー、そう言えば最初の頃にそんなこと言ってたっけ。
 普通の人間にはアンデッドの瘴気は毒になるんだよね。

 モンスターと共にいるためのテイムスキルには、弱い瘴気耐性も付いてるみたいな。

 何の影響もなく普通に暮らしてたから、すっかり忘れてたよ。
 テイムだけじゃなくて、不老になったことでも瘴気の影響受けなくなったんだね。


「不老ならば、アンデッドの放つ死のエネルギーには影響を受けぬからな」


 アンデッドの瘴気って、死の恐怖を掻き立てるの?

 不老だと、殺されでもしないと死なないから、影響が少ないと。
 まあ、私は不老になる前から瘴気の影響なんてなかったけどね。

 テイムには弱い瘴気耐性があるって言ったけれど、神様から貰ったテイムは特別製だから、瘴気耐性が強くなってるくらいのサービスはあるのかもしれない。

 ともあれ、ここから先、馬には乗っていけないみたいだ。

 私たちは馬から降りて、太陽が出ている方へと逃がす。

 さよなら、馬。
 また会おう、馬。

 まあ用事が終わったら今日中にもう一度会うんだけどね。

 ここからは徒歩だ。
 えっさほっさと歩いて行く。

 徐々に周囲は暗くなっていく。

 今はまだ遠くに太陽が見えているから視界があるけれど、もう少し歩いたら城の周辺みたいに完全な闇に包まれるのだろう。

 その前にクリスが魔法で明かりをつけてくれる。
 太陽が届かなくなったということは、すでにここはアンデッドの領域だ。

 ぼこり、ぼこりと土が盛り上がり、あちこちからスケルトンが這い出して来る。
 私にとってはもはや見慣れた光景になっているのが恐ろしいが。

 手荒い歓迎が始まったのだ。
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