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1章

ユキナっていうんだよ!

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 ダンジョンを放置して森を出る。

 今は何も出来ることはない。

 結界とか張っとけば良いんじゃないの?

 って私は思ったんだけど、一時的な結界ならともかく、城にあるような設置型の結界は時間も掛かるし道具も必要になるらしい。

 道具もなしに結界を張っても、この場所からクリスが離れたらすぐに解除されてしまう。
 それじゃあ意味がないので、放置して本来の目的地に向かうことにしたのだ。

 道具があったところで何日も掛かるらしいけどね。

 再びクリスの背に乗って、シュバ、シュバ、と忍者のように木々の枝を駆け抜けていく。

 こ、怖い……。

 けど、来た時よりは大分マシだ。

 慣れた、というわけではなくて、クリスがスピードを緩めてくれているのだろう。

 ばさぁ、と最後の枝を突っ切って、地面に着地する。

 とーちゃーく。

 これからどうすんの?
 移動するのは分かるんだけど、馬いないよ?
 馬探すの?

 ぴゅいぃ!

 おー、口笛上手いね。
 っていうか口笛って舌と唇で音出すんじゃないの?
 何で骸骨なのに口笛吹けるの?

 それいうなら何で喋れるのかって根本的な問題にも行き当たるけどさ。

 あ、なんか来る。

 遠くの方に小さな点のような物があって、こちらに向かって駆けてくる。

 馬だ。
 馬が戻って来た。

 口笛で戻って来るの?
 さすがに飼い慣らされた馬は違うね。

 私もやってみたいかも。
 ふひゅー、ふひゅー……。

 まずは口笛の練習からだね。

 馬に乗ったら出発だ。
 もちろん手綱はクリスが握って、私はぼんやりと座っているだけだ。
 眠っても落とされないし、怒られない。

 てっとてっとと走り出す。

 クリスに乗った後だと馬の駆け足ってちょーゆっくりに感じるよね。
 もっと速く走ってほしいって感じるくらい。

 そういえば鞭とかないの?
 馬を走らせるって言ったら鞭でしょ?

 鞭を入れるのは競走馬だけ?
 普通の馬には入れないんだね、鞭。

 痛いもんね。

 もしも私が馬だったら、走ってる途中に鞭なんて入れられようなものならば、『ちゃんと走ってんだろ、このやろー』ってブチ切れると思うよ。
 むしろ走らなくなると思うよ。

 徐々に速度は上がったけれど、なんかのほほんとした時間だね。
 一般道の自動車くらいは速度出てるんだけどね。

 異世界の馬はやっぱり異世界だけあるよ。

 ぽかぽか。
 日向ぼっこ。

 城には陽光のように光るライトはあっても、日向ぼっこなんて出来なかったから、こういう時間も貴重だよね。

 人間は太陽に当たらないとビタミンEが作れないんだっけ?

 まあ、この世界にビタミンとかいう概念があるのか知らないけどね。

 骨が動き、魔法がドピューで、幽霊もいて、猫が虎みたいになる世界だから。

 人間の体だって、どうなってるんだか分からない。

 LVが上がれば超人みたいな動きが出来るのは、冒険者たちを見て知ってるしね。

 うーん、気持ち良い。
 日向ぼっこもたまにはいいね。
 日焼けが気になるけどね。

 私、不老になったらしいけど、ご飯を食べなきゃお腹空くし、うんちも出るし、日焼けだってするんだよね?

 一時的なもの?
 自然回復スキルあるから、日焼けしてもすぐに元に戻る?

 それじゃあ、日焼けしたい人は大変だね。
 毎日ヒサロ行かないと。

 シミとか皺にもならない?
 それは嬉しいけどね。

 じゃあ存分に日焼けして、ユキナちゃん黒バージョンを見せてあげるね。

 ユキナって私の名前だよ?
 覚えてる?

 クリスは私のこと主、主っていうけど、ちゃんと名前知ってるのかな?

 あれ? そう言えば名前を聞かれたっけ?
 …………うん?

 この世界来てから、誰にも名前聞かれてないような気がする。
 いや、でも、ステータスには書いてあるし……って、私のステータスは私にしか見えないんだった。

 私はテイムモンスターのステータスを見ることが出来るけれど、その逆は出来ないみたいだ。

 クリスも、私のステータスは見れないはずで、だったら私の名前を覚えてるどころか……最初から知らない?

 え!?
 嘘でしょ!?

 もう三か月も一緒にいるんだよ?
 クリスは骸骨だけど、私にとっては家族の一人みたいな感覚になってたのに、もしかして名前知られてない?

 ねぇ、クリス。
 私の名前、ユキナっていうんだよ。


「ふむ、覚えておこう」


 覚えておくってことは、知らなかったってことなのね!

 なんてことだろう。

 この人、名前も知らない相手に三か月も仕えてたらしい。
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